005:beauty
戦国BASARA  政小





ひゅうという冷たい音と細い光が静謐な闇を斬り裂いた。
蒼い光は優雅な弧を描いてまた消える。その煌く太刀筋は、まさに流麗。
ひゅう、ひゅう、ひゅう。
動きと共に鳶色の裾が鮮やかに翻る。
ひらり、ひらり、ひらり。
彼は架空の敵を斬っているつもりなのだろう。しかし、まるでそれは。

「…舞ってるみてえだ」

政宗の口から零れた言葉は意図せず響き、その舞をを止めた。
最後の一振りで刀身にばちりと小さな稲妻を走らせてから納刀し振り返った小十郎は、声のした方を振り瞠目した。
「政宗様」
「何人もの強い武将を見てきたが、お前ほど踊るように斬る男は知らねえ。お前のだけは特別に見える」
「有難きお言葉。ですがそれは、この小十郎が鬼子――左利きということに依るからでございましょう。動きが変わっているように目に映るのも道理かと」
「Huhn…」
小十郎のその謙遜を否定する言葉を政宗は知らない。確かに身近にそういった特徴を持つものは居なかったし、言われてみればそうかもしれないと思ってしまう。
しかし政宗が言いたかったことはもっと違った方向であった。伊達家の嫡男故に肥えたこの眼は、たったそれだけの差異で剣舞を讃えるようなものではない。幼少の頃から見慣れた型であるならば、尚更。

「政宗様、このような場所に長居されては御体に障ります。早く寝室にお戻りください」
そう言って流れるような仕草で着ていた陣羽織を政宗の肩に掛け、その後当然のように政宗の死角、つまりは右斜め後ろに立って、寝室に促すように軽く背を押した。その一分の隙も無い細やかな動きすら、隻眼には優美に映る。
片倉小十郎は美しい男だ。
それは事実であるのか、それとも惚れた欲目か。その両方なのだ、政宗は数瞬後に判断を下した。しかしその腕を自ら『鬼』と罵るこの男は、誰であろうこの伊達政宗が伝えねばそれを一生識ることはないのだろう。そして今はその時ではない。

らしくなく奥手な思考に、政宗は喉の奥でくっと哂った。それを小十郎は不思議そうな眼差しで見る。
「どうなされましたか、政宗様」
「なんでもねえ。――目玉は目玉が見れないんだと思ってな」
謎掛けのような言葉に小十郎は首を傾げた。
隻眼の龍が一番大切に想うのはその右目だというのに、その右目は龍しか見えていないことを想って、政宗はまた忍ぶように哂った。






「beauty:美しい」
原作も知らずSS書いたのは初めてだぜ…!というわけでアニメ+wikiその他で知った情報を元に奥州主従。
アニメ7話の小政小は大変おいしゅうございました。