095:wistful
ヘタリア 普独普





「神は全ての者を必要として作り、そこに愛があり、全てに意味がある、なんて言うがな」
そう彼は切り出した。

だったら俺達は何なんだって話だ。
産めよ増えよ地に満ちよ、なんて命令を一番に下した癖に、俺達にはそれが無い。無いどころか、気がついたらぽんと生まれ出ていて、互いに潰しあい戦うのがアイデンティティで、国が消滅するときには死体も残さずきれいさっぱり姿を消すってなもんだ。
その代わり、土地と国民と文化がある限り滅多な事じゃ死なねえ。年単位で絶食しようが、計り知れない根性で不眠を貫こうが、体力を著しく損ないはしても死にはしない。性欲に関しては目に見えて分かる例をあげりゃ、女の数が少ないことが、人としての在り方を裏切る証明だ。地に満ちることよりも、潰しあうための即戦力になることの方が優先される。そういうイキモノ。 今考えれば、聖母マリアの名を冠しながら神の為に云々やってた時代の俺にそこまで考える頭がなかったのは正解だったんだな。世界ってのは都合良く出来てやがる。
話が逸れたな。じゃあなんで俺達は人間の形をしたイキモノなのか。それは俺達が「人間」が作った文化や軍事力その他諸々の象徴だからだ。これを体現するのは、他のどの生物でもなく人間でなければならない。もっと詳しく言うなら、人間と同じ感情をもち人間と同じ欲求を持った人間の形をしたイキモノでなければならない。
やたらと丈夫なくせにいつ消えるか分からず、神の愛や作られた意味や必要性も分からないまま、無駄で無意味な欲求を抱える。存在すら無駄なのかもしれないと思いながらも、生きなければならない。それが俺達だ。


「で、結局兄さんは何が言いたいんだ」
やたらと持って回った言い方をした理由を問い質す。元々、結論が先に来ない演説には苛々する性質だ。俺も彼も。そして彼から得た言葉は、ごくごく簡潔で単純で原始的な結論且つ提案だった。
「寿命すら分かんない人生なんだし、最高に無駄で最っ高にキモチイイことしませんか?」
差し迫るEU会議で俺が議長を務めることを知っていてこんなことを言い出すんだからこの人は始末に負えない。夜の誘いは夜にしてほしい旨を伝えれば、
「お兄様は今がいいんですぅー! ちなみに、答えはjaしかみとめないからな!」
どこぞのKY国家のような言葉を聞きながら一つの苛立ちも感じないなんて、俺はきっとイタリアに甘い以上に身内に甘い。特に、一人楽しすぎると言いながら寂しさを全力で持て余している、唯一兄と呼べる人に対して。
どうやら今俺にできることは、彼の求める要求に応じることだけのようだ。






「wistful:物欲しそう」ちょっと曲解して「欲望」な感じで。
国や都市である彼らには多分生殖機能は無いと思うんだけど(そうでなきゃ半エルフみたいな子ができちゃう)、各種欲求があるのは人間であることを失わないためだと思う。
部分的にマブラヴオルタの受け売りですが。