ヘタリア 英+勃
※ W学園設定
「学園の七不思議の調査手伝ってほしいんだよー おいら忙しくって、それに他の七不思議も調べたいんだよー」
とルーマニアに言われて、ブルガリアは放課後の学園内をうろうろしていた。
まあこれもまた自分が目立つ布石になるだろうという下心あってのことである。怪談のときもなんだかんだで存在感をアピールできたし。
「つっても、俺も暇じゃねーんだわ……内職……したくねーからいいんだけど」
布石を敷きつつ現実逃避という一石二鳥、のつもりであるが傍から見れば暇人がぶらぶらしてるだけである。
「えっと、なんだっけ」
この話を調査してほしい、と言われて渡されたメモを見る。ぱっと見て書かれた内容はすでに七つを超えているが、それは気にしないことにした。
「『妖怪ドアノブ置いてけ』……なんだこれ、字面だけで背筋凍る。 『宙に浮く白熊』……え、これ可愛い方?ガチな方?」
読み上げていく中身は見たことがあるような、それでも本当に不思議なような話が端的に書かれている。
「『突如現れるハートの女王の城』 うわ、いきなりファンシーなのが来たんだわ……、あれ、それってもしかしてアレじゃね」
視線を左に向けると、見たことがない綺麗な薔薇のアーチが視界に入った。
W学園はとても広いため、適当に歩いていると今まで見たこともなかった学園内の施設を見つけるということが、新入生でなくてもしばしばある。だがこれに限ってはそういうわけではなかった。
というのも、敷地の端の方ではあるものの門から学習棟への道から見えるような場所だったからだ。つまり、今まで見たことがないはずがない場所に、見たことがないものがある。
「確かにこれは不思議だわー」
とはいえ、怪しい気配がするわけでもなく、ブルガリアはその薔薇のアーチの方に歩を進めた。
そのアーチをくぐれば、一面薔薇の生垣だった。赤、ピンク、オレンジを基調に様々に咲き誇っている。その中にちらほらと黄色があったり、僅かだが希少種である青があったりして、鮮やかさと圧倒的量の花々が広がる光景は実に幻想的だ。
ふと目を奥に向けると、白く大きなガゼボ(西洋風東屋)が薔薇の庭の中央にあって、なるほどあれがハートの女王の城かと納得した。
そしてガゼボの傍で、白いバラの生垣に赤い何かを傾けている人影が見えた。
「あ、トランプ兵!」
勿論そんな者はいないが、刷り込まれていた単語のせいでそうにしか見えなかったのだ。
「誰がトランプ兵だコラ!」
どすのきいた突っ込みを返してきたのは誰であろう、この学園の生徒会長のイギリスだ。手に持っているのは一瞬赤いペンキに見えたのは、ただのじょうろだった。
「え、イギリスさん?」
「お前、ブルガリアか。なんでこんなとこいるんだ」
「それ俺のセリフっすよ。これ、イギリスさんのっすか」
「俺のっていうか、まあ課外活動として使ってる場所だな。いつもは人目につかないように魔法かけてんだけど、お前どうやって来たんだ」
「どうやってって、そこのアーチみつけて歩いてきたんすけど」
「見張りの妖精さんが居眠りでもしてたか?」
イギリスからぽんぽん飛び出す不思議な単語に動じないのは、友達であるルーマニアで慣れっこだからである。
「こういうのいいっすねー。俺んとこ国花が薔薇で、今くらいの時期バラの谷って呼ばれてるとこで薔薇祭りやってんすよ。期間中とか街全体からブルガリアローズの香りしてて」
近くにあったピンク色の薔薇をつつきながらそう言うブルガリアに、イギリスはひとつ深くうなずいた。
「ああ、だからか。お前から薔薇の匂いがしたから妖精さんが身内だと勘違いして招き入れたんだな」
「へ?そんな厳重に人の出入り管理してんすか」
「そりゃあもちろん。不心得者に下手に摘み取られて、傷から病気入ったら大変だからな」
「ああー……やっぱり。だから俺育てらんないんすよねえ」
「あれ、お前育てたことねえのか。手はかかるけど楽しいぞ」
「そもそもこんな広い場所に植えて世話するような甲斐性も暇もねえっす」
「はは、がんばれよ。EUの落ちこぼれ」
G7の一国である老大国様ににやにやと言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
「うう……」
「でも、ま、こんなとこまでたどり着いた縁だ。俺から土産をやろう」
そう言ってイギリスはガゼボの中に入って、ひとつ小さな鉢植えを持って帰ってきた。
「なんすかそれ」
「ミニバラだ。肥料と水をやってれば、庭がなくても育つ小さな品種だな」
「へえ、こういうのもあるんすね」
「ほんとは生徒会室に置こうと思ってたんだけどな、日当たりがあんまりよくなくて。寮のベランダだったら日当たりいいだろ」
「日当たり良すぎてこれからの季節クッソ暑くなりますね!」
「だから、やるよ」
「いいんすか」
「大輪の薔薇に囲まれて日陰者になってるよりよっぽどいいだろ」
「まあ、そっすね。じゃ、ありがたく」
イギリスから鉢植えを受け取ろうとした瞬間、ぴゅうと風が吹いて広げた手のひらからメモが飛んでいった。
「あ」
軽々と飛んでいく紙を二人でぼうっと見送る。
「取りに行かなくてもいいのか」
「んー、ま、たいしたもんじゃないんで」
「そうなのか」
「じゃ、このへんで俺帰りますわ」
「おう。それ、大切にしろよ。冬の剪定のときは俺が指南してやるから」
「うぃっす」
軽く手を振ってブルガリアは薔薇のアーチから通路へ出る。
そして後ろを振り返ると、あの幻想的な薔薇の庭は忽然と消えていて、ただの空き地になっていた。
「あれ、ブルガリア。鉢植えなんて持ってたっけ」
「ん。ワンダーランドの女王様からもらった」
「なにそれ」
「ふひひ。秘密」
ブルガリアが笑った声に合わせたように、黄色の小さな花が風に吹かれて小さく揺れた。
◆ ◆ ◆
黄色のバラの花ことば:友情
コンビ版ワンドロ【薔薇よーぐると】【バラ】のお題で書いたもの。
ぶる君の国花もバラだと知った瞬間書くしかねえな!って思った。W学園のイギは生徒会長権限でいろんなこと好き勝手してそう(偏見)
|