ヘタリア 英娘+日娘

※人名表記(日娘:桜  英娘:アリス)
※菊・アーサーはにょたの兄設定





初夏の花の咲き誇るカークランド邸の庭に少女が二人。
白いテーブルのそばに立つ彼女たちは、月に1度、交互にお互いの家に集まってお茶会をする習慣がある。今月は英国での開催だ。
「おひさしぶりです、アリスさん」
「ええ、ひとつきぶりね、桜。さあ席について。お茶は用意してあるわ」
「では私はこの手土産を開けますね。ナイフをお借りしても?」
「もちろん」
いつもどおりに始まるお茶会は華やかで穏やかで、すこしだけかしましい。

尽きることのない会話のなかでアリスがふとその話をしだしたのは、ちょうど今の季節が木々の生い茂るだったからだ。深い緑の印象的なこの季節には、桜モチーフのヘアピンの淡い鮮やかさがひときわ目に留まる。
「ねえ桜。あなた、いつもその髪留めを使ってるのね。お気に入りなの?」
「ええ。私の名前と同じ、桜の花。好きなんです。何か気になりましたか?」
「とてもよく似合ってるわよ。うーん、でもなんだか、季節外れに見えてしまって」
本当に何気なく出たその言葉にぴしりと桜が固まる。途端、とてもひどいことを言ってしまったことに気づき、アリスは慌てて弁解した。
「いや、あの、ごめんなさい!決してけなしてるわけじゃなくて!えっと、桜はかわいいんだからもっといろいろチャレンジしてみるべきじゃない?って!」
あわわわと動転しながら冷や汗をかくアリスがおかしくて、桜は小さく笑ってからなだめる。
「ええ、ええ。悪意があったのではないというのは、わかっていますよ。確かに言われてみれば、これだけ季節を大事にする素敵な庭に、私だけ春色なのはちょっと浮いているのかも」
言わんとするところをきちんとくみ取ってもらえて、アリスは大きく息をついた。
「春らしいのも素敵だけど、季節に合わせたおしゃれっていうのも素敵でしょう?」
「でも私、あまりアクセサリーって持っていなくて」
「そうなの?私が使ってないものたくさんあるし、よかったら譲るわよ」
「あなたに似合うものでも、きっと私には似合いませんよ。お気持ちはうれしいです」
「あら、そう」
確かにアリスのコレクションは豊かな金髪に負けないように大きく華やかなものが多く、桜の黒髪のボブにはちょっと派手すぎる。
「これからの季節だと簪が涼しげでいいのですけどね」
「カンザシ……?」
「うちの国の伝統的な髪飾りですよ。簡単に言えば棒に飾りがついていて、その棒でこう、くるくるっと髪を結うんです。私は髪の長さが足りなくてできないんですけど」
「棒で結う、なんかぴんとこないわ」
「アリスさんの髪でしたらできますよ。結い方のみなら実践してみせましょうか」
「できるの?でもどうやって」
アリスが乗り気になったのを見、にこりと笑って桜が鞄から出したのは箸だった。こちらに来るときは使うことはないと知りながらも、いつも持ち歩いていると以前聞いた。
「洗ったきり使ってませんのでこちらで代用させてもらいますね」
漆塗りに持ち手に花がちいさく彩られているそれを1本とって、桜は座ったアリスの背後に回る。
「髪は解いて、ひとつにまとめて、こうねじるんです。その間にこれを刺して、くるっと。痛くありませんか?――ならよかったです。はい、できましたよ。よくお似合いです」
「えっ」
ほんとうに瞬く間に終わったことに驚いて、アリスは慌てて部屋から手鏡を持ってきて自分の顔を見つめた。すると長い金髪がうしろでまるく留められていて、余った長さがさらりと肩に流れていた。斜めから見ると、桜が先ほど持っていた箸がささやかに飛び出している。
「ちょっと、どうやったの!手品?忍術?」
「どうやったのと言われましても、説明が難しいですねえ」
そこからそれぞれの国のおしゃれの歴史や種類についてさまざまに語り明かし意見交換をして盛り上がった。その間中アリスは桜に結ってもらった髪をごきげんにくるくると弄んでいた。

そして桜のヘアピンの話からすっかり話がそれてしまったことに気付いたのは、彼女が帰ってからだった。



その1か月後。今度は本田邸でのお茶会だ。
桜がお茶を用意しながらふと時計を見ると、約束の時間から10分が過ぎていた。
アリスが時間に5分以上遅れることはめったにないし、遅れる際はその前に連絡が来る。なのに携帯にメールが来た様子はない。
「なにかトラブルでもあったのでしょうか」
そうつぶやいた瞬間呼び鈴が鳴って、ぱたぱたと桜は玄関に向かった。
「いらっしゃいませ、アリス…さん……」
出迎えた桜は扉の内側でぽかんとする。来訪者たるアリスは扉の前で、半ば涙目になっていて、いつもきれいに結わえられたポニーテールはぐしゃぐしゃだったからだ。
「どうかなさいましたか、アリスさん。いえ、事情は中で聞きましょう。どうぞこちらへ」

何か尋常でないことでもあったのかとの心配は、ほとんど杞憂であった。
というのも、アリスのその惨状は兄への対抗心、そして桜への気遣いや思いやりであったからだ。

曰く、先回のお茶会の後、ふと思い立って桜がやっていた結い方をネットで調べて、家にあった飾りのついたマドラーで実践してみたのだがうまくいかなかったのだそうだ。
今朝も同じように髪を格闘していたら、そこに兄であるアーサーが通りがかって、手本の画面とマドラーと髪を見、瞬く間に桜と同じようにきれいに結い上げ、アリスの不器用さを揶揄する軽い皮肉を言ってから去っていった。そのいけ好かない兄が結った髪で桜の元に行くのも癪で、いったん解いてから自分でも試してみたがなかなかうまくいかなかった。という経緯だったようだ。
「たったひとつの話題でしたのに、なんでそこまで……。無理をなさらなくても、いつものツインテールもとてもよくお似合いですのに」
「だって桜、自分が教えたことを私が実践してみせたりすると、すごく喜ぶじゃない。そりゃあ表現は控えめだけど、とっても嬉しそうで、それがまた見たくて……」
言いながら恥ずかしくなっていったのか、アリスの語尾が消えていった。だんだんうつむいていく金のつむじを見つめながら、桜は口元を隠しながらささやかに笑う。
「そのお気持ちだけでもとてもうれしいですよ。でも私のせいで悔しい思いをしてしまったのは、残念です。ごめんなさい。あれが気に入ったならもう一回結ってさしあげますね」
きちんとした簪はあったかしらと部屋に戻りに行った桜の袖をつかんで、アリスが引き留める。
「ちょっと失敗しちゃったけど、それは別にいいの!それより、会心の出来のがここにあるんだからこっちを見てちょうだい?」
そう言って畳の上に広げられたのはひかえめだけど地味すぎずかわいらしいヘアピンの数々だった。
「え、もしかして私のために……?」
「もちろん。もともとこういうのを作るのは嫌いじゃないけど、桜のためを思って作るのはとても楽しかったわ。気に入ってくれるならぜひもらってちょうだい」
「ありがとうございます!大切に使わせていただきますね」
「特にこれが一番よくできたと思うのよ」
ひとつだけ大きめのモチーフがついたそれは、朝顔モチーフなのか紫の円の中に白い十字がちいさく入っている。
アリスが指さしたそれを桜は手に取って、髪にとめる。
「どうでしょう?」
「ええ、思った通りとてもよく似合ってるわ」
「ありがとうございます。そうだ。ねえアリスさん。来月のお茶会もこちらでやりませんか。そして夜にふたりで花火大会に行きましょう?私はこのヘアピンを、あなたは私が選んだ簪をつけて、浴衣で行くんです」
その提案にアリスは目を輝かせる。
「それはいいわね!すっごく楽しみ!」
「ふふ、1か月先ですけどね」
花火大会の日程がわかったらすぐに連絡をすると約束して、二人は指切りをした。



朝顔の花言葉:固い絆





コンビワンドロ【島国娘】【ヘアピン】というお題で書いたものでした。
初ワンドロだったけど、刀のテンドロでタイムリミット系の経験値詰んでたので割とさくさくかけました。
アリスちゃんの口調はFateの凜ちゃんに寄せたつもり。