携帯獣BW ノボシャン
※シャンデラの口調とかサブマス宅とか何からなにまで捏造





マスターがつけっぱなしにしたテレビが、何事か喋っている。それに気づいたわたしは誰も見ていないそれの電源を消そうとして近づいて、ふと手を止め画面に視線を合わせてみた。
シンオウ地方に伝わる神話について、学者と司会が紹介したり話したりしているらしい。

『人と結婚したポケモンがいた。ポケモンと結婚した人がいた。昔は人もポケモンもおなじだったから普通の事だった』

読み上げられた言い伝えを聞いて、わたしは目を瞬かせた。マスターたちはわたしたちをあまりボールに入れたままにしないから、これでも今まで長いこといろいろ見聞きしてきたつもりだったのだけど、そんな話を聞いたのは初めてだった。遠い地方のものだからだろうか。
「イッシュにはポケモンと結婚できる法律はありませんが、生涯の伴侶と呼べるくらいに愛情を注いでる人たちは少なくないですよね」
「運命の相手とも言うべきポケモンと出会えることは幸せなことですよ。人間同士でもそうですけど」
「まったくです」
テレビの中の学者たちがそんなことをにこやかに話している。イッシュで神話といえば兄弟が仲違いするものだから、神話にこんなに優しくて哀しいものがあるなんて知らなかった。

『人と結婚したポケモンがいた』

読み上げられた言葉がわたしの中にリフレインして止まらない。人間とポケモンの間にたまごは生まれない。それでも『結婚』するということは、愛情をもって共に生きるということなのだろうか。
そんな相手を思い浮かべるとき、わたしはひとりの人間を思い浮かべる。無愛想なようでいて、ときどきほころぶように柔らかく笑う、黒がとても似合うひと。彼が幼いときから共に居る、わたしのマスター。
叶わない想い。持っていてもしょうがないとは知っているけど、それでも捨てられない想い。

「シャンデラ、何を見ているのですか」
想っていたその人がいつの間にか背後に居て、わたしはびくりと跳ねた。テレビを消そうとしていたはずなのにすっかり見入っていたのがなんだか恥ずかしい。
マスターはわたし越しにテレビを少し見て、話題を把握したようだった。
「人とポケモンの結婚、ですか」
彼は笑うだろうか。こんな古のおとぎ話を。そしておとぎ話に惹かれるわたしを。
「そんな話の後にこれを持ち出すのは、気恥ずかしいのですが」
そう言ってわたしに見せるように差し出されたのは黒い小箱。ミュージカル用のグッズも取り扱ってるジュエリーショップの店名が金で印字されている。
「貴女にこれを渡そうと思っていたのです。貴女は覚えてらっしゃらないかもしれませんが、明日はあなたの誕生日なんですよ」
小箱の中には、炎のジュエルを加工したペンダントが入っていた。
「本当は指輪にしてもらおうと思ったのですけど、貴方は指輪がつけれませんから…。私の感謝と祝福と愛の気持ち、受けとっていただけますか?」
わたしは情けないくらいにか細い声で一声応えて、頷くようにゆっくり揺れた。マスターはペンダントを割れ物のように丁寧に手に取り、輪を広げて見せた。わたしがその輪をくぐると、鎖が腕に引っ掛かってさらさらと涼しげな音を立てる。
「よくお似合いですよ、シャンデラ。これからもずっと共に生きてくださいまし、わたくしの愛しい女性<ひと>」
そう言って彼はわたしの手をとって懇願するように口づけた。驚きと愛しさに体中の炎がぶわりとひとつ大きくなったのを感じる。
そんなこと。そんなこと。乞われなくても答えなんて決まってるじゃない。
わたしは人間の言葉で喋ることはできないけれど、わたしの言葉で一声応えれば全てを理解したように彼は強張っていた顔をふわりと緩めた。
なんで手持ちのポケモンに話しかけるのに緊張なんてしてたのかしら、なんて思うと愛しさがますます募って、ジュエルの効果なんて目じゃないほどに体中があつくなる。

大好きよ、ノボリ。世界で一番大好きな、わたしの愛しい人間<ひと>。






ダイパやったことないんですが、あの神話を知ったときに異種間カプ萌えの血が騒いでしょうがなかったので、サブマス習作も兼ねてノボシャン。

12/10/31〜13/10/30までの拍手お礼でした。