083:trust
ヘタリア 普独?





これからお前がこの土地を統べる『国』だ。そして誰よりもどこよりも強くて立派な国になるんだ!
なぁに、心配すんなって!ヴェストはこの俺様が愛も力も知識もすべて注ぎ込んで大きくなったんだ。お前に出来ない事なんて一つもない!

そう言ってプロイセンは土地も人民も権力も含めた全てをドイツに譲った。
プロイセンがドイツという名になるか若しくは誰か傀儡を立てて裏のトップになるというのが大方の予想であったので、この世代交代とも言える引継ぎは近隣の国々の読みを裏切るものであった。
と同時に、ドイツ自身にとってもこの重い責任を預けられたことで信頼されてると感じきちんと大人になったと思えたのだ。

思えたのだが、しかし。
「ヴェスト、俺ちょっと出かけてくるから良い子で待ってろよ」
プロイセンは未だにそんなことを言いながら一方的にいってきますのハグとキスをし、ドイツの頭をくしゃくしゃ撫でてから出かける。
「俺はもう子供じゃない」
とドイツが抗議するとプロイセンのニヤニヤ笑いがより一層広がるところから察するに、それは逆効果であるようだった。
兄に子供扱いされるのは、別に仕事や戦いに際して別に困ることではない。ただドイツ一個人として極まりが悪いというか、むず痒い気分なのだ。
何か解決策はないものかとドイツは鏡の前に立った。
顰められた眉の下で見つめ返す空色の瞳はプロイセンとほぼ同じ高さまであり、成長不良だった昔とは比べ物にならないほどに肩幅や筋力も育ち、大人の体格になった。しかし顔はどう見ても十代で、それがいけないという結論にたどり着いた。
鍛錬を積んでも顔の改造までできないなと思った次の瞬間、オーストリアのオプションのことについて思い出した。そういえば彼は、地味な顔を隠し威厳を保つために眼鏡をかけていると言っていた。
「眼鏡…か、割れることがあるのが若干危険だな」
戦うために生まれた故に自ら最前線に赴く事が多くなるであろうドイツに、不安要素を増やすつもりはなかった。怪我の危険性と感情的な威厳云々のどちらを採るか、理性は一瞬以下の時間で判断を下していた。
一つ大きく息をつき、ふと鏡の脇に視線を移すとそこには整髪剤があった。プロイセンはこういったものを滅多に使わないから、先日オーストリアが滞在したときの忘れ物だろう。
このとき、ドイツが採る選択肢が決まった。


「ヴェスト、今帰ったぞ」
帰宅したプロイセンを出迎えたのは、いつもとは些か違う光景であった。
「おかえり。早かったな」
「ヴェ…スト…?なんだその髪型は…」
なんのことはない。目に入れても痛くないという言葉が過言でないほど可愛がっている弟が、少し髪型を変えていただけである。たったそれだけが、プロイセンに様々な感傷を与えた。
例えば、昔々子供のイタリアを追い回していたあいつに酷似している、とか。
例えば、大嫌いなお坊ちゃんと同じ整髪剤の匂いがするのが不愉快だ、とか。
例えば、一人前になっても子供だと思っていた弟が充分すぎるくらいに大人びて見えた、とか。髪型一つで人の印象が変わるのなんて前々から知っているのに、子供がずっと子供でないのなんてことも当たり前のように知っているのに、何故かそれがショックだ、とか。
「兄さん、どうした?――あぁ…、似合わないか?こういったのを自分でやるのは初めてだから」
ドイツは一分の隙もなくきっちりと後ろになでつけた髪に頼りなげに触れる。
プロイセンは力なく首をふるふると振って、無理やり笑みを繕った。
「いや、俺のヴェストはどんなになっても男前だぜ」
「そうか」
意味も分からずショックをうけていながら、意味も分からず感動している。
(ああこれが、これが親離れなのか)
プロイセンはどこか頭の遠いところでぼんやりと思った。
「そっか、お前も大人になったんだよな」
独り言のように呟いたつもりの言葉が、ドイツにも聞こえていた。
「まあ…な。『国』としてやっと一人前になったのだから、兄さんにもそう認めてほしかった。今まで沢山助けてもらっていたのだから、今度は助ける側に」
言葉にしてから照れがきたのかドイツはやや赤面して顔を背けた。大人になりきれてないその様子にプロイセンはくつくつと笑って弟の頭を撫でた。
「ああ、その時が来るのを楽しみにしておくぜ」


つまるところ兄にとって弟はいつまで経っても弟であって子供なのだ、とドイツが気づいたのは翌日のことであった。






「trust:信頼・責任・義務」
現代のドイツがオールバックにしてる理由がプーに拠るところだったらいい。