066:sadism
BASARA  小政





小十郎が瞼を開くと、息がかかりそうなほど近くに政宗の顔があった。
政宗はやや瞠目したあと、ニィと人の悪い笑みを浮かべた。
「kissで目を覚ますなんざ、異国のprinsessみてえじゃねえか。なぁ、小十郎?」
「なぁ、と言われましても俺には何の事だか…」
小十郎が辺りを見回すと視界の端に倒れた徳利が映り、身動きしようとすると、ぎち、と背後で縄が擦れる音がした。腕が殆ど動かない。眠っている時に凭れていた柱を抱えるように後ろ手に縛られている。
政宗と二人で呑むときは酔い過ぎないように気を付けているのにたった今まで眠っていた、ということはこの状況は一服盛られたということなのだろうか。歳と身分の割に未だ所々幼い気性をもつこの主の悪巧みは年々手の込んだものになっていっているので、それくらいはしかねないと小十郎は思っていた。
「これはまた……どんな悪戯を思いつかれたのですかな」
窘めるような口調に政宗の機嫌が僅かばかり下降する。
「悪戯、なんてヤワなもんじゃねえよ」
そう言って政宗は深く口づけた。吐息を飲み込み、唇を啄み、歯列をなぞり、舌を絡め口内を蹂躙する。
「…ん……っふ、ま、政宗様……何を…」
政宗は答えず、頬傷に、首筋にと徐々に位置をずらして、音を立てて吸いついた。見れば、小十郎の腿に跨った政宗は下帯すらつけず上着を一枚羽織っただけの姿で、さらに小十郎の服まで緩めようとしている。そこで漸く小十郎は政宗がしようとしていることを悟った。
「おやめください、政宗様!」
「You're kidding!ここまで来てやめれるかよ!」
「しかし!」
「元はお前が悪いんだぜ?ガキの頃から十年も片想いし続けて、やっと思いが通じ合ったってのに、どんだけ待ってもお前が手ぇ出して来ねえから…」
威勢の良かった政宗の言葉は段々尻つぼみになり、最後は消え入りかけていた。
「ですが、家臣が主に手を出すなど…」
「そう言うと思ったぜ!元々待つなんてガラじゃねえんだ。つーことで、俺からいかせてもらうことにした」
政宗は鼻頭にひとつ口づけを落とし、笑む。
「だから、どんなことになろうと全責任は俺にあるし、お前は一切悪くねえ。朝起きたら横で詰め腹なんていう馬鹿な真似するんじゃねえぞ。You see?」
そこに否定の言葉を受け入れる響きは一切ない。ここは政宗が不意打ちと計略で練った檻の中なのだ。故に小十郎の答えはひとつだった。
「……御意」
「それでこそ俺の右目だぜ。十年分の想い、覚悟して受け止めろよ!」
胸元から見上げる政宗の蒼く光る隻眼は、愛情と色欲と少しばかりの加虐の光で艶やか濡れていて、小十郎の心臓がどくりと鳴った。






「sadism:サディズム・加虐趣味」
『襲い受け』習作。襲い受けは多少のS性がないと行動に移せないと思う。
でも自分が書くと乙女性が付加される。何故。