060:pray
バサラ 政小





「毎年此の日になると、政宗様が今此処にいらっしゃることを天に感謝したい心持になります」
小十郎がほとんど唐突に言い出した言葉は、執務室という蒸篭にかけられている気分になってへばっていた政宗の顔を上向かせるのには十分であった。
「Ah…?どういうことだ?」
意を酌みきれず頭に疑問符を浮かべていると、小十郎がにこりと笑顔を送った。
「今日は政宗様がお生まれになった日でございます」
「I got it!確かにそうだったな。何で俺が忘れてることをお前が覚えてんだ」
「政宗様は我が全て。政宗様のことであれば何もかもを記憶するのは当然のことです」
「……そうかよ」
言われた側としては小っ恥ずかしくなるようなことを、小十郎はさらっと言ってのけることがある。このときも少しばかり赤くなった顔を表情を隠すために、政宗は興味を失った素振りをしながらまた机に突っ伏した。
そんな主の心境には気づかず、小十郎はどこか遠い目をしながら言う。
「斯様な戦国の世、何時まで共に在ってこの日を迎えられるかも分かりませぬ。そうでなくても先に生まれた者が先に逝くが世の定め――」
「ちょ、ちょっと待て小十郎。なんでbirthdayの話からそこまでseriousに考えるんだ?!」
「しかし政宗様の背を預かる身としては考えずにはおれぬこと…」
「いやいや、俺が生まれた日が特別だってんなら、湿っぽい話はナシにしようぜ」
「はぁ」
「というわけで、そうだな、俺を労れ!」
「また強引な…。では小十郎は何を致したらよろしいか」
「まずは冷茶だな。この暑さじゃ流石の竜も饅頭みてえに蒸し焼きになっちまう」
「かしこまりました」
「それと……ah…膝枕しろ」
「膝枕、ですか。此の膝は硬くて寝心地は些か悪いかと存じますが」
「いーんだよ。俺が癒されるんだから」
「左様ですか。ならば御意に」
やり取りが進むうち、二人の眉間にくっきりと寄っていた皺はとれて、知らず互いに微笑み合っていた。


この城が暑いのって夏のせいだけじゃねーんじゃねえの、というのはその部屋の廊下に間が悪く居合わせてしまった成実の談である。






「pray:祈る・求める」
8/3に日記に即興でうpした政宗様誕生日ネタ。
誕生日を「祝う」ことなく特別にするのは難しいなぁ。