ヘタリア 不憫ズ
※ 現パロかつファンタジーパロ




〇月〇日
昨夜は色々ありすぎて記録するのを忘れていた。今から思い出しつつ書く。

魔法陣を書くのに十分な量の水銀と清めた聖書と魔力をブーストするためにマジックアイテムをそろえたのがちょうど1週間前。そこから体調を万全に整えて、研究室に魔法陣を書き、0時ちょうどまで待っていた。
今思えば「悪魔を呼び出して使役できれば俺も一人前の魔法使いだ!」「変な魔導書を見ちまったりして正気度が減ったりガセネタつかまされて損したりしたのもこれで報われる!」なんて雑念が多すぎてあんなミスをしちまったのだと思う。次やるときは心を無にしなければならない。……そういう修行をするべきか?
ともあれ、0時ちょうどに詠唱を開始し悪魔を呼び出す儀式を執り行った。
詠唱が終わった瞬間背中からすとんと力が抜ける感覚がして、魔法陣が光り、ぬっと人影がそこから現れた。
そう、人影だった。悪魔というからにはもっとバケモノじみてて巨躯だと思っていたから拍子抜けした。よく考えれば地下の研究室でそんなんが現れたら家が壊れるから、召喚されたのはあいつでよかったのだと思う。
へたりこんだ俺の目の前でそいつは掠れた声で笑った。
「フハハハハハ、ケセセセセ!俺様を呼んだのはお前か?」
魔法陣を発動した衝撃で声が出なかった俺はこくこくと首肯すると、にやっと笑って俺を助け起こしながら言った。
「よし、じゃあ今この瞬間からお前がこのギルベルト様の3番目のマスターだ!」
意味が分からず、何のことかと訊くと(この瞬間から声が出るようになった)ギルベルトと名乗ったそいつは首をかしげて口を尖らせた。
「なんだよ、俺様が何者かわからずに呼んだのか」
「悪魔、じゃねえのか」
「悪魔?厳密にはちげーよ、似たようなもんかもしれねえけどよ」
今更ながらそいつの容姿をここに記録しておく。
背丈は俺より少し大きく、筋肉があるため厚みは俺よりもかなりある(俺が痩せ型というのもあるが)。銀髪に赤い目、髑髏の描かれ角のついた黒いパーカーとジーンズを着ていて、腰には矢印のような尻尾が長く伸びている。
悪魔というか、悪魔のコスプレをした青年といった風体だ。魔法陣から物理法則を無視して現れたのだから、ヒトならざるものであることは確かだが。
というか、確かにヒトならざるものであった。曰く、元は天界の聖騎士をやっていたそうだ。だが天界の偉いやつを怒らせて下界に堕とされ、ひとのほんとうの望みを3つ叶えなければ天界に戻れないという罰をうけているとこだという。
「お前、その偉いやつに何したんだよ」
「湖に引きずり込んでおぼれさせちまった」
「げえっ」
「水遊びしてる俺たちを水辺で眺めてるだけだったからよ、こっちきて一緒に遊ぼうぜ!ってやってたらさー……、そういえばあいついつもより薄着だったけど水着着てなかったんだよな。いつもつけてるマフラーもびっしゃびしゃ」
「そりゃ俺でも怒るわ」
「正直悪いことしたと思う」
「つーわけでマスターを変えてひとつずつ、3つ願いを叶えなきゃいけねーんだよ。お前の望みはなんだ?あ、金がほしいとか世界の王になりたいとかはナシな。俺はお前が願いをかなえる手助けをするだけだ」
「なんだ、案外無能だな」
「無能じゃねえよ!俺様に向いてねえ仕事させられてるだけだっつーの!」
「向いてる仕事って?」
「聖騎士だっつったろ。戦略組んだり電撃戦しかけたりすんのは得意中の得意だぜ!」
「現代社会にはいらねえ能力じゃねえか」

そんな話をしながらこちらからも名乗って握手をし、悪魔のようなそうでないようなギルベルトと契約を交わした。
ちなみに天界から堕とされたけど厳密には悪魔じゃないから、名前を知られたら魂をとられるとかはないらしい。

キッチンでギルベルトが呼んでるので今日のところはここで記録を終わる。



〇月×日
ギルベルトに俺んちのありったけのエールを空にされた。F〇〇K!!!
飯は食えるが食わなくても大丈夫だっていうから、冷蔵庫はエール置き場になってるし他に食材もないから家に留守番させて、俺だけ外に飯を食いに行ってたらその間にやられた。
「ちょっとしたいたずら心で口付けたら止まんなくてよ」だそうだ。ガキか。
まあ、エールに限らずビールは美味いよな。そこは認める。

雨が降る前に冷蔵庫に置いてあった分の倍量ギルベルトに買いに行かせた。
悪魔もどきに対する最初の指令がこれでいいのか。

こういった指令は「望み」には入らないらしいからいいんだが。



〇月△日
改めてギルベルトに俺の望みは何かと訊かれた。
俺が一番望んでいたのは悪魔を呼び出して一人前の魔術師になることだったから、ある意味ギルベルトが来た時点で望みは失敗している。
ということをそのまま伝えたら、ものすごくがっかりされた。顔面がうざい。
その数秒後、はっとした顔になって俺をひっぱって地下のあの研究室に向かった。
「要するに本物の悪魔を呼び出せればお前の望みは叶うんだな?」
「まあ、そういうことになるな」
「じゃあ何で失敗したか検証して再試行すればいいってことだな」
そう言ってギルベルトは部屋の中の物の配置、風の流れ、用意したマジックアイテムなどの検証をしはじめた。
「お前、そういうの詳しいのか」
「詳しくはねえけど、暇すぎて読み漁った本の中にこういうのあったんだよ」
暇なのかよ。仕事しろよ。
「んー、特に問題はねえなあ。あ、この清めた聖書って悪魔を縛るためのもんだよな」
「ああ」
「俺様みたいな天界の住人くずれとか、逆に強すぎる悪魔には効かねえから注意な」
「マジか。了解」
「――あ、これだな、ミスの原因」
そう言ってギルベルトが指し示したのはあの魔法陣だった。円の縁に書かれた文字が悪かったらしい。
「ここ、古代ルーン語で効果範囲指定してんだろ。地獄の悪魔を呼び出そうと思ったら多分ここゼロがあと3つは足りてねえな」
「嘘だろ!本見ながら何度もスペルチェックしたぞ」
「じゃあその参考文献が間違ってんだな」
「クッソ!」
「これだと、あー、ここどこだっけ」
「場所か?ロンドン」
「そうか。だと……そうだな、ロンドン中心に円を描いて、大西洋と中欧くらいが召喚対象範囲か」
「……記録しておく」

というわけでギルベルトの言っていた箇所と正しいスペルを別紙に記載しておく。



〇月※日
夜一緒にエールを飲んでいたら、
「リトライしねえの?」
と突然ギルベルトに言われた。なんのことかと思えば、悪魔召喚の話だった。
もう一回やるには俺の魔力が枯渇してて3年は貯めないといけない、というのをそういえば伝えるのを忘れていた。
そういったら、昨日の比ではないほどがっかりされた。うざいを通り越して可哀そうになってきた。
そこまで天界に帰りたいのかと訊いたら、そりゃあな、と返された。人間界も嫌いじゃないし、ビールは美味いし、堕とされてから変化した今の恰好(角と尻尾のついたあの恰好だ)はむしろ気に入ってるが、天界に弟を置いてきてるから早く帰りたいと言っていた。
「早く会いてえなあ」
なんていうものだから、俺もつられて感傷的になってしまった。多少酒が入っていたからというのもある。
離れていった弟のこと、昔いじめてきた兄たちのこと、友達ができないこと、かろうじてあった魔術師としての才能を磨いても語り合える仲間ができないこと。
そんなことをぐちぐち喋っていたら「お前寂しいのか」と言われた。
とっさに「そんなことねえよ!」と言ってしまったが、きっと図星をつかれたからそう言ってしまったのだと酔いがさめた今ならわかる。

きっと俺の望みは「この寂しさをどうにかしてほしい」なのかもしれない。
それをあいつに伝えたら、どうなるんだろうか。友達を作る手助けでもしてくれるのだろうか。そして弟に会いに天界に帰るんだろう。

正直、ちょっと嫌だと思う。
うるさくて変な奴だけど、俺は案外あいつを気に入ってしまったから。




コンビワンドロ【不憫ズ】【悪魔】のお題で書いたものでした。
こういう日記系の手法は定期的にやりたくなります。
何か大きな話の序盤みたいな終わり方だけど、特に続く予定はない。