003:after
ヘタリア 普独
001:accident(仏独)の続き





ヴェスト、と彼にだけ許された名を呼んでプロイセンは最終的にドイツの部屋に辿り着いた。
「ここに居たのかヴェスト!返事ぐらいしろよ」
頬を膨らせて不貞腐れたようなその様子は彼より百年単位で年下の弟よりも子供っぽく見える言動だったが、敢えてそれを指摘せずにドイツは覚めた病人食を口にしながら氷枕を指差して限りなく簡潔に現状を述べた。
「こういう状況だからな…」
プロイセンがくるりと目を丸くして大声で問う。
「風邪?なんで?!」
プロイセンの白い顔が一瞬にして青ざめる。その頭に駆け巡る状況を察してドイツは先手を打った。
「別に敗戦後インフレなんかじゃない。ちょっと感染されただけだ」
「馬っっ鹿だなぁ!」
「言うな。多少は気にしてるんだ」
先手はドイツの首を絞めただけにすぎなかった。
「さっきフランスと擦れ違ったんだけど、あいつに看病してもらってたのか?奴にあんまり借り作ると後で何されるかわかんねーぞ」
『後で』か、とドイツは嘆息した。しかし先ほどフランスにされかけたことを喋る気にはならなかった。己の沽券に関わる気がしたから。それにあの男は兄の友人である。過去に生きた兄の財産の一つにわざわざ罅をつけるわけにはいかない。
そこまで考えて考えて、ぞわりとした感触が背筋を這った。
ドイツのこういう性格を知った上であの言動に出たとしたら…?
いや、奴は愛という名の衝動で動く男だ。頭では分かっていても鳥肌は止まない。この寒気は風邪のせいか、それとも。

「このスープはフランスのか?あ、冷めてやんの。温めてきてやるよ」
そう言ってベッドの側をはなれようとしたプロイセンのその腕をドイツはとっさに掴む。
「どうしたヴェスト」
「あ、いや…」
何故自分がそのような行動に出たか分からないまま、ドイツは言葉を濁した。しかし救世主の腕を放したくはなかった。
「…もう少しそばにいてくれ、兄さん」
言ってから、あまりの子供っぽさに頭のてっぺんまで紅潮するのが分かった。
その頭をプロイセンが空いてる手で撫でる。
「おう、お前が寝るまで此処にいてやるよ」
「すまない」
「病気のときぐらい遠慮なく甘えろって!ただでさえ一人でいろんなもん背負いこみすぎなんだからよ!」
「ん…」
反論しようと口を開こうとしたが、満たされる安心感に自然と瞼が降りるのみだった。



「あれ、ヴェスト? …意外とあっさり寝たな」
プロイセンはドイツを見て、小さく溜息をついた。それこそ目に入れても痛くないくらい可愛がっている弟が助けを求めているときに、一人楽しく旅行していたことを後悔して。
ドイツは体調管理に気をつけているし近年は戦争もなく仕事以外では無茶をしない人間だから、こういう事態があることを想定していなかった。苦労性で世話焼きの弟の事だから大方誰かの看病をして伝染されでもしたんだろう、と推測した。根拠はないながらもそう外れてはいないだろうとプロイセンは思う。
加えてドイツは変にお人よしなところがある。
つまり、同じことは再び起こる可能性があるということだ。

自分が楽しんでいるときに邪魔されるのは嫌だという理由のみで、プロイセンは携帯を持っていなかった。しかしそれを考え直さなければいけないときが来たようだ。
すっかり眠りの奥に落ちたドイツの手をそっと持ち上げて、プロイセンは手の甲に唇を落とした。
「お前のためだけに鎖に繋がれてやるよ、ヴェスト」






「after:〜のあとに」
普が携帯持とうと思うまでの経緯が書きたかっただけなのに、なんで前編後編になる長さに。
あ、フランス兄ちゃんの言動に悪意は全くないです。ドイツが病床のマイナス思考に陥ってるだけっす。





004:baby
ヘタリア 日+普





日本がドイツ邸のリビングで一息ついていると、扉の方から快活な声が飛んだ。
「あれ、日本?久しぶりだな!元気してたか?」
「ええ、お陰様で。そちらもお元気そうで」
「隠居生活が暇すぎて死にそうな以外は絶好調だ」
ワインレッドの瞳を細めてケセセセと笑った男――プロイセンは家の主の不在にすぐさま気づいて眉を顰めた。
「大事な友達を一人でこんな素っ気無い部屋に残して、馬鹿弟は何やってんだ」
「今日はイタリア君と三人でお出かけするつもりだったんですけど、約束の時間から1時間経っても来なかったので叩き起こしにいきました」
「あの子は電話鳴ったくらいじゃ起きねえからなぁ…。あ、紅茶冷めてんじゃねえか。淹れ直してやるよ」
お構いなく、という日本の声もろくに聞かずプロイセンはすぐにティーポットと茶菓子を二人分揃えて、日本の隣に座った。
「行動が迅速なのはあいつの良いとこだけど、客のもてなしも出来ないような奴にお兄ちゃんは育てた覚えはありませんっての」
ぶつぶつと唇を尖らせる彼を見て、この人は『国』でなくなっても変わらないんだなぁ、なんてことを思い日本は声を潜めて笑った。


日本とプロイセンの初めての出会いもドイツ邸であった。
200年ほど引き篭もってた極東の島国が新しい時代に向けて憲法を学びたいと、ユーラシア大陸をほとんど丸々越えてきたというだけで、日本がプロイセンの記憶に残るには充分であったし、また日本からしても、開国してから出会った外国人の顔は皆同じにように見えていた中でプロイセンの銀髪赤眼という派手な特徴は忘れ難かった。
簡単な挨拶をしてから、本題に入り憲法の授業のようなものを行ったのだが、プロイセンが人に教えることに慣れていることに日本は些か驚いた。
一通り話が終わってから日本がそのことに触れると、プロイセンは仕事用の真面目な顔を思いっきり崩して一から教育してやったという弟自慢を始めた。
なんでも、かっこよくて強くて運動神経も良くて、寡黙で賢そうで(そのへんが俺とそっくりだな!と饒舌な彼が付け加えたので日本は曖昧に返事をした)、感情表現が苦手なのにそこがまた可愛くて云々。
彼が語る話から想像される『ヴェスト』の人物像は成長期の子供のように聞こえたのに、日もとっぷり暮れた頃に来たがっちりした体躯の長身の青年をその名前で呼んだのには、表情に出ないようにしながらも少なからず驚いたものであった。


そしてほとんど変わらぬ容姿と口調で(もちろんそれに関してはお互い様なのだが)、現在日本の隣で紅茶を啜りながら文句のような兄バカを披露していた。
「昔は俺が帰ってきたときには門まで出迎えに来てくれて、そりゃあもう天使かと思うくらい可愛かったのに!いつからあんなに無口で無愛想な子になっちゃんたんだか…、いやそれはちっさい頃からか。でも兄に思いやり対する思いやりが欠けてるぜ、まったく!なんで頭撫でてるだけなのに手を払い除けられなくちゃならないんだ」
ぶつぶつぶちぶち。
同じような愚痴を、そのときは本人から直接聞いた事があると日本は思った。

『ほんの千年前は我の肩にも届かないほど小さかったあるのに!日本に文字や文化を出来の教えて賢く育てたのは誰だと思ってるあるか!血が繋がってようと繋がってなかろうとお前は我の弟も同然ある。もっと年上に敬意を払い愛情を持って接するよろし』
そのときは、「私も大人になって充分経ったんです」と少しだけ遺憾の意を示しただけに終わった。しかし、日本にとっての「充分」は四千年生きた彼にとって「ほんの」以下の存在であったらしく、さっぱり理解してもらえなかったようだった。

(地球で一番大きな大陸の東の端と遙かな西側に分かれていても、兄というものは同じできっと弟というのも同じなのでしょうね)
くすくす、と潜めきれない声で笑うとプロイセンが怪訝な顔をした。
「俺、なんかおかしなこと言ったか?」
「いえいえ、ちょっと思い出し笑いを。プロイセンさんが、私の兄のような人とほとんど同じことを仰るものですから」
「へぇ、日本にもこんな口利く奴居たんだなぁ」
「私も結構なおじいさんですが、その方はおじいさんを通り越して仙人みたいなひとなんです」
「仙人、というとエルフみたいなものか?」
「当たらずと言えども遠からず、ですね」
「ふぅん」
「その例えで言えば、彼もプロイセンさんも『エルフが大人の人間を赤ん坊扱いしてる』ように聞こえるんです。年の差なんてどうしようもないから、人間のほうは困ってしまうでしょう?」
「まぁ…そうだな」
「エルフに追いつこうとして人間が一生懸命一人前になったのに、そんな扱いじゃ可哀想じゃないですか」
「……」
「それに、プロイセンさんとドイツさんの仲は私が知る兄弟の仲でも一番と言っていいほど良好なのですから、わざわざドイツさんを子供扱いしなくても愛情は充分伝わると思いますよ」
「『以心伝心』ってやつか。あれは東洋の神秘の中で屈指の不思議物件だぜ」
「できますよ。兄弟なんですから」
「そういうもんか」
「そういうもんです」

丁度そのころヴェーヴェーと騒がしい声と怒鳴り声が外から響き、日本を呼んだ。
「待たせたな、日本。予定は遅れたがイタリアも引っ張ってきたし出かけよう」
「ヴェー…日本、誕生日なのに寝坊しちゃってごめんね!大きなケーキ俺が奢るから許してー!」

「呼ばれてるみたいですね。締めが私なんかの説教じみたお話ですいませんでした」
「いや、興味深い話だったぜ。愚痴まで聞いてもらってありがとうな」
「ではそろそろお暇しますね。機会があったらまたゆっくりお話しましょう」
「今度は酒でも飲みながら、はどうだ?」
「ふふ、いいですね。じゃあまたそのときに」

東の国の弟は会釈をし、西の国の兄は軽く手を振って応えた。


「ドイツさんは良いお兄さんをお持ちですね」
「いつまでも俺を子供扱いするような奴だがな」
「それもまた愛情の表現なんですよ」
「愛情っていいなぁ!俺の兄ちゃんなんか全っ然お仕事しないのにいきなり文句つけてくるんだよー」
「こらイタリア、今日は日本が主役なんだから日本に喋らせてやれ」


冬の柔らかい陽だまりの下、三人の『弟』の足音が石畳に響いて遠ざかる。






「baby:赤ん坊」
日本お誕生日に日記で先行うpしたものの改定再録。
なのに何故プーが出張る。





005:beauty
戦国BASARA  政小





ひゅうという冷たい音と細い光が静謐な闇を斬り裂いた。
蒼い光は優雅な弧を描いてまた消える。その煌く太刀筋は、まさに流麗。
ひゅう、ひゅう、ひゅう。
動きと共に鳶色の裾が鮮やかに翻る。
ひらり、ひらり、ひらり。
彼は架空の敵を斬っているつもりなのだろう。しかし、まるでそれは。

「…舞ってるみてえだ」

政宗の口から零れた言葉は意図せず響き、その舞をを止めた。
最後の一振りで刀身にばちりと小さな稲妻を走らせてから納刀し振り返った小十郎は、声のした方を振り瞠目した。
「政宗様」
「何人もの強い武将を見てきたが、お前ほど踊るように斬る男は知らねえ。お前のだけは特別に見える」
「有難きお言葉。ですがそれは、この小十郎が鬼子――左利きということに依るからでございましょう。動きが変わっているように目に映るのも道理かと」
「Huhn…」
小十郎のその謙遜を否定する言葉を政宗は知らない。確かに身近にそういった特徴を持つものは居なかったし、言われてみればそうかもしれないと思ってしまう。
しかし政宗が言いたかったことはもっと違った方向であった。伊達家の嫡男故に肥えたこの眼は、たったそれだけの差異で剣舞を讃えるようなものではない。幼少の頃から見慣れた型であるならば、尚更。

「政宗様、このような場所に長居されては御体に障ります。早く寝室にお戻りください」
そう言って流れるような仕草で着ていた陣羽織を政宗の肩に掛け、その後当然のように政宗の死角、つまりは右斜め後ろに立って、寝室に促すように軽く背を押した。その一分の隙も無い細やかな動きすら、隻眼には優美に映る。
片倉小十郎は美しい男だ。
それは事実であるのか、それとも惚れた欲目か。その両方なのだ、政宗は数瞬後に判断を下した。しかしその腕を自ら『鬼』と罵るこの男は、誰であろうこの伊達政宗が伝えねばそれを一生識ることはないのだろう。そして今はその時ではない。

らしくなく奥手な思考に、政宗は喉の奥でくっと哂った。それを小十郎は不思議そうな眼差しで見る。
「どうなされましたか、政宗様」
「なんでもねえ。――目玉は目玉が見れないんだと思ってな」
謎掛けのような言葉に小十郎は首を傾げた。
隻眼の龍が一番大切に想うのはその右目だというのに、その右目は龍しか見えていないことを想って、政宗はまた忍ぶように哂った。






「beauty:美しい」
原作も知らずSS書いたのは初めてだぜ…!というわけでアニメ+wikiその他で知った情報を元に奥州主従。
アニメ7話の小政小は大変おいしゅうございました。