ヘタリア 普独





今日晩飯外で食おうぜ。できるだけ定時であがってこいよ」
とプロイセンが朝言っていたことを思い出したのは定時のチャイムが鳴った頃だった。
「ああ、早く上がるんだったな……。うむ、残りは明日に回しても大丈夫そうだな」
そう独り言をつぶやいてドイツは席を立った。ちょうどその瞬間、兄からのメールが来て小さく笑う。
『残業してくか?』
『いや、今から帰る』
『わかった。待ってる』
喋らせれば多弁な彼からのシンプルなメールがそんなだったから、いつも通り家で待っているのだと思っていた。

「兄さん!?なんでここに」
職場の出口の扉のすぐそば、ともすれば門番のように見えるようにプロイセンは立っていた。
「よう。おつかれさん。迎えに来たぜ」
「待ってるって、ここでだったのか……」
「メシ行くならここから直接行った方が早えーだろ」
「確かに」
「こないだこのへんで一番美味いイタリア料理出す店、イタリアちゃんに教えてもらったからさ、そこ行こうぜ。予約してあんだよ」
「あ、ああ……」
予約のことまでは聞いていなかったから時間を気にしていたのか、と思いながら、あまりにも手際よく進めていくプロイセンのエスコートにドイツはひとつ首を傾げた。普段行き当たりばったりな行動をするくせに。



連れていかれた店は確かに美味しかった。それもそのはずで、ドレスコードがいるほどでもないがそれなりに値の張る店だったからだ。
よく見れば、いつも悪ぶったティーンみたいな恰好を好むプロイセンは今フォーマル寄りの服を着ている。今更そんなことに気づいて、近年はあまり見かけないその姿にドイツはひっそりと胸を高鳴らせた。
「兄さん、今日はどうしたんだ」
「なーにがぁ?」
困惑するドイツが曖昧に問えば、何を聞きたいのか察した上でとぼけるようにプロイセンはにやにやと笑う。
「いつもこんなとこ来ないだろ。家でビール飲んでる方が気楽だとか言って。それに今日はそんなに持ち合わせてないぞ」
「俺が全部払うから気にすんな。毎日頑張ってるヴェストに美味い飯食わせてねぎらってやろうっていうお兄ちゃんの優しさじゃねえか」
「ほんとうにそれだけでこんなことするような人じゃあないだろう、あなたは」
そう言って睨めば、プロイセンは口をとがらせてちぇっちぇーと拗ねた仕草をした。
「記念日くらいちょっとフンパツして祝いたかったんだよ。お前は忘れてたみたいだけどなー」
「きねん……はっ!?え……あっ、ああああ!」
「ヴェスト、声でけえ」
「ああ、悪い」
本当に今の今まで忘れていた。一年前のこの日、仲の良い兄弟でしかなかった二人が「恋人同士」にもなった日だった。
「本当にすまない。何も用意してないんだ」
「俺様も思い出したの1週間前だったしな」
心底すまなさそうにして眉をハの字に落とす弟にプロイセンは笑って、あんま気にすんなと軽い調子でなだめた。
「すぐには無理だが、いつか埋め合わせをする。何か欲しいものとかあるか?」
「んー、欲しいものとかすぐ自分で買っちまうしなあ」
「だろうな」
昔から彼は欲しいものに大して躊躇はしない。そのせいで家にはよくわからない小物が知らないうちに増えていた。
「よっし、じゃあ今度の週末にでもよ、小旅行しようぜ。デート!ランデブー!」
「む、そんなのでいいのか?」
「あったりまえだろ!俺たち一緒に住んでるし、ヴェストはいつも忙しそうだし、あんま一緒に出掛けることってねえだろ」
「言われてみれば、そうだな」
「イタリアちゃんち行くのも楽しいけどよ、たまには国内旅行しようぜ。俺行きたい醸造所あんだよ」
「ということは泊まりになるんだな?運転できるほどにセーブできないだろう、俺たちは」
「だな」
家で暇を持て余しているプロイセンは観光雑誌まで読み漁るようになったらしく、周辺のおすすめスポットを次々挙げていった。それにドイツは相槌を打ったり賛成したり悩んだりして、デートプランを組み上げていきながら食事は進んでいく。
皿はすっかり空になって、食後の酒が供される頃にはプランは大詰めになった。
会話にすっかり夢中になった二人がふと手元に視線を向けると、シチリア産のワインが赤く揺れていた。
「「あー、ビール飲みたい」」
つぶやいた声がぴったりはもって、二人は顔を見合わせてくつくつと笑う。
「ああ、週末がこんなに楽しみになるのは久しぶりだ」
「だな。ヴェスト、ちゃんと休みとってこいよ!」
「もちろんだ」
夜の方も楽しみにしとけよ、と言いかけたプロイセンはすんでのところで口を閉じた。台無しだと言われてテーブルの下で蹴飛ばされそうな気がしたし、ワインに少し酔ったドイツがふわふわと幸せそうな笑みを浮かべていたからだ。
構いたおしたり困らせたりするのも楽しいけども、かわいくていとしい弟兼恋人を、こうやってひたすら甘やかすのは自分だけだと思うとそれだけでじわじわ満たされた気がした。






 右独ワンドロの【デート】ってお題で書いたものでした。
ぷーちゃんにはお疲れのどいつさんをでろでろに甘やかして癒してほしい感。全力でおにいちゃんぶってるぷーちゃんが好きです。