ジョジョ5部 ブチャアバ





要は『使い方』なんだ、とアバッキオは言う。
細身に見える体のどこにそんな力があるのかと訊いたときの台詞だ。
「同じパスタを食べるのにも、子供はスプーンで補助をしなきゃ上手く絡められないが、慣れればフォークだけで食えるだろ。体や筋力なんかも同じってこった」
オレだって『慣れ』たミスタになら勝てねえよ、と彼は笑う。突発的に始まったアームレスリングで、チーム一筋力のあったミスタをアバッキオが軽々とねじ伏せたのは数分前だ。
「オレは肉弾戦なんてしねえし、拳銃だけあれば充分なんだよ!なぁ、ピストルズ」
ミスタはいじけたようにケッと吐き捨てる。呼びかければピッツァに群がっていたピストルズは、ソウダゾミスター、オレタチガイルゼ、ナンノハナシダ、とやいやい叫ぶものだから賑やかさが倍増した。



それだけのパワーがあれば引くて数多だろうに、とブチャラティは言う。
昼間の出来事を思い返しての台詞だが、アバッキオにはいまいち伝わってはいなかった。
「警官という職業が続けられなくなってはいても、もっと日の当たるところに居続けることができたんじゃないか、と思うと少し勿体無い」
アバッキオは漸く文脈を汲んだように、ああ、と呟いた。
「ここまで堕ちてこなきゃ、オレはアンタに会えなかったし、ここまで持ち直すことができなかった。『ブチャラティを守る』というオレの生きる意味をくれたこの場所に、不満なんざひとつも無えよ。だからこれでいい」
しかし、「ただな」と前置きしてアバッキオは苦笑する。
「ブチャラティは強いからな」
「……どういうことだ?」
「アンタは強い。心も体も、スタンドも。オレが護らなきゃいけないときは身を挺さなきゃいけないときだ。だからオレはきっと最後まではアンタについていけないかと思うと、少し寂しい。それを受け入れる心積もりはとうに出来てるけどな」
ブチャラティは表情を変えずに唖然とする。真意を理解するまでに数秒を要していた。
「お前は、オレを残していく…のか…」
「そういう言い方をするもんじゃあない。アンタはキングでオレはポーンだ。キングが倒れちゃポーンは何の意味も為さない、それだけのことだ」
(それが、己を二の次にして、駒になってまでオレを護るのが、お前が決めた『お前の使い方』か)
そう詰ってやりたくなった。しかしそうしたところでアバッキオは困るだけなのだろう、というのは分かっていた。彼は混じり気のない本心で言っているのだから。その本心が彼の生きる意味だというのなら、尚更。
だから、偶には部下を護るって仕事もさせてくれよ、と笑うだけに留めた。それがブチャラティにできる精一杯だった。






1年ほど拍手お礼として鎮座してたブツです。
「ブチャがいなくなったあとのことなんか想定していないアバッキオ」というおはなし。