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バサラ 政小





ぞわ、と背筋に走る悪寒で目が覚めた。
とても嫌なものを見た、という感触だけを残して夢の余韻は消えた。詳細な内容は記憶を手繰っても見つからないというのは夢というものにありがちなことなのに、それは大きな蟠りを政宗の心にこびりつかせる。
盗まれないようにと細工を凝らした鍵がいつの間にか何者かに解かれたような、若しくは決して失くさないようにときつく括った袋の僅かな穴から砂金が零れ落ちるような、どうしようもなく頼りない感覚。
落ち着かないまま上体を起こすと、隣に寝ている人が目に入った。常ならば日の出より早く起き政宗よりも遅くに眠る第一の側近、片倉小十郎。僅かな午睡すら自身に許さない厳格な彼の寝姿を見ることなど、閨事で彼が気を遣った後ぐらいしかない。だから運よくそれに出くわしたときは気が済むまで眺めているのに、今は閉じられた瞼が政宗の心許無さに拍車をかけた。

――もう二度と目を覚まさないのではないか。

起きた瞬間に昏い記憶の海に融けたはずの夢の片鱗が波打ち際に寄せられた。矢張り詳しくは思い出せないがそんな夢を見た気がする。

――「先に行く無礼をお許しください」

預けていた背中が急速に冷え、繋いでいた手が離される幻覚。
恐ろしくなって、眠る小十郎の傷だらけの手を力一杯握った。六の刀を操る握力は伊達ではない。その痛みで小十郎は目を覚ました。
「まさむね…さま…?」
乱れた前髪の下で瞼が開いたことに、政宗はひどく安堵する。
「小十郎、俺の傍から離れるなよ」
聡い小十郎はその声音だけで政宗の身に起こった、本人すら気づいていない何事かをほぼ把握した。
「ええ、決して離れませぬ。この小十郎、いつまでも政宗様の許に」
僅かに緩んだ政宗の掌から抜け出した小十郎の手が、政宗の肩をそっと抱き寄せた。その温かさに政宗は少しだけ泣きそうに顔を歪ませて、誘われるままに頭を小十郎の胸に寄せた。

己が半身の、この温もりの傍なら、深い眠りに身を預けられる。
二人が二人ともそう確信して、再び意識を深淵に堕とした。






「piece:部分・つなぎあわせる」
小十郎の史実命日のときに即興で日記に上げたブツ。
なんでうちの政宗様はよく夢を見ているんだろう…。