ヘタリア 神ロ+伊
※ 人名表記(神ロの人名ねつ造)
※ 現パロ(?) 並行世界的な




不思議な夢を見た。

そこは俺はちっちゃい子供で、おっきなお屋敷に住んでいた。住んでいたというか雇われていた、だろうか。メイドみたいなふわふわした服を着て、そこの掃除を任されていた。
もちろん俺はそんなとこに住んだことも、子供ながらメイドをしたこともない。けど、夢の中ではそれがあたりまえだった。

その夢の中には印象的な子がいた。黒いコートと黒い帽子が印象的な夢の中の俺と同じ歳くらいの男の子だ。
その子は俺を追いかけまわしたり、遠くからじーっと見てきたりして怖かったけど、悪い子じゃないのはすぐにわかった。俺がおなかをすかせているときに、よく差し入れをしてくれたからだ。……おいしくなかったけど。
暇なときにその男の子と一緒にお絵描きをしたり、屋敷の家主さんの弾く音楽を一緒に聞いたりするのは楽しくて、お屋敷暮らしは大変だけどこのままでもいいかな、と思っていた。

そこから夢の中の場面はザッピングするように切り替わる。
機嫌の悪い家主さん。
扉越しに聞こえる怒鳴り声。
落ち着かない様子で部屋にこもるあの男の子。
男の子の提案を泣きながら跳ね除ける俺。
そして。

「じゃあな、×××× 戦い終わったら絶対会いに行くからな」
「う、うん待ってる、待ってるよ いっぱいお菓子作って待ってるからね」

「何百年たってもお前が世界で一番大好きだぞ」


地中海よりも深い色をした大きな青い瞳が涙に濡れるのを最後に、ぷつんと映像は終わった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


目が覚めて俺は、体を起こしてしばらくぼーっとしていた。
まったく身に覚えがない場面ばかりの夢だったのに、本当に昔あったことなんじゃないかと思うくらいに印象的で、今いる場所がどこだかわからないくらいだった。
あたりを見回すとそこは見慣れた俺の部屋で、お屋敷なんかじゃない。外から高いとこに昇った太陽からさんさんと夏の日差しが降り注いでいる。
セカンダリア(中等学校)の夏休み中で、毎日たっぷり寝る生活をしている。

そんなとこまで思い出してふと、夢の中で唯一見覚えのあったものを思い出した。あの黒い服を着た男の子だ。
あの男の子と同じ顔の子と昔よく遊んでいたことがある。といっても2週間から1か月くらいだっただろうか。プライマリア(初等学校)に入る前のことだ。
いきなり現れたその子は毎日うちに遊びに来ていた。最初は怖い顔でこっちをにらみつけてきていた。
でもそのうち、単に喋るのが苦手なだけな引っ込み思案の子だということが分かってから、仲良くなるのはすぐだった。だって俺は昔からおしゃべりするのが得意で大好きだったから。
俺が身振り手振り交えて話をするのを彼は楽しそうにうんうんと聞いていたり、一緒にテレビを見て楽しんだり、飽きたら一緒にお絵描きしたり。それがすごく楽しくて、いつか終わるなんて思ってなかった。
だけど、ある日の夕方。
「フェリシアーノ、お別れだ」
その子はそう言った。いつもばいばいする時間より少し早いのが気になったけど、そうなんだと思って俺は、そう、と言った。
「うん、じゃあね」
そう言うと、彼はちょっとだけ傷ついた顔をして、でもそのあとちょっとだけ笑った。
「また、会いに来るからな」
「また遊ぼうね」
「約束だぞ」
「やくそくだね。そうだ!ゆびきりしよ」
そのとき見ていたアニメで、主人公たちが約束をするとき指切りをしていたのを思い出して、俺はそう言って小指をさしだした。
「ああ、ゆびきり」
彼も小指を差し出してきて、それを絡めてちいさく振った。
「ゆびきった!」
「約束。 じゃ、またな」
男の子は手を振って俺の家を出ていって、俺も手を振ってそれを見送った。
「またあしたねー!」
彼の青い瞳がちょっとだけ涙にぬれているのに気付いたけど、その理由を聞く間もなく駆けていってしまった。

翌日、いつもの時間に来ない彼を不思議に思ってじいちゃんに聞いた。
「いつものあの子、来ないねえ」
「あれ、聞いてないのか。あいつらは家に帰ったぞ」
「ん?」
「あの子の父ちゃんと爺ちゃんの仕事が終わったからな。帰ったんだ。もう来ないぞ」
「え!」
俺が驚くとじいちゃんは困った顔をした。
「なんだ、ちゃんとお別れ言わなかったのか?残念なことしたなあ」
「あいにいく!ちゃんとばいばいしてない!今どこにいるの?」
「ずーっと遠くだ。おうちから北いったとこの川を越えて、そこにある駅から電車乗って、その最後までまた乗り継いでいったもっと先。わかるか」
俺はぷるぷると首を振って、部屋に戻った。川の向こうすら行ったことのなかった俺には、あの子が手の届かないとこに行ってしまったことだけしかわからなかった。
でもそれだけわかっていれば十分だった。
それから俺は三日三晩、じいちゃんや兄ちゃんが心配するくらい、目が溶けそうなくらいわんわん泣いた。



しばらくしてから、俺はその子との名前すら聞いていなかったこと(俺たちの間では「君」と「お前」だけで十分だったから)、そして一緒に撮った写真もないことに気付いた。
俺の家はじいちゃんの仕事上いろんな人が出入りしていて、子供の記憶力と表現力ではあの子のことを特定して訊くことすらできなかった。
そんな悲しい思い出を、あの夢をきっかけに思い出してしまった。悲しすぎて頭が記憶を閉ざしてしまったのかもしれなかった。
夢の中の俺は、あの黒い服の男の子と会えただろうかと思った瞬間、それは叶わなかった、ということがなぜか確信としてわかってしまった。北にある川よりももっとずっと遠い、手の届かないとこに行ってしまったことが。
途端、すごくすごく悲しくなって、俺はベッドに座ったままぼろぼろと子供のように涙を流していた。

「おーい、フェリシアーノ。起きてるかー?」
いつもは俺よりもお寝坊な兄ちゃんが俺を起こしに来た。
「お前の友達が来てんぞ――おい、どうした!?」
ぼろぼろ泣いてる俺をみて兄ちゃんがぎょっとする。
「う、うぇっ、ゆ、夢が……」
「ハァ?お前怖い夢見て泣いてんのかよ!ガキか!」
そうじゃないけど説明するのも難しくて、否定はしないでおいた。
「と、ともだちって、ぐすっ、だれ」
「んー?俺の知らねえ奴。その顔どうにかしたら1階に降りて来いよ」
俺の交友関係はほとんど兄ちゃんも知ってるはずだけど、誰だろう。

顔を洗って目を冷やすのにたっぷり15分はかけてから服を着て下に降りると、知らないおじさんがじいちゃんと話していた。
「去年の冬は厳しかったからな。やはりこっちの気候では体に悪かったようだ」
「まあ部屋なら余ってるし好きに使ったらいいぜ」
そんな話をしている。なんのことだろ。
すると視界の外から、知らない声が聞こえた。
「お、フェリシアーノちゃん、久しぶり!」
振り向くと、これまた知らないお兄さんが立っていた。
「ちゃ、ちゃお……?」
「ああ、昔すぎてフェリちゃんは覚えてねえか。俺達何年か前こっち来たことあんだ。でもコイツのことは覚えてんだろ。――おい、ヴィル、出て来い」
銀髪のお兄さんの後ろから、ヴィルと呼ばれた男の子がおずおずと出てくる。俺と同じくらいの歳のその子は、さらさらの金髪に病弱そうな色白で細い手足はすらっと伸びていた。
見たことがない子のはずなのに、俺は彼を確かに知っている。
「フェリシアーノ、久しぶり」
「こいつな、家にいても『イタリアに帰る』って言って聞かなかったんだぜ!帰る場所ドイツじゃねえのかよ、って!」
「ちょ、兄さん!余計なこと言うな!――フェリシアーノ、約束覚えてるか?」
金髪の少年は自信なさげにそう訊く。
「あの、ゆびきりの約束の……」
そう俺が言うと、地中海よりも深い色の、俺の大好きな青い瞳がふっと安堵に緩んだ。
「ああ、ゆびきりの。約束通り、会いに来たぞ」
瞬間、俺はたまらなくなって彼に飛びついて抱きしめた。

「お菓子いっぱいつくって待ってた!」






コンビ版ワンドロ【初恋組】【ゆびきり】のお題で書いたもの。
とりあえずイタちゃんに最後のセリフを言わせたかっただけ。
神ロの仮人名『ヴィル(ヴィルヘルム)』はプロイセン王の名前からとったという理由と、「ヴェスト」に響きがちょっと似てるという理由から。