054:open バサラ 小政小(+真田主従・伊達軍モブ) 戦国に生きる武将たるもの、情報戦もまた重要な戦略のひとつである。それを知ってか知らずか、神は各国の武将達に等しく一定の情報を授けたようだ。 神とは誰かとは訊いてはいけない。あえて言うなら『禁則事項』である。 「佐助!この書物に色々な武将のことが書かれておるぞ!これでお前の負担が減るな」 「まぁ、情報収集も俺の仕事だけど……」 討たなければならない将の容姿や武器が一度も対峙せずに分かるというのは戦略を練るにおいて大いに役立つ。危険を冒さずに情報を手に入れられるならば上々。だが――。 「その分俺達の情報も知れ渡っちゃってるのは困るでしょ」 有名で目立つ忍びという己の矛盾を突きつけられた気分で憂鬱な佐助は溜息をついたが、それは主には届かなかったようだった。 情報戦とは程遠いところにいる幸村は目を輝かせながらぱらぱらと頁を捲る。 「おお、政宗殿が載っておるぞ」 「そりゃあ派手が鎧着ていくさば駆けてるようなひとだからねぇ」 「片倉殿のことも書かれているな」 「へぇ、それはちょっと興味あるかも」 片倉小十郎は奥州の智であり軍師であったはずだ。戦略を大切にする筈の彼の情報が漏洩しているくらいなら、己のどうしようもない矛盾もちょっとは慰められるかと思って佐助も書を覗く。開かれていた頁は蒼の独眼竜のものだったが、そのうちの一節が目に入った。 『腹心の部下であり兄的存在である片倉小十郎を傍らに猛々しき竜の爪を振るい』 「兄的存在…っていうの?あれは」 いくさばで幾度かまみえた竜の右目の言動は、兄というよりも過保護な父親であるように思えたのだけど。 そのとき、佐助の中でこの書の情報の信憑性が少しばかり下がった。 結局仕事が楽になることはもう少し先みたいだねぇ、と佐助はもうひとつ溜息を落とした。 同じ書物を読もうとしている者が、奥州にも居た。 「お前ら、例のブツ持ってきてやったぜ!」 声を張り上げてそれを掴んでいるのは、奥州で殆ど唯一政宗を呼び捨てている伊達家家臣、伊達成実であった。 「マジっすか成実様!」 「早く見せてくださいよ!」 「前々からそれ気になってたンすよー」 傍にいた一般兵がわらわらと寄ってくる。これが戦や敵国の武将に対して意欲的というわけではなく、書物を殆どグラビアとみなして我らが筆頭伊達政宗の雄姿が見たいがためと知っているから、政宗の人を惹きつける天賦の才能というものの威力を成実は改めて思い知った。しかしこれだけで兵士の士気が上がるのだったら、多少の情報提供も安いものだとも思う。そういった情報戦云々は奥州の智将と名を馳せる小十郎に任せておけばよいのだ。 「あ、筆頭だ!」 「やっぱいつ見ても格好いいなぁ」 「間近で見れるくらいにまで出世したいぜ」 武将データのいの一番に書かれているのは矢張り奥州のトップであるらしい。これが主人公待遇というものか、と成実は思ったが決して口にはしない。これもまた『禁則事項』である。 そんなやや冷めた目で見ている成実も身近な人物が書物になっているのは気になるもので、皆の頭の影から頁を覗いた。 「ふぅん、こんな感じなのかねぇ……『兄的存在』って…」 目に留まった文章に、成実の頬が僅かに引き攣る。 「成実様、どうしたンすか?」 成実はこの書物を持って来るときに縁側で見た光景を思い出していた。それは小十郎の膝の上で耳掻きをしてもらっている政宗という、カリスマ性とは程遠い位置にある姿だった。しかも二人の表情は、そりゃあもう見てる方が吐いた砂糖で溺れそうなほどどろどろに甘くて。 「えー…あー…うん、なんでもねえ」 わざわざ部下の信頼や憧れを地に落とす真似などする必要も無い。 (外から見ればそう見えるくらいには隠してるんだねぇ、あの二人も) うっかり漏れそうになった言葉を、これもまた丁寧に喉の奥に押し込めつつ成実は部下に苦い笑いを向けた。 「open:開いた・公開」 神から与えられた書物のイメージはBH公式サイト。コンプリートワークスとか持ってないんで(基本どんなゲームも攻略サイト攻略wikiですませる)攻略本の類がどんなのか分かんないっす。 |