051:noise ヘタリア 伊独 いっつも俺がドイツの家に行ってたのに、珍しく今日はドイツが俺の家に来ていた。 「活気のある街があって歴史ある文化があって美しい土地がある。こういうところに生まれたお前が羨ましいな」 「へへへーいいでしょ?でも俺ドイツんち好きだよ!俺にはないようなかっこよさがあるもん」 「お互い無いものねだりだな」 そんな他愛も無い会話をしながら市場を歩いて。 市場で安く手に入った食材とか食器とかをいっぱい抱えて家に帰って。 「なんでこういうときに片付けをやっておかないんだ」 なんて小言を聞きながらドイツと一緒に料理して。 ちょっと歩いたところに小さな丘があるから、作った料理をバスケットに詰め込んでそこまで歩いて。 夕焼け色のクロスをひいて、二人で座って一緒に食べて。 それもちょっと失敗しちゃったはずなのに今まで食べたことないくらい美味しくて、何度も見てるはずの景色が見たこともないくらい綺麗で。 俺がドイツのことを恋愛感情で好きだって伝えてドイツが応えてくれて「オツキアイ」っていうのを始めたがほんの2週間前だったから、こんなお出かけをしたのも初めてだった。 フランス兄ちゃんあたりが見たら野暮ったいとか言いそうなデートだったけど、そんなことはどうでもよかった。 だってほら、大好きな人が隣に居るってだけでこんなにも世界がきらきら輝いている。 こんなのは生まれて初めてだった。 ――ほんとうに「はじめて」なの? 頭の隅で高い声がした。 (なんでそんなことを訊くの?もちろん初めてだよ) 頭の中だけで俺は答える。 でも騒音のような高い声は止んでくれなかった。 ――ずっとずっとむかしにもあったでしょう (そんなことはないよ。これが…) ――ちぎれそうなわかれのまえに (一番幸せな…) ――つらくてかなしいおもいでのまえに 思い出した。 ずっとずっと昔に、小さな小さな恋があったことを。 不器用な優しさで見守ってくれた人がいたことを。 その人が戦いによって行方知れずになってしまったことを。 「片付け終わったし、そろそろ帰るぞイタリア」 動けない。 喉もはりついてしまったみたいで息が苦しい。 「早くしないと日が暮れる。ほら、置いていくぞ」 ドイツが丘を下り始める。 怪我もしていないのに痛くて痛くて仕方なかった幼い日の別れが重なって見えた。 夕焼けを映した薄い金の髪と後姿が、あまりにも彼に似ていたから。 あの日以来世界はくすんでいた。そのことを忘れていた。 「まって…まって!!いかないで!」 ドイツが振り向いてこっちに戻ってくる。 「…ねぇ一緒に暮らそうよ」 目の前まで戻ってきていたドイツが目をまん丸にしている。 「ここは地上の楽園なんでしょ?だからずっと一緒にいようよ」 子供みたいなことを言ってるのは分かってる。でも、ドイツはずっと聞き分けのない俺の言葉を呆れながら叶えてくれたんだから…。 「そうしたいのは山々だが、俺には明日仕事があるしな…」 困ったような声音で、やんわりとした拒否の言葉が聞こえた。 それすら聞きたくなかった。ここでこのひとを失ったりしたら、きっと世界はモノクロになってしまうから。 「俺の全部をあげるから!ねえ、離れたくないよ……」 あとからあとから涙が溢れて止まらない。 怖くて怖くて体が震える。 どれくらいそうしてたんだろう。先に沈黙を破ったのは俺じゃなかった。 「あー…そうだな、計画は変更しよう。明日の仕事はなんとか都合をつける。それで妥協してくれないか」 「え?」 「ずっとここにいることは出来ないが、今日と明日くらいここでゆっくりしてもいいだろう。ここ最近働き詰めでやっと取れた休みだ」 几帳面なドイツがこんなことのために予定を変えてくれたことに、自分自身でも意外なほどびっくりしていた。 「だから寝室は用意してくれ」 「へ?あ、うん!そうだ、今日兄ちゃんお泊りで出かけてるから同じベッドで寝ようよ!」 「いつもとは逆だな」 そう言ってドイツはくすりと笑い、不器用なキスをくれた。 見えない鎖が割れる音がした。 ――ありがとう 痛みを思い出してくれて 「ありがとう」 澱んでいたものを拭ってくれて。 また俺はこの輝いた世界で生きていける。 「noise:騒音」 伊独イメソンの一つ「市場に行こう」を念頭に置いて書いたはずなのに萌えも原型も留めちゃいねえ…! 伊が独に依存しまくる伊独が好きです。 |