039:lost
東方 慧音×妹紅





誕生日、というものに自分ほど感傷を抱くものは滅多に居ないだろうと妹紅は思う。
永遠を生きる妹紅にとって、生まれるということと死ぬということは殆ど同義であるからだ。
そして目の前で教え子の誕生日会を嬉々として語る慧音にもそれが当てはまることを否応無く思い知らされるからだ。元は自分自身の言動が招いた事とはいえ、『老いることも死ぬこともない程度の能力』を最も怨めしく思う瞬間。
しかしそんな感傷を、慧音は知るはずもない。

死ぬ運命を持つ者に固執するのは己を苦しめるだけだ。散々思い知っていた筈なのに、妹紅の心は慧音に魅かれてやまなかった。
半妖であり一般的な妖怪や妖精よりも寿命が短い慧音になぜここまで恋焦がれたのかと問われれば、妹紅は答える言葉を持たない。
「人でありながら人でないモノ」同士が竹林で出会った瞬間が、始まりであり終わりであったのだと思う。

「どうした妹紅、顔色が悪いな」
妹紅より生きた時間の短いはずの慧音は、寺子屋の教師という仕事柄か妹紅を庇うべき相手として振舞うことがある。そして妹紅はそれに頼るのは己のためにならないと知りつつも甘えてしまう。
「なんでもない、少し…疲れただけだ」
途方も無い刻に、慧音の存在に、慧音が居なくなったときの悲しみに。しかしそれは口にしない。互いにどうしようもないことだから。
「そうか。じゃあこうしよう」
言いながら慧音は妹紅との距離を詰め、正面から抱き寄せた。自然、妹紅の頭は慧音の肩に預けられる形になる。
「ひとの温もりは心が安らぐものらしいぞ」
私ので休まるかどうか分からないけど、と苦笑したのが肩越しに伝わる。加えて、柔らかい手が妹紅の長い銀の髪を梳きもう片方の手が幼子を宥めるように背をぽんぽんと撫でた。
その優しさが嬉しくて哀しくて、妹紅は慧音の腰を抱きしめた。それに気付いた慧音がぷすりと笑いながらも優しい手を止めなくて、また人知れず泣きそうになる。
でもこの千年に一度もありはしない邂逅そのものに感謝して、妹紅は限りあるこの許された時間だけ温かい愛に浸ることにした。






「lost:失う、死ぬ」
けねもこは神の国!
つよくてかわいいおなごがらぶらぶしてるのは正義。寿命差カプは浪漫。