093:wild
ヘタリア 羅独





「で、なんでお前がここにいるんだ」
ドイツが目の前の髭面の男に問うた。
「んー、また神様ぶん殴る機会があったからかな☆」
ありえない時代のありえない場所にいる男がありえないほどいい加減な返答をするのに、ドイツは頭を痛くした。


ローマ帝国と名乗るこの髭面の男と初めて出会ったのは、今この場所と同じドイツ邸の私室のベッドの上であった。
彼は孫に会いに来たといい、いつのまにかドイツの隣で寝ているイタリアに頬擦りをして、適当に話をして、来た時と同じように唐突に去っていった。
ドイツが史実でしか知らなかったことを彼は目の前で見たように語ったことと、銃を知らない様子だったことと、何より雰囲気がイタリアと似過ぎていたことを合わせて彼がローマ帝国であることは確かとも言えたのだが、長年憧れ続けた過去の大国がこのようないい加減な中年であるということに対してドイツの頭脳はそれを理解するのを些か拒否していた。


腰の上にどっかりと居座った男にドイツが問う。
「あー…ローマ?」
「何だ、聖人?」
なんの躊躇いもなく応えているので、あのときの男であることは確かそうであった。
「今日イタリアは此処にいないぞ」
「うん、知ってる」
「じゃあなんでここにいるんだ」
「だって俺お前に会いに来たんだもん」
「は…?」
髭面の男はにこにことした笑顔をを崩さず、ドイツには信じられない台詞をさらりと吐いた。
「正確に言えば、お前とヤりにきたってことかな」


「はあああ?!」
ドイツはその衝撃に飛び退こうとしたが、腰の上のローマの重さにそれは敵わず両腕がシーツの上をずるっと滑るだけだった。
ドイツには衝撃的すぎる告白をしたローマは何事もなかったかのように喋る。そんなところまでイタリアとそっくりだとドイツは思った。
「前会った時にアブノーマルなのしたことないって言ったじゃん?」
「ああ、そんなことがあったな」
「帰ったあとに、それ勿体無かったなって思ってさー。でもゲルマンに相手してもらおうとしても凄い勢いで断られて。ほら、あいつこういうこと禁忌だと思ってる節あるし」
ゲルマンというのはドイツの祖先だと伝えられている古代の英雄であった。その言葉が当たり前のように出てくるローマの様子に、彼の生きた時代をドイツは感じた。
「で、またこっちに来てみたはいいけどなんか金が要り様でさぁ、俺この時代の金持ってないし」
「金云々以前に、それは犯罪だ」
「え、この時代そんな厳しくなってんの?!」
「厳しいも何も、それが普通だと思うんだが」
「生き辛い時代に生まれて、お前も難儀だなぁ」
「そうでもないが…」
考えればローマがドイツを聖人と呼ぶのはこういう倫理観の違いが元であった。ドイツから見れば自分は聖人などでは決してなく、このローマという男が良く言えばワイルド、悪く言えば粗野にすぎるのである。
『国』である以上あんまり感じることのないジェネレーションギャップにドイツは溜息をついたが、ローマが次の台詞を吐いた瞬間にそれは溜息で済むものじゃないことを思い出さざるを得なかった。
「で、今の時代に知り合いなんてお前しかいないから、ちょっとヤってみようかなーなんて」
「いやいやいや、なんでそうなる?!」
「時代は変わったんだから別に掘られるのは禁忌とか不名誉とかじゃないんだろ?」
「だからといって名誉なんてことは決してないぞ!」
「大丈夫、俺上手いから」
「何が!」
「何がって、ナ・ニ・が☆ 皆まで言わせるなんてお前も結構Sだなぁ」
「煩い!俺はそんなつもりなんかない!」
ドイツは渾身の力でベッドから這い出ようとしたが、最盛期の姿をとったローマの力にそれは敵わなかった。
その力でローマはドイツの両手首を一つに纏めてがっちりと片手で封じた。
「そんな怖がらなくても大丈夫だって。珍しく勉強だってしたし準備もしたし、金髪で美形ならなら俺勃つから」
「そういう問題じゃない!」


恥も外聞も近隣住民への考慮もなく全力で求めた助けは、差し伸べられたのか否か。
それは彼等だけが知ることである。






「wild:野生の・手に負えない」
古代ゲルマン民族は掘られる=不名誉というのをどこかで聞いた気がしたんだけど、ソースがない。
そして独受け書こうとするとことごとく下品になるのは何故だと、己の脳に小一時間問い詰めたい。