ヘタリア 普独






お題:休日  

ずいぶんと日が高くなったころ、ドイツはゆるゆると目を覚ました。こんな時間まで惰眠をむさぼると少しばかり罪悪感が沸くが、休日の特権だと思って無理やり納得することにする。
体を起こして着替えると、部屋の外から甘い香りがすることに気付いた。
そういえば兄が数時間前に「製菓用の材料ちょっと借りるぜー」とことわってきたのだった。その時はほとんど唸るような声で承諾し、2度寝を決め込んでいたのだが。

やや重い体を起こしてキッチンに向かえば、珍しくエプロンを付けたプロイセンが立っていた。
「Guten Morgen、兄さん」
「Morgen!ずいぶんとお寝坊さんだな、ヴェスト」
「そうさせたのはどこの誰だ」
「ケセセ、俺様だな!メシ用意してやるから座って待ってろ」
その指示を聞かなかったことにして、ドイツはプロイセンの手元をのぞき込んだ。
「この甘い匂いは……?ああ、クーヘンを作ってるのか」
「ちょ、座ってろって言ったろ!クッソ、きちんと仕上げてから見せてやろうと思ったのに」
「ああ、すまない。……いや、隠すつもりならもっとそれらしくしたらよかったじゃないか。例えば、俺が仕事でいないときとか」
「んー、掃除中にお前のレシピ見つけたのがたまたま昨日だったからな。やるなら今日だと思ってよ」
「……はッ!?」
さらっと言われた内容に驚いてキッチンを見渡すと、部屋にしまい込んでいたはずのレシピ集がテーブルの上に無造作に広げて置いてあった。秘密のレシピ集というわけでもないが、誰かに見せる想定をしていないために試行錯誤の書き込みがたくさんしてあって、それが見られたと思うと気恥ずかしい。
今更だとはわかっているがレシピを閉じて、ドイツは文句を言った。
「勝手にひっぱりださないでくれ!」
「別に見られて困るモンじゃねーだろ。あ、俺様が清書しといてやろうか?」
「結・構・だ!それに内容は全部頭に入ってる」
「それなんだよなー。俺達の家庭の味なんだから俺様にも教えろよ」
「断る」
「えー」
プロイセンはぶすくれながらもテキパキと簡単に朝食を作り、テーブルの中央に大皿に乗せたアプフェルクーヘンも置いた。
「出来たぞ、さあ食え」
「ああ」



改めてクーヘンを見れば、いつもドイツが趣味で作ってるのと遜色ない出来であることがわかる。少なくとも外見は完璧だ。
「ほんとにレシピだけでここまでできたのか」
「勿論。やっぱヴェストのクーヘンが世界一美味えからな、他は試す価値もないぜ」
「……そうか」
途端ドイツの眉間に皺が寄った。それは彼の照れ隠しであることを十分知っている兄はにやにやと笑った。
「さーて味はどうかなっと。料理と違って味見できないのちょっと困るよなこれ」
「そうだな」
大きめに切り分けたクーヘンをそれぞれ小皿に盛って、プロイセンは先に食えと視線で合図した。
促されるまま、フォークを突き立てて口に運ぶ。ふわっとやわらかな口当たりとリンゴの優しい甘みが広がって、思わず口元が緩んだ。
「美味い。ああ、これはおいしいな。俺が作ったのよりずっと。本気になればなんでもできるんだな、あなたは」
「ケセセセ!もっと褒めていいぜ!」
「いやこれ以上言うと調子に乗りそうだからやめておこう」
「なんでだよ!よっし、俺も食お」
そう言ってプロイセンもクーヘンを口に運んだ。が、不可解そうな顔をして小さく首を傾げた。
「どうした、兄さん」
「んー……いや、美味いんだけど、なんだ?なんか足りない気ィしねえ?」
「そうか?」
「レシピ通りにキチッと計ったし、焼き時間も何度も確かめたし、問題無えはずなんだけど、なんだぁ?」
「足りない?…………………あ」
弟がなにかに気付いた様子なのをプロイセンは見逃さなかった。
「なんか分かるか?レシピに書いてねー一工夫とかしてる?」
「いや……そんなものはない。なんでもない。気にしないでくれ」
「そう言われて気にしねえ奴いねーだろ」
なーなー言えよーとしつこく強請られ、ドイツはぐぐっと眉間に皺を寄せた。さっきよりもずっと険しく。そして不意にあきらめたような表情になって口を割った。
「愛情が最高のスパイス、と言うだろう」
ちいさくぼそぼそと言われた言葉があまりにも可愛くて、プロイセンは盛大に笑った。
「じゃあヴェストのクーヘンが世界一美味いのは当然だな!」
「言いたくなかった……」
「えー、大事だろそこ。――なあ、今度の休みお前がクーヘン作れよ。これと同じやつ」
「分かった。そうだな、俺が寝坊をするはめにならなければ」
ドイツに言わんとすることを察したプロイセンは小さくゲッとうめいた。
「まあ、ゼンショするぜ」
「ぜひとも善処してくれ」
しれっと言って、ドイツは愛情のたっぷりつまったクーヘンをまた口に運ぶ。
プロイセンが来週愛情のつまったクーヘンを食べられるかどうかは、彼の自制心にかかっている。






右独ワンドロの【デート】のお題で書いたもの。
ぷーちゃんに夢見てる勢としては、どいちゅさんと同じくマニュアルがあれば大抵のことはできそうだと思っている。