042:machine
バサラ・政小+忠家





明らかに生き物が立てる音ではない音を轟かせて、奥州の地に巨体が舞い降りたのは、空の高さと稲穂の金が眩しい季節であった。
「Hey,家康に忠勝、よく来たな」
「おう、出迎え感謝するぞ独眼竜!」
忠勝の肩からぴょんと飛び降りて、家康は政宗と握手した。
「小十郎なら城ン中だぜ。すぐ会うか?」
今回の彼らの来訪の目的は片倉小十郎であった。武士でありながら楽士顔負け笛の奏者として名高い小十郎に、同じく笛を趣味とする家康は興味をもったらしい。それだけの理由で敵になりうる相手に会いにいく今の世は余程平和なのだろう。
「うーん、それも良いが折角だから辺りを見て回りたい気もするな。忠勝はどうする?」
「……!!」
「そうか、ワシも同行しようか」
「……!」
「じゃあワシは先に城に入ってよう」
第三者にはさっぱり分からない会話を繰り広げる主従は、傍から見れば不思議極まりない。
(俺と小十郎も視線と掛け声だけで意思疎通できるけど、ここまでじゃねえぞ…)
そんな対抗意識にも似た気持ちで、政宗はじっと見つめていた。
「――どうした、独眼竜」
「いや…いつ見てもお前らの以心伝心っぷりはすげえなと思ってよ」
「ふふん、そんなこと恋仲であれば当然のことよッ!」
一瞬、空気が部分的に固まった。
「…………Pardon?今なんつった?」
「あ?恋仲、だが」
「ハァ?!マジかよ!」
「なんだオメェ、知らなかったのか。今日だって、ホレ、忠勝と御揃いの第三防具つけてるぞ」
見れば、家康の腰にはベルトのように数珠が巻きつけられ、葵の紋が入った印籠がこれに括ってある。忠勝が背負ったファンネルコンテナと襷掛けにした大数珠のミニチュアのようであった。
本人からしてみれば恋人同士の王道たるペアルックのつもりなのだろうが、傍から見れば一種のコスプレ、贔屓目に見ても親子で一揃いの服のようにしか見えなかった。
しかし、嘘じゃねえだろうな、と忠勝の方を見上げてみれば珍しくわたわたと慌てたような仕草をしてから、ぷしゅうと文字通り湯気をたてておとなしくなった。照れている、らしい。
政宗は暫し呆然としたしたあと、はた、と気づいたように視線を戻し家康の襟首を引っ掴んでずるずると引き寄せた。その様子に『誘拐』に過剰反応する忠勝が不審な挙動をみせる。
「ん?ああ、コイツ攫うとかじゃねえから!ちょっと内密に話したいことが、な」
適当に言い訳をして家康を忠勝から二,三間ほど離して、屈む様に示してぼそぼそと喋った。二人が屈んで額を付き合わせる様は、どう見ても国主が二人対談している風ではなく、むしろ不良少年が悪巧みを練る様にさえ見える。
「独眼竜、いきなりどうした!」
「Quiet!でけえ声出すんじゃねえよ。――なあ家康、さっき忠勝と恋仲っつったよな」
「おう、前田夫妻に勝るとも劣らぬ『らぶらぶかっぷる』よッ!」
「でも忠勝ってあんたがガキの頃から居る家臣だろ?」
「そうだな、ワシが8つか9つの頃からずっとワシに使えておる忠臣だ」
「だったら俺とそんなに状況変わんねえよなぁ……家康、ちぃと頼みがあるんだがよ」
「なんだ?」
「年上の家臣をオトす方法教えてくれねえか?」
再び空気が部分的に固まった。それを打開するように政宗は早口で、しかし小声でまくしたてた。
「いや、さ、俺も恋仲になりてえ家臣がいるんだけどよ、それが俺がガキの頃をよく知ってる上に10も年が離れてるしおまけに石でも太刀打ちできねえよどカタブツなもんだから――」
「それはもしや片倉殿のことか?」
「バッ…!テメェ分かってても言うんじゃねえよこの子狸!! あ、悪ィ。で、家康が忠勝をどうやってオトしたか知りてえんだよ。参考になるかもしれねえだろ」
「どうやって、と言われても…そりゃあ身分の差とか歳の差とか色々あったが、ワシの気持ちを正直に伝えれば忠勝に伝わったから……」
家康が言いよどんだり恥らったりしている間に、噂をすればなんとやら、話の中心の一人たる片倉小十郎が現れた。
「政宗様、客人を相手に何をなさっておいでですか」
「小十郎!」
その姿を認めるや否や、政宗は小十郎の頬に口付けた。家康はその光景にぎょっとしたが、小十郎は動じることなく政宗の肩をべりっと剥がした。
「政宗様、客人の前で斯様な挨拶はなさいますな」
その後小十郎は一国の主に対するに相応しい口上を述べていたが、家康は政宗の表情に飲まれていた。詰まる所は「こいつこんなに鈍感なんだけど」という悩みなんだか惚気なんだか分からない表情を受け止めていた。
家康は忠勝の甲冑の整備のために異国の書物を読むことがあったから(それをメンテナンスと言うことも知っていたが政宗のように南蛮の言葉を使うつもりは無かった)、口付けが異国では挨拶であることを知っていた。だから、政宗が小十郎にそう教えていつでも気が向いたとき口付けができるように言い含めたのだろうということも察することができた。そしてそれが政宗にとって新たな壁になったのであろうことは簡単に想像がついた。
(まぁ気持ちは分からんでもないが……それは自業自得というものではないのか、独眼竜)
政宗が小十郎に気持ちを明確に伝えているかどうか分からないから流石に口に出すのは躊躇われ、家康は政宗の視線に苦笑で応えた。
奥州の独眼竜と恐れられる若き城主の標的は、その名に相応しいくらいに強く難攻不落な相手であるのに変わりはなさそうだった。そんな標的も、政宗と家康と、人生の先輩たる忠勝も交えて話せばきっと陥とせるようないい案も出よう。此処に来た目的は変わってしまったが、歳若い者同士相応の話をするもまた一興のようであると思った。

「家康殿、今後の予定はどうなさるおつもりですか」
小十郎は家康にそんな興味の中心と思われているとは露知らず訊いた。
「そうだな……中で独眼竜と話の続きをしようと思う。行こうか、忠勝」






「machine:機械」
3の情報見る感じ竹千代は政宗様と同じくらいの年齢らしいので、歳若い国主どうしきゃっきゃしてたら可愛いと思います。
ぷしゅーってなってる忠勝書けたので満足。
※5周年5ジャンル企画その1:BASARA編