ヘタリア 親分子分





今年の冬は特に冷える。もう1枚着て来ればよかったか、と思いながらももうスペイン宅の玄関前まで来てしまったロマーノには家に戻るという選択肢は存在しなかった。会議にはいくら遅刻しようと、スペインとのデートの日だけ極力時間通りに着くというのはロマーノのポリシーであるからだ。
寒さで赤くなった手をこすりながら呼び鈴を押し、待ち時間につらつらと思案する。
(こないだ手袋だめにしちまったし、デートのついでに買っとくか。でも今日の服に合う色のが見つかるか怪しいな……やっぱ帰ってから調達するか)
ぼんやりと結論が出たころにバタタタッと物音がした直後ドアが開いた。
「ごめんなロマーノ、寝坊してもた!すぐ準備するから早よ入り……さっぶ!もうほんまごめんなー」
くせ毛がいつも以上にてんでばらばらな方向はねたスペインはひどく慌てているようで、いつものんびりとした彼の珍しい姿が見られただけで怒る気は失せていた。
「気にしてねえよ。ほら、さっさと支度して来い。今日は買い物したあと一緒にパエリア作るんだろ」
「あっ手ぇ真っ赤やん!ちょっと待っててなーこないだええもん買うてん」
「……聞いてねえし」
ばたばたと部屋に戻りすぐに戻ってきたスペインの手にはミトンの手袋が握られていた。
「これ夜にでも渡そう思てたんやけど、また外に出るしええよな」
ロマーノの手に包装もなく押しつけるように渡された真っ赤なそれは、よく見れば手の甲部分に緑色の星がひとつずつ刺繍されている。それはまるで。
「トマト……か?」
「そや!可愛いやろ?」
太陽の様に笑んだ顔に一切の他意は無い。しかしそれをよそにロマーノの胸中には様々な思いが飛び交っていた。
(トマトって!トマト柄のミトンって!まずどこに売ってんだよどこで買ったんだよどんな需要があったんだよ!俺だってトマト好きだけどわざわざ身につけようとは思わねえよ!でもよく見ればちょっと可愛いかも…いやいや大の大人、しかも数百歳超えた男がトマト柄のミトンってどんな羞恥プレイだよ!仮にもオシャレで名が通ってるイタリア男のプライドが、でもスペインの好意を無下に断るのも…)
「それ、親分とおそろいなんやでー」
逡巡していたロマーノの心が、その一言で決まった。



数週間後。
「兄ちゃん、趣味変わった?」
「……別に」
「さすがにそのチョイスは……うん、そういう道もいいと思うよ。じゃ、いってらっしゃい」
イタリアが見おくったロマーノは、トマト柄のミトン・トマトモチーフの耳あて・スペイン国旗カラーのマフラーに身を固めていた。






心友が描いた親分ナイズされた子分の絵(コレ)に触発されて。
それでいいのかイタリア男。