スーダン2 田中+十神

※ アイランドモードですが本編終盤ネタバレあり





その日森に採集に行ったのは田中と十神のみだった。
スケジュールを考える担当である日向が「ジャバダイヤがあと1個だけ足りないんだけど、体力が十分なのがお前達しかいないんだ」と頼んできたからだ。目標の提出期限は近い。
元々口数の多い方ではない二人の間には、単調な採掘の硬い音と時折ざわめく木々の揺れる音しかなかったが、その空間を破ったのは田中の方だった。
「十神、訊きたいことがある」
「欠片集めなら後にしろ」
「他の物の耳に触れていいと貴様が言うならそうしよう」
何気なく放たれた意味深な言葉に、十神の持つピッケルが止まる。連動するようにして田中の手も止まる。
カツンとひとつ音を立てたきり、二人の間には不自然な無音が落ちた。
「……なんだ、言ってみろ」
質問を許可した十神が身体ごと田中の方に向き直れば、彼も既に同じ体勢をとっていた。
カラコンを入れているらしいオッドアイから容赦なく放たれる眼光は、痛いほど鋭い。
しかしいつもの過度な装飾をそぎ落とした田中の言葉は、それ以上に鋭かった。

「貴様は何者だ」

十神は一瞬目を見張り、直後眉を顰めながら口を開く。自己紹介は最初に会った日に済ませていた。
「……お前の耳は節穴か?俺は十神白夜、いずれ十神一族を――」
「俺様の邪眼を侮るな。貴様の『十神』の名と姿が仮面であることは既に見抜いている」
その言葉に十神――十神白夜を名乗っていた詐欺師は絶句する。
彼が「超高校級の御曹司」ではなく「超高校級の詐欺師」であることは、希望ヶ峰学園しか知らないはずだ。
常に誰かに成り代わって生きてきた彼が、その成り代わりに気付かれたことはほぼ皆無と言っていい。学園が何故彼を「超高校級の詐欺師」だと知ったのかが不思議なくらいだとすら思っていた。
そもそも会って数十日寝食を共にした程度で見破られるような騙しなど、超高校級と呼ぶに値しない。
「何故、という顔をしているな。――利益を得る為に、あるいは他者を陥れる為に、人は言葉を操り裏切り他者を欺く。そういう者は数日共に居れば分かる。だから俺様は俗世を厭い魔獣と暮らしてきた」
田中は包帯を巻いた左腕に視線を向けた。そこにはいつの間にかそれなりに体長のある蛇が巻き付いていた。
十神の知識が正しればその蛇は毒をもつ攻撃性の高い種のはずだが、そこは田中の才能故か蛇は噛みつく様子もなく大人しくしていた。それでも十神は1歩身を引いたのだが。
「貴様からは欺く者の臭いがする。だが裏切りの臭いがしない。貴様は何者だ、答えろ」
十神は内心で田中の評価を上方修正した。外見も言葉も装飾過多な彼は、思っていた以上に聡い。
真理を射る鑑識眼をもつ眼差しは変わらず鋭く、それに折れた十神はふいと目を背けた。
「生きるために欺く、そういう人間も居るということをいつか……この島を出る頃に教えよう」
「そうか」
言ったきり田中は手元に視線を向けて採掘作業を再開し始め、十神は拍子抜けした。『欺く者』だと見抜いておきながら、詮索も追究もせずあんな簡単な言葉を信じたことが意外だった。人は裏切ると言っていたのは田中自身なのに。
しかし詮索されないならその方が良い。事実を伝えるには言葉を慎重に選ぶ必要がある。

暫しの間一つきりだった採掘の音は、やがてもう一つ重なった。



腕に巻き付いていた蛇は、田中が採掘を再開すると同時にするりと肩に移動した。
毒蛇のように見えるそれは、実際は似ているだけで毒はなく、ペットとして飼われることもある種だ。毒蛇と同じ警戒色になることで捕食されるのを防いでいると言われている。
「生きるために欺く、か……お前を見たときの既視感は正しかったのだな」
蛇に向けて呟かれた田中の言葉は、木々のざわめきに消えて十神には聞こえずほとんど独り言のようになって消えた。






「言葉を話すものはいつか必ず裏切る」という話。田中に夢を見過ぎている自覚はあります。
ジャバウォックに生き物はいないとかって話だけど、採集物に「ケモノの骨」とかあるのでアイランドモードでは存在していると勝手に解釈。