024:game
ヘタリア 日本





空想はいつだって美しい。
歴史そのものが自分の身の一部である日本は、近年頓にそう思う。
ドラマや漫画等々で描かれる歴史上の偉人たちはほぼ全て美化されているし、それを厭わしいとは感じない。この国において、場合に因ってははこの世界において彼らに実際会って話したことのある者はほとんど自分一人であるから、自分が指摘しなければ彼らは奇麗なまま皆の心に残る。その美しさを損なうようなことを言うのは、無粋というものだ。
ミロのヴィーナスは腕が無いからこそあんなにも魅惑的なのだし、絵画には様々な解釈の仕方があるから人々を惹きつけてやまないのと同じである。

「日本、何してるあるか」
背後から唐突に聞こえた中国の声が、日本の思考をぷつりと切った。
「何って見ての通りゲームですけど。それより人の家に勝手に入らないでくださいよ」
プレイしてたのが恋○無双だったりしたらどうするんですか、とても貴方には見せられないですよ、とまでは言わないけれど。
「呼び鈴鳴らしても出ない日本が悪いある。――七夕に態々戦場で敵を叩っ斬るゲームなんて不健康極まりないある!こういう晩は夜空を見ながら酒を嗜むよろし」
「しょうがないじゃないですか、うちでは毎年この季節は曇りか雨なんですから」
「そもそも七夕っていうのは天帝が云々……」
中国の長話を話半分に聞き、「架空であるからこそ美しいもの」に日本は神話というカテゴリも付け加えながら、何故このゲームを手に取ったかを思い出していた。
(七夕、か…。来月空いた時間があったら此の人の御膝元まで足を延ばしてみましょうかね)
心のスケジュール帳に未定の予定を書き加えてから再び目の前に意識を戻し、画面の向こうの主人公と一緒に戦場を蒼い閃光になって駆け抜けることにした。






「game:ゲーム」
七夕の晩にバサラやってる日本。
二千年以上も生きてて最終的にオタクやってる祖国様は、心の守備範囲が尋常でなく広いような気がする。