079:taboo
バサラ・政小





彼を恋うるが罪だと云うのならば。
身分を越えた想いが罪だと云うのならば。
「秘密を抱える罪人の口を塞ぐには何が一番か、軍師のお前が知らない筈は無えよな、小十郎?」
城の主は扇子で表情を隠したまま、腹心に問う。


墓場まで持っていく心算だった恋情を隠しきれなかったのは己の責だ。
伊達家を、ひいては奥州全土を混乱に陥れ崩壊させるかもしれないこの想いを隠せなかった罪は重い。この主に展望の無い未来を押しつけるということは、そういうことなのだから。
「罪人の声を発する喉から掻っ捌くが良策かと存じます」
その言葉は数刻後の己の運命なのにも関わらず、些かの躊躇いもなく唇から流れ出た。
死ぬ覚悟は疾うにできている。しかし、政宗様の背中を守って命を散らすのではないことが悔しくてならなかった。
「なら早速、その物騒なモン抱えた罪人の口を塞ごうじゃねえか」
政宗様の言葉は殆ど聞いたことのない響きを持っていて、感情が読めない。ただ、数刻後の運命だったものが数瞬後に変わっただけなのだと思って、瞼を下した。
静かに足音が近づくのが聞こえ、奥歯を噛みしめた。十年以上もの忠義に免じて苦しまずに逝かせてくれるだろうか、と思う。どちらにしろ結末は同じなのに。

気配が間近に来て、足音が止まる。
いつ冷たい刃が喉に当たるかと瞳を閉じたまま待ちかまえていると、代わりに柔らかく温かい感触が唇に触れた。
驚いて瞠目すると、眼前一寸もない位置に政宗様の顔があり、先ほど扇子で隠されていた口元は、彼の前立と同じ奇麗な三日月を模っていた。
「罪人が罪人を裁くなんて莫迦な話は無えだろ?ガキの頃から俺の魂を盗んで一時たりとも返しやがらないPhantom thiefめ」
そう言って愛しい愛しい我が主は、六爪を握り奥州を護る腕でこの身を力の限り抱きしめた。






「taboo:禁止」 曲解して「罪」かなぁと。
世継問題を起こしかねない出来事を作りたくないマイナス思考小十郎と、そんなん全力で踏みつけ蹴散らしてわが道を行く政宗様。