BW エメクダ

※インノボもデキてる




クダリがエメットのデスクに来て話しだしたのは、その日の定時後のことだった。
「ねえエメット、今日の夜って空いてる?」
「本国に送るレポートに思いのほか手こずっちゃって、遅くまで残ってくつもりなんだけど……もしかして夕飯のお誘いだった?」
「まあね」
「クダリからって珍しいじゃん」
「元々ノボリ兄さんと一緒のつもりで準備してたんだけど、ドタキャン食らっちゃったんだ」
「ははは、そりゃあ残念。ノボリも急な残業だったの?」
「いや、インゴさんとデートだって。せっかく誕生日に恋人がそばにいるんだから、そっちを優先させたいってさ」
「インゴも隅におけな……あれ、はぁ?ええ?!」
「どうしたの」
「どうしたもこうしたも!!」
深く深く溜息をつくエメットを、クダリはきょとんと見つめていた。
「誕生日って、ノボリのだよね?」
「うん」
「ってことは、クダリもだよね?」
「うん」
「ボク聞いてないんだけど!!」
「言ってないし、聞かれてもないからね」
「そりゃあ、訊いてなかったのはボクのミスだけどさぁ……」
「ミスでもなんでもなく、知らなかったことを今知ったってだけでしょ?何をそんなにうなだれたり叫んだりすることがあるんだよ」
「付き合って初めての恋人のバースデイなんだから一緒にお祝いしたいじゃん。っていうか、ボクは、したいの!」
「あー……あー……そういうことかぁ。じゃあもしかしたら兄さんたちのデートも、言い出したのはインゴさんの方なのかな」
「多分ね。ドタキャンだったってことは、インゴも今日知ったんだと思う」
エメットの推測を元に、クダリも推測を重ねる。


朝からどことなく上機嫌なノボリに、インゴは理由を訊いたのだろう。
「今夜久しぶりにケーキを食べるんです。小さなものですけど、今一番人気の店のを予約したんですよ」
「わざわざ予約まで?何かあったんですか」
「私とクダリの誕生日なんです。毎年この日はちょっと豪華な夕飯とケーキを用意して、二人で乾杯してるんですよ」
にこにこして言った言葉にインゴが過剰に驚いて、そのことにノボリも驚いたことだろう。
「ワタクシ、何も用意してません」
「ああ、プレゼントをおねだりするつもりはありませんよ。お気持ちだけで充分です。ありがとうございます」
「いえ、そうではなく……それもあるのですが、付き合って初めてのバースデイなのだからお祝いにデートしたかったなと思いまして……」
雰囲気も性格も真逆に見える彼らは、妙なところで思考が似通ることがたびたびある。
「デート、ですか」
その言葉にノボリは迷ったに違いない。先約はもちろんクダリだ。しかし兄弟のこの習慣は、形式は違えど物心ついたときから繰り返してきたものだが、インゴと過ごす誕生日は1年間の研修期間のうちである今しかない。ノボリとインゴのどちらかが便宜を図らなければ、来年以降は共に過ごすことすら難しい。
ノボリは悩みに悩んだ結果、インゴをとったのだろう。
そう考えれば、ノボリの土下座せんばかりの謝罪にも納得がいくし、どの言動もありそうだと思えた。
「いつか埋め合わせしますから!」と言うノボリをなだめて、「僕のことは気にしないで、楽しんできたらいいよ。飲み過ぎには気を付けてね。いってらっしゃい」と送り出したのはついさっきのことだ。


「っていうかインゴもダブルデート提案するとかすればいいのに。気が利かないなぁ」
ぶちぶち愚痴るエメットを聞き流しながら、クダリはふんふんと納得するように頷いた。
「いや、いきなり予定変更するなんて兄さんらしくないなと思ってたんだ。そういうことか。――じゃ、エメット、レポート頑張ってね。お先ー」
「いやいやいや、なんでそこで帰っちゃうかな!」
退室しようとしたクダリのコートの裾を、エメットは寸でのところで捕まえて引き留める。
「まだ何かあった?あ、ついでだからエメットの誕生日聞いていい?」
「半年以上先だからまたそのとき言うよ。……じゃなくて、クダリはこの後どうするの」
「予約してたケーキ受け取りに行って、仕込んでた料理仕上げて、どっちも半分食べて、風呂入って寝る、かな」
「一人で?」
「一人で」
「な、なんでそんな悲しいこと……!」
「しょうがないじゃん。兄さんはデートでエメットは残業なんだから」
「クダリのためだったら残業するのやめるに決まってんじゃん!」
「レポートの締め切り近いんでしょ」
仕事をないがしろにする人は嫌いだ、と言外に言って睨めば、エメットはぐっと声を詰まらせた。
「明日早く来て全力で仕上げればなんとかなる、はず!それに、今日この日にクダリが一人で過ごしてるなんて思ったらレポートなんて手に着かないよ」
ほとんど懇願されるように引き留められて、こちらが祝われる側なのに妙なことになったなとクダリは思った。ただ、この年下の恋人に対して甘やかしてやりたい気持ちはあるし、誕生日を寂しく過ごすのは本意ではない。
「まあ、そういうことなら、しょうがないか。ただし、朝仕上げるだけの状態にできるまでは、今やっておくこと。終わるまで待ってるから」
「分かった!超特急で仕上げる!」
「安全運転で頼むよ。――あと、僕のこと祝おうとしてくれる気持ちは充分伝わったけど、一番大切な言葉言ってくれてないんじゃない?」
「一番……?ああ!誕生日おめでとう、クダリ!」
「……ありがとう」






15/10/31まで拍手お礼にしてました
うちのアニクダくんはツッコミのくせに妙なところでズレてるので、かわいくないなぁと書いてて自分で思います。
公式で誕生日が出ていないキャラって、こういうネタ書くタイミングがなかなかない。