076:summer
ヘタリア 伊独





「ドイツドイツー、一緒に泳ごうよ!こんなに綺麗な海なんだよー」
きらきらと輝く浅瀬でイタリアは声を張り上げて呼ぶ。
その子供っぽいはしゃぎぶりに、ドイツは苦笑まじりに応えた。
「お前も食料の準備をしてから遊べ。まぁこの海が綺麗なのは認めるが」
どういうわけか唐突に遭難した無人島の岩辺で、ドイツは即興で作った釣り糸を垂らしていた。


散々遊び終わったイタリアがドイツの隣に腰掛け、まじまじを彼の顔を見つめてから呟いた。
「ドイツ、今日はあんまり怒らないね」
「そうか?」
「うん。こういうサバイバルなことになったら、もっとピリピリすると思ってたからちょっと意外」
住人が見つからないこの島で、ここまで落ち着いているのは確かに自身で考えても異常であるように思える。
住人がいない代わりに猛獣も居る気配がなく、気候も温暖で、水や食料の心配もあまりないというサバイバル活動をしやすい環境であるからだ。そう考える一方で、唐突に飛ばされたのだから帰る時もきっと唐突だろう、という直感があった。
論理のないその己の思考の異質さに、一人でくすりと笑う。
「確かに俺らしくない。何故だろうな」
「ここが現実を忘れそうなくらい綺麗だから、とか?」
「綺麗だから、か…」
同じように論理の欠片もないその言葉は、的を射ているように思えた。
「そうかもしれないな」
ふ、とドイツは眉根を下げて笑った。
それ見てとろけるような笑顔になったイタリアは、眼下にゆるりと視線を移して言う。
「帰ったらさ、海に遊びにいこうよ。こんな野戦的なのじゃなくて、バカンスとして」
「海水浴か。バカンスでもあまり楽しいと思ったことはないが」
「えー、なんで?」
「水の都を抱えるお前とちがって、俺は…まぁ、端的に言えば泳ぎが得意じゃない」
「うっそぉ!」
「全く出来ない訳じゃないぞ。ただちょっと人より沈む割合が多い」
「あー…むきむきすぎるのも困りものだねぇ。じゃあ、だったら船で旅行とかどう?ドイツとだったら絶対良い旅になるし」
「海が苦手な輩を引っ張っていって『良い旅』になるのか」
「もちろんだよ!だってアクアマリンの瞳をもつ恋人が一緒にいるんだもん」
「アクアマリンの瞳…?どういうことだ?」
「ドイツの目と同じような薄い青色をしたアクアマリンっていう宝石があるでしょ。あれは航海の安全と豊漁のお守りとして昔から使われてたんだ。それに俺、海の上ではへたれないんだよ」
「ほぅ、それは是非見てみたいな。レアすぎる」
「何気にひどいこと言ってない?」
「事実だろ」
「別にいいけどね。 ドイツとバカンス、早く行きたいなー!」
「おそらくそんなに遠い未来じゃないだろうな」
「え、でも助けの目処立ってないでしょ」
「海が輝く此処にアクアマリンの瞳を持つ者がいるんだ。海の加護があってもおかしくないだろう」
「ふふ、ドイツが非科学的なこと言ってるー」
「うるさい。そろそろ帰るぞ。日本が木の実集めてもう待ってるかもしれない」
「そうだね!早くお昼にしよう」






「summer:夏」
本家&アニメの無人島遭難話の続きのつもり。
独の瞳は作者の都合により、普独のときはサファイア(⇔ルビー)、伊独のときはアクアマリンになります。色違ぇ。