019:even
ヘタリア 普独





「ただいま、ヴェスト!お帰りのハグとキスをしやがれ!」
帰ってからのプロイセンの第一声はだいたいこの言葉だ。でもわざわざ玄関まで迎えに来てくれることは稀なので、わざわざリビングまで出向いてからそれを要求することになる。
しかしこの日はリビングに赴く前にキッチンに立つ愛する弟兼恋人に出くわしたので、プロイセンはもう一度同じ言葉を言った。
この二人の兄弟仲は国としては近年稀に見るほど良好なので、ドイツは苦笑しながらも応える。
体格のいい体を少し屈めてハグされるのが悔しいけど俺様が立派に育てたと思えばむしろ誇らしい、ともプロイセンは思っていた。
「ちょうどいい、兄さんの分もコーヒー淹れておく」
その言葉に甘えてリビングのソファに腰掛けて、TVををつけた。
ほどなくしてドイツが両手に一つずつカップを持ってきて、兄の横に座った。カップを受け取ろうとしてTVから目を離して弟を見、そこでプロイセンは何かがおかしいことに気づいた。
それはあまりにもいつも通りな日常の光景である。それ故に、プロイセンはなんで今までこのことに気づかなかったのかと自問した。
「何だ?」
視線に気づきドイツが怪訝そうにプロイセンを見つめ返す。
そのサファイアの瞳は、ルビーの瞳とぴったり同じ高さにあった。

少し嫌な予感が過ぎりつつも、プロイセンが確認のために一つ指示を出す。
「…ヴェスト、ちょっと立って見ろ」
ドイツは頭に疑問符を浮かべたまま、言われたとおりに立つ。背筋を曲げるわけでもなく、すっとまっすぐに。
その視線は同じように立ったプロイセンよりも確実に上にあった。
瞬間、プロイセンの脳内で一つの簡単かつなんとも胡散臭い証明が出来上がった。

身長差があるのに座高が同じである。
つまり身長差=足の長さの差
よって「俺様は胴長短足」という命題は真である 証明終わり

「あ゛ー…」
プロイセンが地の底から湧き出たような呻き声を上げ、ドイツがぎょっと目を見開いた。
「どうかしたのか?」
「なんでもない…」
「なんでもない風じゃないぞ?!体調が悪いなら遠慮なく言ってくれ」
「俺はいつだって絶好調で元気だぜーハハハ…」
乾いた笑いを漏らしながら、プロイセンはカップを持ってふらふらと部屋を出る。
「おい兄さん、どこいくんだ」
「ちょっと一人で凹んでくる」
「はぁ?!」


「あー今からでも身長伸びねえかなー無理だよなーちょっと痩せたけどスタイル良いはずだったんだぜハハハ…あ、ヴェストの野郎塩と砂糖間違えやがったな。コーヒーがしょっぺぇ」






「even:平ら・互角」
普は体重差によるソファの沈み具合の差というのを失念していると思われます。というかそうでないと不憫すぎる。
塩鮭漫画の「ちょっとしょっぺえ」は至言。