刀剣乱舞 前典





大典太と前田は、余暇が合えば一緒に買い物に出かけることがよくあった。
本丸でのんびりして四季を感じたりたわいもないおしゃべりをするのも楽しいけども、出かけるというのはやはり心が晴れる。外のことをあまり知らない大典太が初めてみるものに対してあれこれと訊ねたいときに、旧知の仲である前田がそばにいるというのは心がいくばくか安らいだ。前田の方も教えるのは苦ではなかったし、二人で会話している間はそうやってやりとりをしているだけでそこに二人きりの空間ができたようで楽しかった。
そしてその習慣は、二人がひそかに付き合い始めてからも変わらなかった。ひとつ変わったことと言えば、買うものが特になくても店を見て回るようなことが増えたことだけだった。

だからだろうか。出かけた先で知った顔にでくわすことは全くの予想外だった。そんなことは今まで一度もなかったので。
「よお、兄弟。それに前田も。こんなところで奇遇だなあ!」
そう声をかけてきたのは今日の近侍であソハヤだった。
「こんにちはソハヤさん」
「本当に奇遇だ。こんなところでどうしたんだ」
「主の買い物の付き添い。つっても、買うのは主だけだから俺はしばらく暇でさ、ここらへんうろうろしてた。そっちは?」
簡単に言ってしまえば特に目的もなくぶらついているデートなのだが、それを露骨に言ってしまうのは気恥ずかしくて前田は口ごもる。故に先に口を開いたのは大典太だった。
「そろそろ寒くなってきたからな、防寒用の小物を見立ててもらってたんだ」
そんなことは今日一度も口にしていなかったため、前田は声に出さないまま驚いき、それに気づかないソハヤはにっと破顔した。
「お、いいねえ!前田はそういう見立てが得意なのか?」
「と、得意という訳では・・・・・・」
「俺が前田以外にそういうことを頼めるような性格をしていると思っているのか、兄弟」
「はは、それもそうだな!前田、こいつにカッコイイの見立ててやってくれよ。自分で選ぶとオッサンみたいなセンスになるからな」
「うるさい……。それより近侍の仕事の方はいいのか?あんまり長々買い物する性格じゃないだろう、あの人は」
「おっと、そうだった。じゃあな、おふたりさん」
そう言って元来た道を引き返して駆けていくソハヤを見送って、大典太は前田に視線を移した。
「というわけで、何か見立ててくれないか」
「え、あ、はい!お任せください!大典太さんに似合う素敵なものを選んでみせます」
「ああ、頼んだ。俺が選ぶとオッサンくさくなるそうだから」
「そんなことないですよ!その、ちょっと渋すぎるかな?と思うだけで」
「本音が隠せてないぞ」
ごく限られた人にしか判別できない、ほんのすこし表情筋をゆるめただけの微笑みをみせてくれただけで、前田の胸にあったもやもやしたわだかまりは薄らいだ。


そのわだかまりが再び顔をのぞかせたのは寝る直前だった。
体温を分け合うだけの共寝のとき、ぽそっと前田が口を開いた。
「大典太さん、あんなに上手に嘘をつける方だったんですね」
一瞬なんのことだかわからなかった大典太は、数秒後、昼間のソハヤとのやりとりのことを指しているのだと気づいた。
「ああ、あれは……そうだな、自分でもうまく口が回ったと思う。兄弟が相手だったからかもしれない」
「そう、ですか。――あの、大典太さん、怒らないで聞いてほしいんですけど」
「俺がお前に怒ったことなんかあったか」
「ないですけど!でも、あの……僕とおつきあいしてるの、大典太さんは恥ずかしかったり、しますか?」
「……?どういう意味だ」
「そのままの意味ですけど。ソハヤさんにも上手にごまかしていたので、あの、デートって言いづらいのかなって」
自信なさげにぽそぽそとそういう前田に、大典太は首を傾げた。
「俺は、お前が言いよどんでいたからそのフォローをしたつもりだったんだが」
「えっ!?」
「むしろそれを訊きたいのは俺のほうだ。こんな、根暗で引きこもりの俺なんかをお前が好いてくれてることが本当に奇跡にしか思えないんだ」
「それを言いたいのは僕の方です!だってあなたは天下五剣で逸話もすごくて、粟田口の末席にすぎない僕を好いてくれてることが光栄で、でも僕なんかまだまだだなって思うところもあって」
前田は大典太にさらに寄り添い、おずおずとその頭を抱き寄せた。
「僕が、あなたの隣に立つに見合うだけの男になれたって自信がついたら、僕の伴侶は大典太さんだって、皆に言ってもいいですか」
優しい声音で問われたその言葉は、愛の告白のようでもあり、僭越な申し出の許可を願うようでもあった。
細い腕に抱かれ大典太はそっと笑む。頼りなくみえるこの少年は、本当は心も体もとても強いことを知っているからだ。
「お前がそうしたいなら、そうしたらいい。他の誰かがどう思おうと、俺はお前の隣に行られたらそれだけで幸せだ」
強くて賢くてそれなのに少し自信のないこの少年へ捧げる愛が十分伝わっただろうかという疑念は、強く抱きしめられることで霧散した。
「あ、ありがとう、ございます……!」
感無量といったような声音がなんだかおかしくてくすくすと笑うと、やや拗ねたように前田が言う。
「なんで笑うんですか」
「いや……ああ、愛されてるなって思ってな」
「……もう!今ごまかしましたね」
「そんなことはないぞ。さあ、そろそろ寝よう。明日のために」
「そうですね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
言ってからふと、こんなに愛してるのに今まであんまり伝わってなかったのかなと思った前田は、大典太の額に唇を落とした。
驚いて見つめ返してくる大典太に微笑みだけを返して、眠るために目をつむる。おやすみのキスのせいで眠れなくなってしまった大典太を覚醒の世界に残したまま。






寝る直前、少し恥ずかしそうに抱き寄せられ、優しい声で普段言わないような愛の告白をされて、自分はこんなに愛されていたのかと気付く大典太
https://shindanmaker.com/597297
という診断結果を受けて。
かっこよくて強くてちいさくとも紳士な前田君にめろめろ(死語)なでんたを書けてなんとなく満足。
18.10.31まで拍手お礼に置いてました。