080:telephone
ヘタリア 伊独





イタリアが「たすけてー!たすけてー!」なんて電話で叫ぶから場所を聞いて駆けつけてみれば、捻挫して動けないとのことだった。しかもこちらの家に来る際に僅かな段差で転んでという、ドイツからしてみればとんでもなくくだらない理由であったので盛大に溜息をつかざるを得なかった。
捻挫しただなんて聞いてなかったから当然応急箱など持ってきてはいないし車もない。仕方がないからドイツはイタリアを背負っていくことにした。幸い此処は人通りが少なく、ドイツ邸からも然程遠くはなかった。
「いつまでも泣くな!さっさと帰って手当てをするぞ」

歩き始めて幾許かした頃、鮮やかに青い小鳥が二人の近くを戯れるように飛んだ。
「あっ見て見てドイツ!青い鳥だよ!幸せ呼んできてくれるかなこっちこないかな」
「こら、俺の上で暴れるな!落としてもいいのか!!」
額に青筋を浮かべて怒鳴れば、当のイタリアは動じた様子はなく、やってきた小鳥が驚いて逃げ去ってしまった。
「あーあ、行っちゃった…。もー、ドイツのせいだよ!」
「元はといえばお前のせいだ馬鹿者」
言いながら鮮やかな青を目で追えば、街路樹にかかる鳥の巣で同じ色彩の小鳥たちが先ほどの鳥を賑やかに出迎えていた。ありふれているけどとても平和で和やかな光景。
それをぼーっと見ていたイタリアが、思い出したようにぽつりと言った。
「『どの鳥にとっても自分の巣が一番きれいだ』なんて言うけど、俺の居場所はやっぱりドイツの傍なんだと思うよ」
会ってそんなに経ってないのにねー、と笑った顔は、さりげなくひどい例えをしたことに気付いていなかった。
ドイツはそれに苦笑してから、彼の国の諺にそんな言葉があったなと思い返し、此の国にある似た言い回しの諺を返す。
「『屋根の上の鳩より手の中にいる雀がよい』なんて言うが、雀と呼ぶにはお前はあまりにもあちこちに行き過ぎる」
そうだろ?と肩越しに聞き返すと、イタリアはちょっとびっくりした顔をしてからまたへらりと笑った。

「いいじゃない、どんなに離れたって結局最後には一番居心地のいい『巣』に帰ってくるんだからさ」

その笑顔は、作りものでも愛想でもなく、安心した場所にいる笑顔だった。






「telephone:電話」
電話一本で呼び出される唯一無二の『巣』…。
外国の諺調べるのはおもしろいです。