ヘタリア 普+墺





ほぅ、と満足げに息をついてオーストリアはティーカップを置いた。
「こんなにも音楽について誰かと語ったのは久しぶりです」
「そりゃあ、あいつらが生きてた時代を知ってた上であれこれ喋れる奴なんてそうそう居ねえしなぁ」
ぱらぱらと楽譜を捲っていた手を止めて、プロイセンは片頬を釣り上げるようにして笑った。
「長い付き合いですが貴方が教養人だとは知りませんでしたよ。特にこういった趣味の類は生き残るためには必要ない、と切って捨てているのだと」
「オタクに語らせたら長くなるの分かり切ってんのにわざわざ触れたりしねえよ」
「では何故『わざわざ触れたり』したんです?」
「さァな」
そう言ってプロイセンは弄っていた楽譜をテーブルの上に投げて寄越した。それは朝一で弾いていたフルート協奏曲のピアノ編曲版で、オーストリアが理由を察するには十分であった。

「なんで歌劇曲の楽譜もあんのにお前は歌わねえんだよ」
ひたすら楽譜ばかりが並んだ棚を見上げてプロイセンは問う。視線の先には、ミュージカルに使われる曲を集めた棚があった。
「またフライパンを食らいたいのですか」
平然とオーストリアが言うと、プロイセンは顔を苦く歪めた。
その昔、プロイセンが同じことを言って歌うようにねだったことがあった。いささか無理矢理が過ぎたのか、オーストリア専用セコムが発動して後頭部に何か固いものがぶつかった衝撃があり、その後しばらく気絶する破目になったことは彼の脳に克明に焼き付けられている。
「別に強要するつもりは無えよ。訊いてるだけだ」
「あまり言いたくはないですが…、音痴なんですよ」
「……楽器はできるのにか」
「ええ。だからこそ、というべきでしょうか。音楽に関することは一通りやっておきたくて、あらゆる楽器は習得したのですが、歌だけは何度練習を繰り返してもできなくて」
「プラス自分の外した音程に耐えきれなくて、ってところだろ」
「よく分かりましたね」
「昔から変なところで完璧主義なの知ってるからな。――もったいねえの」
「え?」
「せっかく良い声なのに歌わないとかもったいねえよな、と思っただけだ」
「そう、でしょうか」
「俺は好きだぜ、お前の声」
かぁっと顔に血が上る。彼が好きだと言っているのは自分自身ではないとは分かっているが、それでも顔が赤くなるのは止められなかった。とっさに手元にあった楽譜を読むふりをして隠したが、プロイセンは席を立って別の楽譜を取り出していてオーストリアの挙動には気づかなかった。



「おじゃまします、オーストリアさん。童謡を弾いてるなんて珍しいですね」
「ハンガリー、丁度良いところに来ましたね。あの、ちょっと教えてくれませんか。その…歌の歌い方というのを」
「え?ええ…もちろん!」






オーストリアさんが音痴だったら萌える、と思ってたらなぜか普墺ぽくなった…
プーは無い物ねだり的な感じでなにかしら貴族に憧れ的な気持ちを抱いてるといいです。