031:innocence
ヘタリア 仏独





ふと目が覚めた時、自分が座ったまま眠っていたのだとフランスは気づいた。どれだけの間そうしていたのかは分からない。ただ目に入ったときの視界から、此処はドイツ宅のリビングでソファの上だということだけは理解できた。
次に気づいたのは誰かが髪を触っている感触。それが誰か、なんて考えるまでもない。意識のはっきりしないままその方向へ顔を向けると、あっ、と少し驚いたような低い声が降った。

「起きてたのか」
「たった今ね」

その言葉で寝ぼけ頭が記憶をゆるゆるを引き起こす。
EUを纏めるトップ2であるフランスとドイツは一緒に仕事することが多く、今晩も共同作業の仕事をこなしていた。しかも急を要するものばかり立て込んだために、フランスは「らしく」なくドイツに合わせてハイペースでデスクワークに取り組んでいた。
漸くそれが一段落ついてワインとビールで乾杯した少し後に、フランスは暫し夢の世界の住人になってしまっていた。昨今の金融危機による体調不良に加え気疲れする長時間の事務作業は、アルコールを過度に回すには十分すぎたのだ。

「お前がこんなに早く潰れるのを見たのは久しぶりだ。無理をさせてしまったようだな」
「無理してんのはお互い様だろ…同じ仕事してんだからさ。 で、ドイツお前何やってんの?」
そう問うと、ずっと髪を触っていた掌がすっと引っ込んだ。その温もりが去るのを少し残念に思いながらそれがあった方に手を伸ばすと違和感のある硬い曲線があった。
「何だこれ。三つ編み?」
「さすがに髭面に三つ編みお下げは似合わないな」
「ちょ、実行犯がそれを言うか…。もーお兄さんの優雅なウェーブに変な癖がついたらどうしてくれんだよ」
「あ……そこまで考えてなかった。すまない」
また大きく温かい手が髪に触れ、慌てたようにするすると三つ編みを解いていく。
「ただ…とても綺麗で」
手を止めずにぽつりとドイツが呟いた。
「真夏の眩しい太陽が手元にあるようだと思ったら触れずには居られなかった。暖かくて美しい日差しに触れたらもう少し弄ってみたくなった。それだけだ。他意はない」
どくり、と胸がの奥が大きく跳ねる。
美辞麗句を並べ立てられることにも聞くに堪えない罵声を浴びることにも慣れていたつもりだが、こんなに朴訥とした言葉は新鮮に感じられた。しかも過去の因縁は数あれど今は憎からず想っている、武骨で無愛想で碌に嘘もつけないようなこの青年に、容姿を褒められるなんて思ってもみなかった。それだけにフランスは硬直するしかなかった。
その気配をどう察知したのかドイツはもう一度謝罪の言葉を述べる。
「む、やっぱり跡が残った。悪いことをしたな」
「…なぁ、お前それ素で言ってんの?」
「だから悪かったと言っている」
「そうじゃなくて!」
「?」
ドイツの空色の眼差しは疑問符を浮かべたままフランスの海色の瞳を捉えて射抜いた。
「…はぁ、この天然タラシ」
「! 人聞きの悪い事を言うな!お前の方が余程女たらしの癖して」

早鐘を打ち続けて治まりそうにないこの心臓の責任、どうとってくれるんだよ!
という心の叫びは、吐息となって消えた。






「innocence:無罪・無邪気」 曲解して「天然」。
アニメフランス兄ちゃんのきらきらっぷりにあてられて。
ドイツは意識すると気の利いた言葉が言えないけど無意識でなら甘い言葉をさらっと吐くといい。