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戦国BASARA 小政小





気がつけばその地はただただ広く、眩しいくらいに白かった。
あまりにも見慣れない光景に政宗は首を傾げる。
その次に気付いたのは体の軽さだった。己の身を見返せば、足元ではたりと蒼い裾が翻っていた。
ああこれは夢なのだ。そう思った。
なぜなら政宗は疾うに老いていて、鮮やかに蒼い陣羽織を着ていたのは遠い昔だったからだ。
そう、これはかつて天下取りのために戦場を駆けていた輝かしい頃の姿。そう思えば心もその頃に戻るというもの。腰の六爪の重さを感じないことに若干の物足りなさを感じながらも、気の赴くままに歩を進めた。

長かったのか短かったのか分からないが、歩き始めて幾許か過ぎた頃、遠くに影が見えた。
形も碌に判別できない距離であったのに、政宗は影に向かって走り出した。直感が告げていた。あの影は――あいつだ。
走る速度に合わせてぐんぐん大きくなる影は、長身に半月模様の陣羽織を纏った彼は、間違いなく。
「Hey,小十郎」
「政宗様」
振り返った影――小十郎は政宗を見て破顔した。その姿もまた政宗の一番新しい記憶にあるものではなく、輝かしく苛烈であった過去の姿であった。
「政宗様、お待ち申し上げておりました」
小十郎は畏まって頭を下げ、その様子に政宗はぱちくりと瞬いた。こんな不可思議な場所で待ってろという命など下した覚えは無い。何せ小十郎は疾うに。
そこまで考えてから政宗は合点したように笑った。この世とも思えぬ場所、これは夢ではないのだ。
「ご苦労であった、小十郎。  って言うか、お前が行くの早すぎんだよ」
顔を上げ立ち上がった小十郎の眼に映ったのは、主のむくれた顔。機嫌を少しばかり損ねた様子の政宗に、小十郎は苦笑した。
「先に生まれたものが先に逝くのは世の理。政宗様の散々な無理難題をこなした小十郎とて、流石に理を曲げることは叶いませぬ」
「Huhn…まあいい。それにしても此処は随分と何も無ぇな」
「ここは『通過点』だからでしょう」
「通過点?」
「終着はあちらでございます」
小十郎が指し示した方向は、真っ白な世界の中でさらに輝きを増していた。
「はぁ?じゃあお前はこんな場所で俺を何年も待ってたのか!いつ来るかも分からないのに!」
「この身は龍の右目にございますれば。眼が本体を離れて自ら動き出すことなぞ無理なのですよ」
待たされた者の恨みがましさの欠片もなく、小十郎はさらりと言い切った。その何気なさに政宗はまたぱちくりと瞬いて、一呼吸後に満足げにくつくつと笑った。
「Ha!じゃあ小十郎もあの光の先は知らねえんだな」
「はい。この道を政宗様と一緒に歩くつもりでおりましたので」
「その道の先はHell or Heaven?ま、どんな修羅の道でも小十郎と一緒なら負ける気はしねえけどな」
「転生、という選択肢もありましょう」
「そうだな。そのときも小十郎はずっと俺の傍に居るんだろ?」
「勿論」
「それだけ解りゃ十分だ!こんな殺風景な場所で愚図愚図してる理由なんざ無え。小十郎、気合入れてついて来いよ!」
「無論、聞かれるまでもありませぬ」

そのたった一つの光に向かって、双つの龍は駆け抜けた。






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イメージはハリポタ7巻の『キングズ・クロス』みたいな場所。あの世とこの世の狭間。
wikiで調べて年齢差と享年を見て滾ったブツ。