012:cool
ハルヒ・古キョン





俺は今背筋がもぞもぞするような、非常に座りが悪い心持ちでいた。
というのも、古泉が俺を紹介するときに馬鹿みたいに華美な言葉で俺を装飾したからだ。齢16にして結婚相談所の紹介文を浴びせられた気分になる男子というのもレアなのではないだろうか。チクショウ、なんだこの逃げ出したい気持ち。これが噂に聞く羞恥プレイというやつか。えっちなのはいけないと思います!…いや、なんでもない。
そんな一人百面相をやっていると、当の本人が俺の横に来た。
「どうしましたか、キョン君」
心底心配そうな表情がムカつく。てめーのせいだよ、てめーの。一人だけ涼しい顔しやがって。
「僕が何か?」
「よくあんだけ褒め殺しみたいな台詞吐けるよな、と思ってよ」
「そう、でしょうか」
「少なくとも俺には無理だ」
朝比奈さんの可愛さに関して以外はな。それだって思うだけで口にしたりはしない。
「涼宮さんたちについて咄嗟に出てくる言葉はあれが限界ですけど、キョン君の紹介文でしたらあの10倍は軽いですよ。やってみせましょうか」
「お願いだからやめてくれ。恥ずかしさで殺す気か!」
「そんなつもりは毛頭無いのですが」
そう言って古泉は『希少価値』という言葉からは太陽と地球ほども離れた笑顔を俺限定で振り撒いた。だいたい何をやっても絵になる奴だが、やはり笑顔が一番様になっている。
「ホントにお前はもったいねーよなぁ」
「……?」
男が小首を傾げるな。
「古泉ほどの顔と頭と言葉があれば、本気出せば落ちない奴なんていないだろうに」
なんでごくごく普通の男子高生である俺にそれを発揮するんだか。それを世間では宝の持ち腐れ、若しくは才能の無駄遣いって言うんだぞ。知ってるか、古泉。
「………?」
だから首を傾げたまま不思議そうな顔をするなって。イケメンなのに似合ってるのがムカつくから!
「僕は、大事なことには全力投球するタイプですよ。キョン君を愛しいと思うから、それを全力で表現している。それだけです」
これで絶句しない一般男子高校生がいたら是非お目にかかりたい。もれなくそいつに「『一般』じゃない」というレッテルを貼ってやるから。
「ほんっと勿体無ぇ奴だな、お前は」
こんな奴に口説かれて顔を赤くしてる俺も充分「『一般』じゃない」なんてことは充分分かってる。分かってるから誰も突っ込まないでくれ。
そう考えながら俺は紅潮した頬を冷ますようにぱたぱたと手で扇いでいた。






「cool:涼しい」
孤島症候群序盤あたり。キョンがツンデレ若しくはキョンデレなら、古泉は素直クールに違いないと思う。