027:heaven 東方 ゆゆみょん 「暑いわね」 白玉楼の主が、扇をぱたぱたやりながら言う。 「暑いですね」 白玉楼の従者が、愛刀を振りながら答える。 「なんでこんなに暑いのにそんな暑そうなことやってるの、妖夢」 白玉楼の主が屋敷の広さに見合った縁側で、気だるげに言う。 「心頭滅却すればってやつを実践中なんですよ、幽々子様」 白玉楼の従者が無駄に広い庭の片隅で、きびきびと答える。 怪談の似合う夏であろうと、そうでない季節であろうと、魂の漂う冥界の屋敷の時間はそうやってゆるゆると過ぎていく。 「こういうときは趣味にでも没頭するのがいいのだけど」 「そうですね」 「だから妖夢、御飯作って」 「幽々子様、朝御飯はさっき食べたでしょ」 「主に向かって呆け老人みたいな扱いしないで頂戴」 生を受けて千年ほども経つ幽々子が、それでも老人でないと言い張るのはひとえに此処が幻想郷であり彼女が亡霊だからである。亡霊なのだから暑さ寒さを感じずにいられればいいのにと思わなくもないが、仮にそうであったらきっと食べる楽しさも知らないままの人生でもあるのだろうとも思うので、此の身の在り方を後悔したことはない。 だからこそ齢千歳の亡霊は駄々っ子のようにごねる。 「妖夢、ごーはーんー!」 「趣味の話はどこいったんですか」 「あら知らなかった?私の趣味のひとつは食べることよ」 「幽々子様の大食らいは癖だと思ってましたよ。それにつきあってたら食材がいくらあっても足りないんです。どうしてもって言うならそこらへんの夜雀でも狩ってきてくださいよ」 「あれは小骨が多いんだもの……じゃあ別の趣味に切り替えるわ」 幽々子はそう言って縁側に面した部屋に引っ込み、手にした蝶柄の扇子で手招いた。 「妖夢、ちょっとこっち来て」 「なんですか、幽々子様」 にこにこした幽々子の笑顔に少しばかり嫌な予感を感じながらも、妖夢は納刀し汗を拭って縁側から部屋に入った。ゆらゆら揺れる紙面の蝶が、夏虫を飛び込ませる婀娜な灯火のようにすら見える。 「こっち、こっち」 幽々子は横の畳を軽く叩いて招き寄せる。 妖夢は言われるままそこに座る。 と、背中と後頭部に衝撃がかかった。そこから、幽々子に唐突に引き倒されたことを察するにはさして時間は要らない。 「な、なにするんですか!」 「なにって、遊ぶの」 言って、幽々子は妖夢に覆いかぶさった。均整がとれ、且つ出るところは出た肉付きのいい体格であるにも関わらず幽々子の身体は軽く、触れた肌からは冷気に似た感触が伝わる。 掴まれた手首からも、唇が触れる頬や首筋からも。ひやり、ひやり。 「妖夢ったら子供体温なのねぇ。暑っ苦しいったらないわ」 「文句言うならやめてくださいよ」 「いーや!」 駄々をこねるような口調は、食事を強請ったときと同じだ。ただ、やってることが子供らしいことから大人らしいことになっただけで。 「趣味の話はどこいったんですか」 「あら知らなかった?」 にこにこした笑みは、いつの間にか妖艶なものに変わっていた。 「私の趣味のひとつは食べることよ」 暫し沈黙したあと、ふう、と溜息をついて妖夢は諦めたように言った。 「幽々子様が私『で』遊ぶのは癖だと思ってましたよ」 「いいじゃない、どっちにしたって結果は同じなんだもの」 ふう、とまた溜息をつきながらも抵抗しないのは、妖夢の趣味のひとつもまた幽々子とこういった触れ合いをすることであるからかもしれない。高みにつれていかれるような幸福を得られるのだから。 妖夢の苦笑に近い笑顔を横目で見ながら、極楽の蝶は『食べること』に没頭して暑さを忘れることにした。 「heaven:天国・極楽・至上の幸福」 けねもことゆゆみょんは俺のジャスティス。 ゆゆみょんは幻想郷の中でも一二を争うほどのエロい主従だと思う。 |