BASARA 秀+半





「半兵衛」
名を呼ばう低い声に、思考の海に沈んでいた半兵衛の意識は現に浮上した。気付けばそこは秀吉の居室の前で、ちょうど部屋から出てきた秀吉と鉢合わせたようだった。
「随分と考え込んでいたようだが、何かあったのか」
「そんなことはないよ。ちょっと今後の予定を立てていただけさ。今日、ちょっと面白い人材が入ってきたものだから」
半兵衛は笑むが、反対に秀吉の表情は僅かに曇る。
「大谷のことか?」
「耳が早いね」
「先ほど知らせが来ていた。智に富んだ者だと聞く」
「そうなんだよ。元服が済んだばかりの歳なのに兵法の知識は僕と張れるくらいあってね、実戦経験はないんだけど出陣を繰り返せばきっといい軍師になる。風流の造詣も深いし口が上手いから外交にも向いてるかもしれない」
半兵衛の饒舌さからよほど見込みのある者なのは容易に察することができたが、それだけに気になる点のみが秀吉の意識に棘を増す。
「……だが、その者は病を得ているのだろう」
その言葉に半兵衛の顔が強張る。
「そんなところまで君の耳に入れるつもりはなかったんだけど――不安は少ないほうがいいからね。彼が病人であることは事実だよ。他人に感染るものではないけど露骨に見た目に表れるものだから、秀吉が不快だと思うなら君の前には現れないように指示しよう」
「そういうことを言っているのではない。ただ、病持ちはこの戦乱の地では生き辛かろう」
身体が弱いということはそれだけの障害があるということだ。障害があるということは早々に死ぬ可能性が高いということだ。ひとたび戦があれば健常な者でさえ数多に命を散らすというのに、暗殺の手が伸びても抵抗する力が弱い身体というのはあまりにも儚い。
秀吉自身は力のために覇道のために全ての情を捨てる覚悟をした。しかしその覚悟を、身内に強いるつもりはなかった。半兵衛が自分以外の軍師を欲しがっていることは知っていたが、掌中の珠のように大事に育てた者を失う想いを、この友にはしてほしくはなかった。
その心もまた捨てたはずである『情』だということに秀吉は気付いておらず、またその憂える心を口にする術もなかった。

「ねえ秀吉」
半兵衛の声が堅く響く。
「僕はね、君のために、豊臣のために、使えるものなら死人でも使う覚悟があるんだ」
その言葉に秀吉は言葉を失う。気づかないまま半兵衛の逆鱗に触れていたようだ。
直後、先までが嘘のように半兵衛は綺麗に笑んだ。
「ちょうど話に出たんだ、彼を呼んでこよう」
そう言って遠ざかった背を、秀吉は立ち尽くしたまま見送る。
半兵衛の瞳が一瞬だけ見せた昏い光があまりにも鋭かったのがあまりにも印象的だった。『死人』の中に半兵衛自身さえも含んでいるように聞こえたのは気のせいだったのだろうか。






未プレイの3のキャラへの愛が滾りすぎた結果がこれだよ!
三成や大谷さんが、二人っきりの世界を作りすぎてるこの二人にとってどういうポジションだったのか考えると胸熱です。