ヘタリア 普+日娘
※ 桜は菊の妹
※ 桜があんまり大和撫子じゃない





ぴんぴぴぴぴんぽーーーーーん
呼び鈴を鳴らす音すらうるさくて、間違えようのない来訪者を桜はよっこらせと立ち上がって出迎える。
「はいはい、そんなに連打しなくても聞こえてますよ、ギルベルトさん」
「Guten Abend,桜!俺様が来てやったぜ」
「ようこそいらっしゃいました。やはりルッツさんは来れなかったのですねえ」
「仕事だらかな。菊もだろ?」
「はい。休みのときに急な呼び出しなんて、ひどいです」
「まったくだぜ」

元々はルートヴィヒが出張で日本に来るのが、ちょうど本田家の近所で花火大会をする時期とかぶっていたところから話は始まった。
花火というとドイツには印象的な思い出と言葉がある。87年、ベルリンで開催される式典のために来た花火大会の責任者が会見で「ベルリンの地上には壁がありますが、空に壁はありません。日本の花火はどこから見ても同じように見えます。西のお方も東のお方も楽しんでください」と発言し、そのことが新聞の一面を飾ったことがあった。
今ではドイツでも花火があがるようになっているが、久しぶりに本場の花火を見たい。そんな話が兄弟間で交わされ、ギルベルトも日本出張に同行した。
が、その花火大会当日の夜に上司からいきなり菊とルートヴィヒが呼び出され、二人は花火大会に行けなくなったのであった。

本田邸で供された水だし緑茶をギルベルトは一気に飲み干す。(麦茶は代用コーヒーみたいな味がして嫌だという兄弟のために用意したというのは余談である)
そしてふぃーーーと、大きく息をついて嘆いた。
「あー、ほんとこっちは暑っついな!汗がべたべたするぜ」
「こちらの夏は湿度が高いですからねえ」
「そういやさ、こっちに来る途中、涼しげなかっこした奴ら結構見かけたぜ。薄い和装って感じの」
「きっとそれは浴衣ですね。花火大会がありますから」
「あ、花火を見るときは浴衣着なきゃいけないって決まりでもあんのか?」
「決まりではないですけど、着る人は多いですよ。雰囲気作りの一つですね」
「へええ。俺、浴衣持ってねえんだけど」
「ふふふ、興味、おありですか?」
「何を着てもカッコイイことに定評のある俺様だからな!」
「じゃあまだちょっと花火大会まで時間ありますし、買いに行きますか」
「よっしゃ!」
そんなわけで、まだ空の明るいうちから二人は家を出た。



「なあ、やっぱこれ地味すぎねえ?」
濃紺の地にシンプルに淡く川のような波模様の入った浴衣を着て、やや拗ねたようにギルベルトは言う。着付けは桜が手ずからしたので完璧だ。
「何をおっしゃるんですか。あなたは顔が派手なのですから、服まで派手にしたらぎらぎらしすぎて視界に五月蠅くなってしまいますよ」
「そこらへんのセンスは俺あんまわかんねえから、桜がそういうならそうなんだろうけど」
「いつものプルシアンブルーの軍服に似た色合いなんですから、似合ってないわけないじゃないですか」
「ふへへ、だよな!」
ほめられて大層気をよくしたギルベルトは、道の縁石に足をかけて『外交に役立つカッコイイポーズ』をとってみせた。言うまでもなくこの上ないドヤ顔だ。
本人はカッコイイと思っているであろうそのポーズと自信満々なところが妙におかしくて、桜はぷっと吹き出した。
「ふ、ふふふふ、ギルベルトさん、ちょっとだけそのままでいてもらえます?」
「おう!」
ドヤ顔をさらに深めたギルベルトに向かって桜はスマホを構え、パシャリと写真を撮った。
「お?うまく撮れたか?」
「ええ。――ああ、どことなくイラッとするオーラを醸し出してるのにイケメンなのが逆に腹が立ちます」
「おい八ツ橋ボロボロになってんぞ。褒めてんのか貶してんのかどっちだ」
「どっちもですよ。色が白いのは七難隠すとはよく言いますねえ……はあ」
淡い笑みを浮かべたままの桜は本当の感情が読めない。気を悪くしているわけではなさそうだが。
「あ!そうだ、ギルベルトさん、ちょっとやってみてほしいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「そこの電柱にもたれかかって、こう、ドヤ顔で決めポーズしてもらえませんか?」
「ん、こうか?」
「はいそのままー……」
ぱしゃり。
桜が何をしたいのかいまいち読めないながらも、撮られた写真が気になってスマホをのぞき込む。見てみるとアプリで文字入れ加工をしているようだ。
ポーズをとったギルベルトの横に、『OKだ。今からちょっくらドバイ株を買ってくる』と書いてある。
「ぶっは!!ちょ、桜なにしてんだよ面白れえ!」
「ふふふ、これ、うちで少し前にはやった雑誌で、写真につけられたキャッチコピーなんですよ」
「なにそれセンスとがってんな!」
「わかりますか、素敵でしょ!そのなんとも言えないドヤ感と笑いの調和!」
「このコピーって他にもあんの?」
「ありますよ、ちょっと待ってください見せますね」
「――うわなにこれ!なあなあ、これ俺様やりてえ!」
「やりますか!」
この瞬間、目立ちたがりのギルベルトと写真を撮るのが好きな桜の間に謎の結束が生まれ、やる気が燃え上がった。
桜がポーズをとったギルベルトを撮り、撮った写真を顔を突き合わせてチェックし、キャッチコピーを考えて、SNSに投稿する。この繰り返しがびっくりするくらい面白くて、二人は時間を忘れて夢中になった。


仕事が終わりSNSを開いた瞬間、菊はぶふっと吹き出した。
「どうした菊」
そばにいたルートヴィヒが問うと、菊は無言でスマホの画面をそちらに向けた。
『OKだ。今からちょっくらドイツ国債買ってくる』
『そう、中欧の大悪党とは俺様のこと』
『堕天してベルリンに舞い降りたletzten Sommer』
『今宵、黒鷲に生まれなかったことを初めて後悔しなかった』
そんな謎のキャッチコピーと共に、浴衣姿のギルベルトがポーズをとって映っていた。自撮りではいつもピンボケする兄のことだから誰かが撮っているのだろうと、アカウントの名前を見れば桜だった。
「桜は一体なにをしているんだ……」
「私はこのセンス好きですよ。二人きりにして大丈夫かと危惧してましたが、楽しそうでなによりです。でもこの時間……」


『@sakura_jpn  素敵な写真で笑いを提供してくださりありがとうございます。ところで花火は見れましたか?』
「「あっ」」






コンビ版ワンドロ【桜の騎士】【浴衣】のお題で書いたもの。
この二人で書きたいけどカプにはしたくない……!と思って話を練った結果がこのありさまだよ!淑やかなぽん子ちゃんを好きな方には実に申し訳ない。