ペルソナ5 主→(←)喜多
※ 主人公の名前は来栖暁(コミック版引用)ですがキャラ設定はコミカライズに準拠していません




祐介の寮にはクーラーなどという気の利いた電化製品は存在しない。学期内は教室の空調でどうにかなる暑さも夏休み中はそうもいかず、寮生は各々ファミレスなどで暑さをしのぐことになる。
祐介もまたそれにもれず、しかしファミレスに長居するような金も持ち合わせていないので、もっぱらルブランに通い詰めていた。マスターの好意でコーヒーのお代わりは自由で長時間居座ることも許してくれるし、アジトに集まる際はすぐに屋根裏に行けるし、暁の時間さえあれば共に過ごして絵画の題材探しも手伝ってもらえる、一石三鳥であるからだ。



店じまいしたルブランで祐介と暁はコーヒーを飲みながら二人で語り合っていた。
話題は色々あったが、メインはさきほどまで見ていた映画の話だった。
祐介が今日はここにくるまでに立ち寄ったレンタルショップで借りたそれは、ある画家の一生を描いたものだった。(こういうときに屋根裏部屋の存在に祐介は感謝する。クーラーすらない寮にDVDプレイヤーがあるはずもないので)
映画は祐介の直感がうまく働いていたのかとても興味深く面白いものであった。幼馴染の女性に懸想していたその画家は貧乏を理由に想いを伝えることはせず、彼女が資産家のもとに嫁いだのちその恋心をキャンバスにぶつけ魂を削って書き上げた一枚の絵画は彼の代表作となった、というくだりは思わず感情移入し涙がにじんだ。
「あれほどまでの情熱・エネルギーをもたらす恋というものは、かくもすさまじいものなのだな」
「そうだな」
「いつかああいった恋や愛情の心というものを描き上げてみたいのだが……今はなかなかに難しそうだ」
「祐介は、恋、したことないのか」
「したことがあったら家族愛を恋愛と見間違えることはなかっただろうな」
「ははは、そんなこともあったな。いつか祐介も恋というものを理解できるといいな」
「ああ」
ふと、いつもなら気付かない些細な言い回しがひっかかって祐介は首を傾げた。
「暁は恋を知っているのか」
すると暁はすこし照れたように小さく笑い首肯した。
「うん。っていうか、今してる」
「なんと!!!」
「祐介うるさい」
「すまん……いや、あまりに驚いたからな。いつも忙しそうにしているのに恋人をつくる暇があったとは」
「そこまでいってないよ。俺の片思い」
「なんと」
今度はなんとか声のボリュームを抑えることに成功した。
「お前ほどの男だったら、告白されて惹かれない女性はそうそういないだろうに」
「祐介みたいな顔面偏差値にそう言われると逆に嫌味に聞こえる……いや、なんでもない。俺はね、告白するつもりはないんだ」
「何故」
「うーん、相手に俺より優先するものだあるから、かな。その人は熱中していることに今一生懸命で、俺はそれを応援してる。だから俺の勝手な気持ちを押し付けて水をさすようなことはしたくないんだ」
「ふむ……」
相手を愛するがゆえに自分は身を引く。映画のあの画家と同じか、と思う。そういう愛の形もあるのだろう。
だが、暁の想いは報われるべきだと思わずにはいられなかった。
その想い人とやらを愛しているのは、不運ながらもそれにめげることなく悪に立ち向かう、強く賢く正義感の強い我らがリーダーなのだ。優先するものとやらに熱中して暁を一瞥もしないその女性の肩を揺さぶって目を覚まさせてやりたいと怒りすら覚えた。
「もし俺なら――」
ふと口をついて出た言葉に祐介は自分で驚く。
もし俺がその女性なら、という仮定をして何になるというのか。祐介も暁も男なのだから。
「どうした、祐介」
「いや、なんでもない……」
「そうか。――あ、もうこんな時間か。寮の門限大丈夫?」
促されて時計を見れば、だいぶ夜も更けた時間だった。節約のために数区間分歩くことを考えると、かなり門限ぎりぎりだ。
「あまり大丈夫ではないな。それではお暇する。おかげで有意義な時間を過ごせた。ありがとう」
「こちらこそ。気を付けて帰れよ。じゃあまた」
店先で見送ってくれる暁に手を振り返し、祐介は速足で寮の方向へ向かう。
ほとんど無心で歩く道中、もし俺なら、の続きをなんと続けようとしていたのかずっと考えていた。






16.10.31〜17/10/30まで拍手お礼にしていたものでした。
お前が目を覚まさせてやりたい相手はお前自身だよ、という話。
ユースケはあんだけイケメンなのに変人で鈍感そうなのがとてもかわいい。かわいい。