封神 聞仲+黒麒麟
※転生パロ・黒麒麟がヒト型





がたたん ごととん
がたたん ごととん

夏の頃よりは少し大きくなった電車の音に、身体が僅かに揺さぶられる。黒衣の男は背筋を伸ばしたまま、その隣に座る金髪の男は瞼を閉じたまま。
金髪の男は寝入ってるのか、隣人に頭を預けていることに気付かない。

がたたん ごととん
『えー、まもなく――』
『次は、終点――』
車掌の声が無機質に車両に響く。

停車するために電車が減速し、金髪の男の身体が更に傾ぐ。頭どころか身体ごと預けられている状態になった黒衣の男は、しかし不愉快な顔をするでもなく、むしろ心地よさげな穏やかな笑みを浮かべていた。
彼は少しだけ瞼を閉じて、ある光景を想い起こす。

それは、鮮やかな夕陽。消える間際に一際輝く蝋燭のような、明るくも儚い夕陽。
崩れかけた岩の間に見えるそれは地平線すら見えず、余りにも澄んだその景色はこの世のものとは思えないほど美しかった。
その美しさを誰かに伝えた気がしたのに、その『誰か』が誰かわからず、顔すら思い起こせないでいた。

黒衣の男は隣の男を見遣り、思う。彼こそがその『誰か』だったのだと。
地毛であろうその細やかな金糸の髪は毛先が緩く巻き、朱色の夕陽に染まればそれはそれは美しい輝きを放つのだろう。旧い記憶ではほぼ常に眉間に皺を寄せていたが、今は眠っているからか緩やかになだらかになっている。凪いだ湖のような碧眼を見てみたいと思ったが、それは髪と同じ金糸に縁どられた瞼に閉ざされている。
見たことのないはずの旧い光景に重なる人物があまりにも近くに居て、知らず心音が強く早くなる。

がたたん ごととん
がたたん ごととん
『えー、まもなく、終点――』
『車内にお忘れ物ないようご注意ください』

この終点こそが黒衣の男の最寄駅であるが、金髪の彼はどうだろうか。考えても行く先は一つしかないのだが。
寄り掛かっている彼の肩を優しく揺さぶる。
「もう終点ですよ」
その言葉に呼応するように瞼がゆるやかに持ち上がり、想像したものと同じ色の碧眼が覘く。かつてあった額にあった第三の眼はないものの、闇色のコートや面差しの相違のなさに黒衣の男は確信と共に笑む。
しかしここから先の一言はある意味賭けだ。
「お疲れのようですね。今生でも仕事に追われているのですか、聞仲様」
その言葉に驚きで目が大きく開き、すぐに怪訝な表情になる。見覚えのない顔だからだろう。
「何故、その名を……」
「お久しぶりです、聞仲様。共に夕陽を見た者、と言えば思い出していただけますか?」
聞仲と呼ばれた金髪の男はぱちくりと瞬いてから、納得したように笑んだ。
「まさか人として出会えるとは思ってなかった」

がたたん ごととん
『終点――、終点――』
『この列車にはご乗車できません』

「夢を見ていたんだ」
ホームに降り立った聞仲は言う。
「さきほど、ですか」
「ああ。身近には見知った顔ばかりそろっているのに、どうしても何か欠けているような気がして『あの場所』の環状線をぐるぐると探し回っている夢だった。まさか、現<うつつ>で隣にいるとは思わなかったが」
「主に無駄足を踏ませるなど、私はとんだ不忠者ですね」
「まったくだ」
そう言って二人は笑う。
「私の最寄駅はここですが、聞仲様は?」
「ここより数駅手前だったが、引き返す線ももうないようだからタクシーで帰ろうと思う」
「せっかく出会えたのに自宅までお送り出来ず残念です」
「妙な気を遣わなくていい。――じゃあ、縁があればまた会うだろう」
「ええ、いずれ」
旧知の別れにしてはあまりに淡泊に二人の男は別れた。連絡先の交換すらせずに。
約束などしなくても、そう遠くもない未来にまた会えるだけの濃い縁があるのだと互いに知っていたからだ。



遠い昔に黒麒麟と呼ばれていた男は、そのコートを――彼が通っている高校指定のロングコートだ――翻して帰路につく。その目には、聞仲のスーツにつけられていた社員バッジのロゴを焼き付けていた。
彼がそのロゴを冠する会社に入り、かつての確信通りに聞仲と再会するのは、数年後の話。






封神の二次をちまちまやってもう7年くらいになるんですが、初めて現代転生パロ書きました。うわぁお。
聞仲も黒麒麟も転生したら物腰が落ち着きすぎて老けて見られるタイプだと思う。