刀剣乱舞 おてたぬ





一緒に戦場に出て、同じ話をして意気投合したのがきっかけで、「本丸での同居人」から「仲間」になった。
本丸で過ごすうちに気があったし楽しかったから、「仲間」から「友人」になった。
ひとの身体を得て戦以外のことに楽しみを見出している仲間たちをみて、「よくわかんねえな」と思うところまで一緒で、そう思っているのが他にお互いしかいなかったから、「友人」から「親友」になった。
御手杵が三名槍コンプレックスでいじけているときは、いつもの笑顔を見せてほしくて不馴れなりに励ましたこともあった。
逆に同田貫がいきなりの刀種変更で戸惑っていたときには「夜戦行けるのかぁ、羨ましい。俺はどうやっても槍以外にななれないからなあ」と励ましなのか感想なのかわからない言葉をかけられて、随分気が楽になったこともあった。
お互いが一番心を許せる、唯一無二の親友。
それでよかったはずだった。十分であるはずだった。

変質してしまったこの想いを抱えていることに、同田貫はずっと罪悪感を抱えている。

■ ■ ■ ■ 

同田貫はじっと馬小屋の方を見る。そこにはふたつの細長い影があった。
背の高い方は後ろ姿だが見間違えようもない、御手杵だ。もう片方は翡翠色の長髪が見えるから恐らく青江だろう。二人とも馬当番の道具を持ってはいるが、何をするでもなく喋っているようだった。話している内容までは聞こえない。
御手杵が脇差と仲がいいのは前から知っていたが、こうやって目の当たりにすると胸に黒いわだかまりが湧き出たような気持ちになる。
最初はこのもやもやとした不快感が何なのかわからなかったが、この気持に数日付き合っていればじきに知れる。これはただの悋気だ。初めてそれに気付いたとき、同田貫はかの親友に恋をしていると自覚するに至ったのだった。

恋なんて、それこそいちばん人じみた心のありかたで、自分たちから一番遠いものだと思っていた。なのに自分だけがそんな人らしい心をもってしまった。
武器として在ることでつながっていた関係だったのに、自分だけがそれを逸脱してしまった。親友の枠を超える関係になりたいと望む気持ちがあることを直視してしまった。
これはきっと御手杵に対する裏切りだろう、と同田貫は思う。
いつだったか「俺のことを一番わかってくれるのは、やっぱり正国だ」と笑顔で言われたことを思い出すと、胸がじくじくと痛む。
だからこの気持ちは秘めておくことにした。いくばくかの罪悪感とともに。

馬小屋の二人は距離近めにこそこそと話している。
そしておもむろに青江が御手杵の袖を引く。それに促されて御手杵がかがむと、その顔に青江が口づけた、ように見えた。
驚いて思わず硬直したまま凝視すると、それは耳打ちであることが分かる。
とたん、ほっとしたことと、今の一瞬で一気に血の気が引いたことに気づき、同田貫は舌打ちをする。戦場でだってここまでうろたえたりなどしないのに、たった一人の挙動にここまで心を乱される。
耳打ちを終えた後、内容な何かしらの冗談だったのか、御手杵は軽く叩くような仕草をし、青江はそれをひょいと避けた。
それ以上は見ていられなかった。胸の奥の黒く淀んだ気持ちが口から漏れ出そうな気がしてぐっと歯を食いしばりくるりと背を向ける。
同田貫に気付いたらしい青江にが呼ぶ声とそれをあわてて止める御手杵の声が聞こえたが、振り向く気にはならなかった。

■ ■ ■ ■ 

御手杵への気持ちで沸いた黒い淀みは、御手杵にそばにいることでゆっくりと解消されるということには、早々に気付いていた。
たとえばそれは獅子王から勧められたゲームを一緒にやっていたり、陸奥守がすすめてきた漫画を一緒に読んでいたり、もしくは戦場や遠征やただの武器だったときの話をしていたりといった、何気ない時間だった。
本丸に参入した時期が近いのもあって居室が相部屋だったからそういう時間を持つのに苦労はしなかった。
しかし解消しきれなかった淀みが積み重なっていたのだろうか。ふと、触れたい、と思った。だから寝そべっている御手杵が無造作に投げ出している手を拾い上げて、ひとつひとつ確かめるように触れた。
まず、あったかい、と思った。そして厚い、とも。一見姿かたちと同じようにきれいに見えるのに、触るといい槍働きをする手だというのがよくわかる。
「良い手だな」
考えていたことが思わず口からこぼれた。
「んー、そうか?」
「武功をたてる手だ」
「正国にはまだまだ及ばねえけどなぁ」
「向いてる戦場が違うんだから単純比較出来るもんじゃねえだろ。それに最近はお前も誉とれるようになってきたって聞くぜ」
「そうなんだけどさ。……うん、そうだな」
何か一人で納得したような独り言をつぶやいて、御手杵は腹筋だけの力で起き上がる。そして手をいじっていた同田貫の手を握り返した。そしてはしばみ色の瞳がまっすぐ同田貫を射抜いて、思わずたじろいた。
「うぇ!?な、なんだよ」
「俺さ、明日の出陣頑張るからさ、一番誉取れたらあんたに言いたいことあるんだ」
「今じゃダメなのか」
「うん、俺のケジメってやつ」
「そ、そうか。わかった」
了承を得た御手杵はふにゃっと笑い、手合わせしてくると言って部屋から出て行った。


まっすぐ向けられた端正なまなざしの余韻が、まだ心臓をばくばくと高鳴らせている。
明日聞くであろう「言いたいこと」の内容が予想もつかなくてなんとなく不安になる気持ちも勿論あるが、それよりもまなざしの奥にちらりと見えた熱量の正体のほうがずっと気になっていた。






16.10.31〜17/10/30まで拍手お礼にしていたものでした。
なかなか書く機会のなかったおてたぬ習作。
ぎねくんもたぬのことが好きで、青江に恋愛相談してたとかそんな裏設定あったけどそこまで書く気力がなかった。