074:song
ヘタリア 普←独+α
※既存曲パロディ注意※





家の近くの広場で声をかけられた。
「ヴェスト、これを見ろよ」
俺のことを『ヴェスト』と呼ぶ奴は一人しかいない。
声のした方を振り向くと、兄さんの顔は知ってる位置よりも随分と高い場所にあった。
正確に言えば、人の背より高く積み上げられた箱の上に満面の笑顔で胡坐をかいていた。
「どうだ」
「どうだと言われても何と返せばいいか分からん」
「これは俺の強さの象徴だ」
その言葉の意味することは、散らばっていた箱を開けてから理解した。
「倉庫に仕舞ってあったものだろう。今更掘り出して何がしたいんだ」
箱の中身は、壊れた鎧や古くなって使えなくなった銃、錆びた王冠等の『戦いの残骸』だった。血がべっとりついている物も多々あって、趣味がいいとは言えない。
「この『戦利品』の塔を作って俺様の強さを知らしめるんだ!世界中にも見えるくらいに」
「…そうか。他人に迷惑をかけないようにやれよ」
勝手にやらせておけばいいか、と思い俺は広場から立ち去った。


「強さの塔、か…」
戦う事が生きる事だったあいつが凋落し家長が俺になったとき、あいつは荒れた。命があっただけでも儲けものだったはずなのに、それが気に入らなかったようだ。
一通り暴れまわったあと、呆けたように日々を過ごしていた。
そんな先にあの奇行だ。
多少変わっていても何か生きる意味を見出せたなら、それは良い事だと思った。
それに、あいつが作っていた塔―まだまだ小さく柱にしか見えなかったが―、アートと言うにはあまりにも芸術性に欠け、シンプルで不恰好で真っ直ぐ天に伸びているのが、嘘が苦手なあいつの生き様のようで俺は好きだった。

家の倉庫が開けっ放しになる日が増え、「どんどん高く、もっと高く」と呟く声が聞こえた。
やがて広場に『塔』を囲んで人だかりができた。
塔には梯子がかけられ、その天辺にあいつがいた。
そこから声が降るように響く。
「お集まりの諸君!これが俺の強さだ!」
通り過ぎてからも、「勲章」「戦を乗り越えて」「特別」という言葉が切れ切れに聞こえていた。
「乱暴者で俺様気質のあいつらしい」
あのとき俺はそう思うだけだった。


それから幾日も忙しい日々が続き、国際会議で泊りがけの出張もあり、帰ってきたときに家があまりにも静かなことに気づいた。
「あいつがいない」
嫌な予感がした。
「オーストリア、兄貴――プロイセンがどこだか知らないか?」
「帰ってきてませんよ。また広場で奇妙な塔を作ってるんじゃないですか」

広場には、天辺が見えないほど高くなった塔と、地面に横たわった細い梯子があった。


「プロイセン?俺は見てないぜ。イギリスの野郎が吹っ掛けてきやがった喧嘩の相手してたしな」

「うちにはきてないでー。久々に会いたいなぁ」

「プロイセンが私のところになんか来るはずないじゃないですか。だってオーストリアさんの仇ですよ」

「俺のところにも来てないよ。ね、兄ちゃん。何かあったの、ドイツ?」


昔の知り合いのところには居なかった。
広場に戻ってまた塔を見上げる。
「兄さん、そこに居るのか?」
見えなかったはずの天辺に、針の先よりも小さく、見慣れた銀の髪がきらりと見えた。
一番当たって欲しくなかった予感が的中した。


どんどん強く、もっと強く。
そう言い聞かせるように呟いて真っ直ぐに戦場に突き進んでいた兄さん。
誰よりも強く見えたその背中は、無敵ではなかった。
寂しさを紛らわすようにして一心不乱に力をつけていったあいつ。
どんどん高くもっと高くと作られたあの塔は、彼の生き様に似すぎていた。
ならば最後には、真っ逆さまに――


「そんなとこまで正直じゃなくていいだろうが!」
俺は倉庫から、昔あいつが愛用していた常識はずれにでかいハンマーを持ち出した。
そして広場に戻って、渾身の力をこめてハンマーを振り抜く。
狙い通り、一番下の箱がだるま落としのようにスコンと外れた。
繰り返し繰り返し、一つずつ箱を外していく。
中身が重い物ばかりだったせいか塔が揺れることはあまりなかったが、それだけに一筋縄で終わる作業ではなかった。

「ずいぶんと遠いところに行ってしもたんやなぁ、プロイセンは」
「自力で神様ンとこに行くにはちょっとばかし早すぎんじゃねーの?」
ふとそんな声が聞こえた。
振り向くと、昔あいつとよくつるんでいたフランスとスペインがいた。
「久しぶりに会いに来たんに、あんなとこにいるなんてあんまりやんなぁ」
「全くだ。勝手に置いてってんじゃねーぞ! ドイツ、手伝うぜ」

騒ぎを聞きつけて他にも一杯集まってきた。
「ドイツが大変だって聞いたから来たよ!でも俺にはちょっとそのハンマー持てないかも」
「なんで貴方はそういうことを一人でやろうとするんですか。声をかけてくださったらもっと早く私も加勢できましたのに…このお馬鹿さんが!」
「久しぶりにプロイセンの情けない顔を見にきただけですよ。オーストリアさんも手伝うって言ってるし」
「騒ぎが五月蝿いから早く終わらせようと思って来ただけなんだからな。か、勘違いするなよ!」
「困ってるなら加わるよ。なんてったって俺はヒーローだからね!」


ハンマーを持てない者は節をとるように掛け声を、手が空いた者は箱を片付け、塔は段々と低くなっていた。

「皆あんたと話したいんだ!同じ高さまで降りて来い!!」
気づけば俺も声を張り上げていた。

針の先より小さかった銀の光が段々大きくなり、紅い双眸も見えて。
涙でくしゃくしゃになった顔が見えたのは、塔の作り始めに輝くような笑顔で俺を呼んだときと同じ高さだった。

「ようやく声が届く高さになったな、オスト」
その瞬間あいつは塔を蹴っ飛ばして俺の首に抱きついてきた。

「助けるの遅えよ馬鹿ヴェスト!」
「悪かったな。――おかえり」






「song:歌」
『ハンマーソングと痛みの塔』をプロイセンのイメージソングと思って聞くと萌えるという話を聞いて衝動的に書き上げました。
この歌はもっと何かの例えとか象徴なんだろうけど、だるま落としがやりたくて歌のままに書いたらプーがあほのこみたいになってしまったorz