ジョジョ5部 ペシプロ





暗い裏通りを、大人一人を背負いながらペッシは歩いていた。背にはプロシュート、彼を抱える手にはいつでもビーチボーイを出せるように準備をしている。ギャングが跋扈する夜の路地を歩く術くらいは、チームに入ってすぐに覚えた。
家々の隙間に昇る月を見ながらペッシは、この道をこうやって通るのは何回目だろう、と考える。
チームメンバーで集まって宴会をやるのはそこまで珍しいことでもない。むしろ多いと言える。例えば誰かが大きな任務を達成した祝勝会であったり、例えば誰かが恋人に振られた失恋記念パーティであったりと、何かしらの切っ掛けがあればいい。酒を飲む口実が欲しい連中が集まって、デリを頼んだり片っ端から酒瓶を開けたりするのがその飲み会だ。
ペッシはチームに入るまでアルコールを摂ったことはなかったが、初めて宴会に巻き込まれたとき、自身がいわゆるザルであることとプロシュートが意外にも下戸であることを知った。
「こいつが下戸なのは知ってたが、それでもここまで泥酔してるのは初めて見た」
そう言ったのは、ソファで酔いつぶれているプロシュートを見たリゾットだった。
「自力で帰るつもりがなかったもな。ルームシェアしてるんだろう?連れて帰ってくれないか。流石に全員寝かせるスペースはここには無いんでな」
そう言われて二人の住むアパートまでプロシュートを運んで以来、飲み会の度にこんな帰途についている。剣呑なのに静かで暖かなこの時間を、ペッシは密かに気に入っていた。

扉の前まで辿り着いて部屋の鍵を出そうとし、プロシュートを抱え直した瞬間背中で身じろぐ気配がした。
「……うん?」
「兄貴、起きましたか」
「うぁ……ここ何処だ……?」
「家着いたとこっす。もうちょっと大人しくしててください」
「おう、お前いい子だなぁ」
「そんなこた無いっすよ」
首に緩く掛けられていた腕に力が籠り顔の距離が近くなって、ペッシは静かに動揺した。いつもの流れならここであの言葉が来る、と経験で知っていたからだ。
「なーぁペッシ」
「はい」
「愛してるぞ」
「……そっすか」
「なんだぁそのやる気のない返事はぁ」
「まあ、そりゃあ、何度も言われれば」
「いってねーぞぉ」
「言ってましたよ。こんな風に酔ったときに」
語尾を間抜けなくらい伸ばして管を巻きながら愛を説く兄貴分に、ペッシはそっと嘆息する。こんなやり取りはもう片手を越える回数繰り返してきた。そしてそのどれもを、翌朝のプロシュートは覚えていなかった。
最初こそ狼狽え一睡もできないままどう返事しようか悩んでいたが、「連れ帰らせて悪いな。飲み会途中からさっぱり記憶無えわ」と毎回言われれば酔っ払いの戯言だったのだと諦めもつく。諦めはついたが慣れるというわけでもなく、このやり取りの度に心臓が早鐘を打つのは止めようがなかった。
さっさとこのやり取りを終わらせたくて、片腕でプロシュートの腰を支えたまま手早く鍵を開け、ベッドに直行し彼を寝かせる。そのまま大人しく眠ってくれればこのミッションは完了する、はずだった。
しかし今宵のプロシュートはいつもより少しだけ意識がはっきりしていたらしい。空色の瞳がペッシを見上げて、怪訝に顰められる。
「なんでオメー泣きそうな顔してんだ」
「してねえです」
「オレに好かれるのがそんなに嫌か」
「そうじゃないっすけど」
酔っ払いの冗談を毎回真に受けそうになる自分が嫌になるだけで、と言いかけてそれは心の中に留めた。正常な判断が出来ない相手に恨み言を言っても無意味なのは知っている。
何度言われても本心のところでは流せないくらいにはプロシュートのことを好いているが、それが憧れなのか恋愛なのかが未だに分かっていないのも、またいけなかった。
「オレは本気だぞ」
「……じゃあまた素面のときに言ってください」
「おう」
「覚えてたらでいいっすけど」
「忘れる訳ねぇだろ。起きたらいの一番に言ってやらぁ」
そう言ってプロシュートは機嫌よさげに笑い、ペッシの頭をくしゃくしゃと撫でてそのまま眠りに落ちた。
彼の宣言にやや呆気にとられたペッシは、少し紅潮しながらブランケットをかけた。プロシュートは有言実行な男だと知ってはいるが、泥酔時まで適用されるのかまでは知らない。しかし、本当に覚えていてくれるなら、誠意をもって応えようと心に決めた。






14/10/30まで拍手お礼にしてたものです。
何事も男前だけど恋愛下手で、酔わないと告白できない兄貴とかかわいいと思う。
あとペッシは、完全に飲めない下戸かどんだけ飲んでも酔わないザルかの両極端なイメージがあります。何故だろう。