008:bright
BASARA 政小





幼い頃から繰り返し同じ夢を見る。

自分の手すら見えない暗闇が辺りを包んでいる。
その中で一筋の光が足元を照らす。蛍が列を成しているようなその光は、途切れ途切れにも見えて今にも消えてしまいそうだが、俺にはそれが消えないと直感的に知っていた。
光があまりにもあたたかかったから、遠くで眺めることにした。

繰り返す夢が変化する。

筋だった光は帯と呼べるほどの大きさになっていて、光の脈動があることが見て取れるほどになっていた。彼方から此方に流れ、此方から彼方に流れる。
押し潰すような闇の中では柔らかい光が眩しいくらいに輝いていて、そのせいで俺はこの光の帯を闇に慣れた右の眼窩で視ていることに気が付いた。
昼の光を左の眼で見て、夜の闇を右の眼で視て。どこまでも俺は欠けている存在だと感じて、知らず空洞の眼窩から涙が零れた。
ああ、そうだ。煩わしい朽ちた塊はもう無い。

繰り返し見る度に夢は徐々に姿を変える。

地中に流れる光は日毎増し、帯から沢へ、そして河になる。
その光の河に近づいてはいけないと思うのに、離れることはできない。その河に浸ってしまったら抜け出せない、奪われたら生きていけなくなってしまうのが分かるから近づきたくないのに。あたたかい光は、つめたい闇で出来た俺とは相容れないに決まっている。
静かに焦っていると、あまりにも聴き慣れた声が聞こえた。
『射干玉の闇に光一つ』
やめろ、俺は光なんかじゃない。
『俺のたったひとつの光』
見ろ、俺はこんなにも闇に包まれているじゃないか。
『ではこの河は何なのですか』
これは…
そこで俺は初めて気が付いた。
光は俺から流れていたことに。



「なあ小十郎、『絆』が視える、って言ったらお前は信じるか?」
杯を傾けて政宗が問う。濁った水面に蛍の光が映った。
「どういうことですかな」
小十郎の手の中の杯にも同じように淡い玉が輝いている。
「夜、心の瞼を下ろすと右の眼窩に光の河が流れてんだ。その河は俺が出発点で先にお前が居る」
夢での話だけどな、と政宗が笑うと小十郎は神妙な顔で頷いた。
「政宗様、それは夢ではないかもしれませぬ」
「What?どういうことだ」
「嘗て政宗様が梵天丸様であった頃、貴方が柔らかく輝いて見えることがありました。年を重ねるごとにその光はこの小十郎ただ一人に降り注いでいるように感じられて、まるで何里駆けても位置を変えることのない月のようだと思っておりましたが……」
「俺から見たらそれが光の河だったってことだな」
「そうなのかもしれません。して、政宗様にはその河は今どのように見えておられるのですか」
政宗はゆっくりと瞳を閉じて、そのままクッと笑った。
「光がでかすぎて眼が眩むな…でも嫌じゃねえ」
「左様ですか。俺も貴方から注ぐ光が視えます」
云って、小十郎も笑む。
再び傾けた杯に月の光が映り、蛍の光と重なって融けた。






「bright:輝いている・鮮明な」
こじゅバサラ技台詞ネタその2ー こじゅの台詞はいちいち政宗様大好きすぎて困る。