ヘタリア ジョジョ五部 イタ+プロシュート兄貴
※クロスオーバー注意





それは数々のミッションをこなしたプロシュートをしても「奇妙」と思わせる依頼だった。
「この男を殺せ。可能ならば」
リゾットから写真を渡されて、プロシュートは怪訝な顔で聞き返した。
「はぁ?どういう意味だ」
「俺にもよく分からん。ターゲットは政府の要人だということと住所、それと写真しか情報はない。達成できなくてもいいが、できたなら報酬ははずむそうだ。期限はない」
殺せと言われれば余計な詮索をせずに依頼をこなす。それがパッショーネ暗殺チームの仕事だ。多少の不可解があっても、それは変わらない。
だがその奇妙さに眉間の皺を深める。写真に写っていたのは水の都に住んでいるらしいという、とても要人には見えないどこにでもいそうな青年だった。



ヴェネチアの路地の隙間で標的の青年を待つ。盗聴したところによれば今日は誰かと会う予定らしいから、必ずのこの道を通るはずだ。大層な護衛でも居るかと想定したがそんなことは一切なく、青年は一人でぶらぶらと家を出る。
その腕を引き込みながら「直触り」で命を奪い、予め頭に入れていたルート――ヴェネチアは交通の便が悪いから念入りに複数のパターンを覚えておかなくてはいけない――で人込みに紛れ逃走する。そうすれば標的は数日後老いさらばえた姿で見つかる予定だ。
さほど待たずに標的は現れた。プロシュートは脳内シミュレート通りに手首を握りグレイトフルデッドを発現させながら手前に引き寄せた。
「え?何、なに?俺今急いでるんだけど」
標的の青年はわたわたと忙しなく喋っていた。「喋って」いた。
その違和感に、プロシュートはスタンドを発現させたまま硬直した。いくら体温の差や性別の差があろうとも、「直触り」ならば1分も保たずに標的は枯れ木のようにひからびて死んでいるはずだ。しかし握った手首は何秒経とうと瑞々しい若者のままで、その顔も同様に一切の変化も見られない。
「ナンパ…じゃないよね?君、男みたいだし」
緊張感が一切見られない表情のまま青年は問う。プロシュートは想定外すぎる状況に硬直したままだった。いくらヴェネチアが水の都と行っても雪国ほど気温が低いわけでもなく、握った体温は子供かと思うほど高い。なのに老化が効かないのが信じられない。スタンドの発現を失敗した――そんなことは今まで一度もなかったが――と思ったがグレイトフルデッドが横で無数の目をきらめかせているのは視界に入っている。ということは相手に何か原因があるということだ。本来ならここで反撃を予想して即座に対応するのに、間抜けにもポカンとさせられてしまうのも何かこの青年の『能力』なのかもしれない。
「お前、何者だ」
「それは俺のほうが訊きたいんだけど…」
状況が理解できないままプロシュートが訊けば、至極真っ当な言葉が返ってきて、即座に訊いたことを後悔した。ターゲットにのんびりと自己紹介を促される暗殺者だなんて、とプロシュートは歯噛みする。
「俺のほうは諸事情で言えねえが――お前、こいつ見えてるか?」
空いている方の手でスタンドを指し示すと、青年は首を傾げた。能力者でないとすると、余計に意味が分からない。
「言ってることよく分かんないんだけど、君、妖精とかお化けとか見える人なの?イギリスみたいに」
「……は?イギリスって、あのイギリスか」
「そうそう。島国で、眉毛が太くて、怖い奴」
地名を指す固有名詞を人間のような表現をするこの青年がより一層分からない。それが思わず表面に出てしまったのか青年が続ける。
「えーっと知らない?人間の形をした『国』がいるってこと――さっき言ったイギリスとか、ドイツとか俺とか。俺を呼んだのそういう理由だと思ったんだけど」
「お前が『国』?」
「そう。俺はイタリア。イタリア=ヴェネチアーノ。俺は北イタリアで、南イタリアは兄ちゃんなんだ」
俄かには信じられないことを告げられたが、スタンド能力が効かないことを考えると信じざるを得ないようだった。それとなく『国』の生態を訊けば、身振り手振りで要る情報も要らない情報もべらべらと喋った。曰く、年数経過ではなく国家の成長や衰退で外見年齢が変動し、国家が滅びなければ死ぬことは決してない、らしい。詰まるところ、プロシュートと最も相性の悪い相手で且つどんな手練の暗殺者でも殺せない奴だったのだ、このぱっと見何の変哲もなさ過ぎる青年は。
そう考えれば少なすぎる情報のピースがカチリとはまる。「可能ならば」という前置きもあったあたり、依頼人も『国』の詳しい生態までは知らなかったようだ。わざわざヴェネチアまで赴いたのにある意味くだらない結果に終わることに苛立ちを通り越して溜息が出る。
イタリアと名乗る彼の話が祖父との思い出話にまで移行していたことに気づいてプロシュートは適当に遮った。
「お前、急いでたんじゃなかったのか」
「そうだった!またドイツに怒られるぅ〜」
青年は随分と哀れっぽい声を出した。「ドイツ」がプロシュートの想像するようなドイツ人然とした人物なら、時間に煩く厳格なのだろう。「イタリア」がイタリア人然とした人物なのと同じように。
「引き止めて悪かったな」
「まあ俺が遅刻するのはいつものことだから。あ、君の名前聞いてなかったね。なんていうの?」
「……プロシュートだ」
「Prosciutto<生ハム>?変わった名前だね」
「『イタリア』に言われたくねえよ」
「それもそっか!じゃあ俺行くね、プロシュート。Ciao!」
「Ciao」

イタリアが去ったあと、プロシュートはまた大きく溜息をついて、こんな怪しげな案件を回したリゾットをブン殴りたい気持ちでいっぱいだった。ブン殴ると思ったときには既に行動を終わらせていたいのは山々なのだが、物理的な距離がそれを阻む。
とりあえず、一切の怪我も被害もない「任務失敗」という未曾有の事態を報告せねばなるまい。スーツから携帯を取り出してアジトの番号を呼び出す。
「――ああ、リゾットか。任務?ありゃあ無理だ。俺にも、お前にも、他の奴らにもな。説明は面倒だから帰ってから話す。それとお前、後で覚悟しとけよ」






誰得クロスオーバー第2弾。
プロシュート兄貴と「年をとらない人外」って相性悪すぎだよなと思った瞬間、行動はスデに終わっているんだ!
兄貴にちゃおーと言わせられたので満足です。