BASARA 小政小





ざあ、と風が吹き数多の花弁が舞い散る。それはまさに桜吹雪という名そのものの光景であった。
常人なら魅せられるであろうその瞬間に小十郎は目も奪われず、その桜の下に座すたった一人の主をじっと見つめていた。
「こんなところにいらっしゃったのですか、探しましたぞ」
ひとつ溜め息と共に言えば、ひとつきりの瞳がちらりと視線をよこした。
「書き置きしただろう」
「『桜を見に行ってくる』だけで居場所が分かるとでもお思いですか」
「実際今探し当てたじゃねえか」
予告なしに始まる鬼遊びのようなこの戯れは幾度となく行われてきた。そしてその一度たりとも『鬼』が負けたことはない。『鬼』たる小十郎は、色々と小言を言いたい気分は山々だったが、政宗が無事でいることにひとまずは安堵した。国主が出歩くには白い道着に袴という出で立ちはあまりにも軽装過ぎるとは思ったが、それだけ奥州が平穏であるという証左なのだろう。

「もう陽も落ちます。そろそろ帰らねば」
「政務も終わらせたんだ、もう少しいいだろ?折角だからお前も見て行けよ、この特別な桜をよ」
「特別、ですか」
高台にある畑から視認できるかできないかといえるほどに遠い場所にあるそれは、他の桜の木とは一線を画して古く大振りだ。しかし、ただそれだけの桜であるように見えた。
「小十郎、この桜の謂れは聞いたことあるか?」
「何かあるのですか」
「この桜は毎年見事な桜を咲かせちゃあいるが、一度も満開にならずに散るんだとよ。なんともamazingだろう」
なるほど言われてみれば、まだ固く閉ざした蕾も見受けられ八分咲きにも満たないほどなのに、ひたすら散り終わるのを待つばかりと言わんばかりに桜吹雪を見せている。
「なんとも面妖な…」
「そう聞いちまうと満開を見てみたいと思わねえか」
「満開にしてみましょうか」
「できるのか?」
「広い日ノ本、調べれば咲かない桜を咲かせる方法が見つかるやもしれませぬ」
「……Not so good. それはやめておこうぜ」
「ほう、何故です」
政宗は目を眇め、散る花弁を眺める。
「完璧ってえのが必ずしも美しいって訳じゃねえ」
呟く政宗の言に、小十郎は表情に出さず深く得心した。その瞳に映すのはやはりただ一人の主だ。この主が両目揃っていたら、有能でははあれど光るものの無いありふれた人物であっただろうという根拠のない確信があった。今あるような大衆を強く惹き付け導く力と内側から輝くような容貌は独眼であるからこそと思えば、それは政宗の言う『不完全の美』なのだろう。
「…お前、桜見てねえだろ」
「よくお分かりで」
即答すれば政宗は喉の奥でくくっと笑ってからおもむろに立ち上がった。
「そろそろ見頃も過ぎ始めてきたし、終わる前に城で花見partyしようぜ」
「戦前の準備で詰めてた者どもの労いにもなりましょう」
「久々に賑やかになるな」
「ええ」
応えながら小十郎は空を見る。西の空は晴れ渡っていて、良い月夜になりそうだ。月に照らされた桜を愛でる政宗、という構図もまた美しいだろうと思うと小十郎の口元が僅かに緩んだ。
「Ah?何だらしねえ顔してんだ」
「いえ、なんでもありませぬ」
「そうか?…まあいい、さっさと帰るぞ。もう陽が落ちるんだろ」
先程決まった予定を楽しみにする主の頬は桜色に綻んでいる。そんな様を誰にも見せたくないと一介の従者が思うのは烏滸がましいだろうか。







HDC特典映像公開してあちこちで袴伊達が書かれまくってて、乗るしかないこのビッグウェーブに!とか思ってたら波に乗り損ねました。
何気に東方de双竜第三弾・妖々夢編だったりします。主のためになけなしの春を集めるこじゅって素敵じゃね?