052:nude
ヘタリア 独普?





ある冬の朝、俺は頭に鈍い痛みを抱えて起きた。
そういえば昨夜少し呑みすぎたかと思い当たったが、記憶に無い温もりが左腕にある。
若干恐る恐るそちらを見てみると、あまりにも見慣れすぎた銀髪が目に入り、その持ち主がしっかりと俺の腕を抱えていた。
そして、あろうことか俺も彼も首に提げたアイアンクロスを除けば一糸纏わぬ素っ裸であった。

昨夜の出来事を思い返すことにした。
どうやら俺は酒癖が悪い、らしい。
『らしい』というのは、俺自身が覚えていないからだ。
初めてイタリアと限界まで飲み明かした時は、起き抜けにイタリアが泣いて許しを請うていた。
何があったと問いただしてみても、戦場とは逆に頑としてイタリアは口を開かず、ただただ「ドイツが怖かった」と繰り返していた。
それ以来万が一にも人に迷惑をかけぬように、深酒をするときは自室で一人で本でも読みながら呑んでいた。
しかし昨夜は、我が最愛の血縁であり兄であるプロイセンが「酒なんて一人で呑むもんじゃねえだろ!」とか言いながら、上手に煮たヴルストと上等なワインを持って俺の部屋に押し入ってきた。
そのとき俺は既にビールをかなり開けていたので簡単に迎え入れ、俺は仕事の愚痴を言いプロイセンは旅行の土産話を喋りながら、限界を超える量のアルコールを摂取していた。

それから先は何を喋ったかすら覚えてない。
もう少し状況を把握しようとして上半身だけ起そうとすると、隣に居たプロイセンも目を覚ました。
「あれ、ヴェスト…起きたのか。昨夜は楽しかったぜ。でも、お前アレのときは乱暴なんだな…」
切なげに呟く彼の葡萄色の目に涙が一粒。
途端、思考回路がぎゅいいいいんと音を立てて回転しだした


アレって何だアレって!いやいやそんなことは無い決してない!この状況はそのあれだイタリアがいつもベッドに侵入してきているのと同じだそうに違いない。そうだなんども遭遇したシチュエーションじゃないか!しかし俺まで服を脱いでいた事があったか?俺にはイタリアみたいな癖はないし、生活習慣のほとんどはこいつに教わったんだからプロイセンもそうだったはずだ。ならばアレとはソレなのか?もちろん兄に対しては恩もあるし愛情もあるがしかしそれが恋愛感情になることはあっただろうか?人間の意識というのは己で認識していない部分が半分以上あるというがその部分が酒によって現れたのか?そして俺が兄さんを裏切るようなことをしたのか!したのでなければあの涙の意味が分からないじゃないか。しかし彼は育て親であり教師であり兄であるんだそんなこと無意識であっても許される訳がない!というか俺も奴も男だ!同性だ!どうやってナニをしたって言うんだ…!!


頭の片隅で回路が千切れる音をうっすら聞いたと同時に、後頭部をバコンとはたかれた。
「無表情で顔色ころころ変えてんじゃねーよ。傍から見たら相当怖えーぞ」
「…は?」
「冗談だって、冗談。わかるー?イッツアジョーク!オーケー?」
「あ…?」
「そりゃあ身長も体力も越されたけどさぁ、この俺様が酔っ払いにみすみす食われるマネなんかするかっての」
俺がプロイセンの言葉を理解した頃には、彼はいつの間にか着替え終わっていた。
ケケケ、と悪魔のように笑って趣味の悪いこの悪戯の仕掛け人が言う。
「いやー、ちょっとばかし分の悪い賭けだったけど見事に引っかかってくれたなぁ!あんまり人のいる場所でここまで呑むんじゃねえぞ」
「飲みに参加してきたのはそっちからだったと記憶しているのだが」
「あれ、そうだったっけか。んなことは覚えてんのな。そうそう、お前の服はお前が自分から脱いだんだからな」
自身の『悪い酒癖』の一端をさらりと聞かされ、俺は二日酔いとは違う痛みに頭を抱えた。
「んーでも無愛想なヴェストのヘンな顔見れたし、むきむき太い腕は温かくて寝心地よかったし、面白かった!なぁ、またやっていい?」
俺はかっと顔を熱くし、せめてもの反抗に手元にあったダンベルをあの馬鹿にむかって力いっぱい投げた。
が、それが届く頃には奴はドアの向こう側に出ていたので、ダンベルは的を失いドアに当たって落ちた。


ダンベルがその重みでドアを盛大に凹ませてしまい、修理されるまでその凹みを見るたびに一連の顛末を思い出さずにはいられなかったので、この下世話な悪戯は大変忌々しい事に『印象的な出来事』になってしまった。






「nude:裸」
普が絡むと話がシモい方向に転がりがちです。何故だ。
現在軸の普は暇を持て余すが故にずる『賢い』頭を阿呆な方向に全力で動かして理解しがたい言動をする子だといいと思います。