ヘタリア 普独+α





前提:ドイツさんがベルリンを離れ諸邦の兄たちのところを渡り歩きながら長期出張するということになったので、手伝いという名の付き添いで兄さんもついてきました

◆ドイツ東部、ドレスデンにて、ザクセンさんと
「Hallo、ザクセン兄さん。今日明日とお邪魔する」
「Hallo!久しいなドイツ、我らが愛しき末弟!邪魔なんてとんでもない、どうぞゆっくりしていってくれ。――ああ、いささか邪魔なお荷物があったな」
にこやかにドイツを出迎えたザクセンは、一転して冷ややかな目をプロイセンに向ける。その視線に真っ向から歯向かうようにプロイセンはメンチを切った。
「ア゛ァ!?誰がお荷物だってぇ?」
「おやおや、自分がお荷物だと気づいてないとはなんと哀れな」
「俺はヴェストの手伝いで来てんだよ!現実をきちっと認識できない哀れなアタマを持ってるのはどこのどいつだぁ?」
玄関先で喧嘩を始めかねない兄たちをドイツはばりっと引きはがした。
「あなたたちは、どうしていつもそんなにいがみ合うんだ……」
やれやれと嘆息するドイツに、抗議したのは同時だった。
「今の見てなかったのかよ、先に喧嘩売ってきたのはコイツだろ!」
「いつもお前を独り占めしてる奴がこんなとこまで来てムカつかないわけがないだろう!」
「一番のお兄ちゃんなんだから俺様が一番一緒にいるのが当然だろうが!」
「だからってついてくることないだろう!歴史も浅い・育ちも悪い・行儀も悪いお前なんかと誰が好き好んで顔を突き合わせたいものか!我らがライヒへの特別な献身がなければ、一時だってドイツを預けたくないくらいなのに!」
「こンの野郎、好き勝手言いやがってぇ」
今にも殴り合いを始めそうな二人の脳天に、強烈な一撃がガツンとひとつ。
同時にうずくまる兄たちを見下ろす彼らの愛する弟から、低く冷ややかな声が降る。
「やめろといっているのが、わからないのか?」
「「ゴメンナサイ」」

なお数日後、ヘッセンとも似たようなやりとりをした。


◆ドイツ南部、ミュンヘンにて、バイエルンさんと
「ようこそ、久しぶりだな、我らがライヒ!それにプロイセンも」
あたたかく迎えたバイエルンを、プロイセンは無言でじとりと睨む。ドイツと腕を組んでぎゅうぎゅうと密着して、警戒心丸出しといった様子だ。
ドイツは挨拶をしたのだが、プロイセンのその態度に当惑しているようだった。
「ん?どうしたんだ、そんなにくっついて。もしかしてこれは仕事ではなく、ハネムーンだったか?それだったら俺の家は貸せないけども……」
「いや、出張で合ってる。大丈夫だバイエルン兄さん」
「そ、そうか?まあ仕事の話はほどほどのところで切り上げよう。今回のために、俺のところの醸造所からたっぷりビールを取り寄せたんだ。オクトーバーフェストには早いが、たまには我ら兄弟水入らずでぞんぶんに飲もうじゃないか!」
ビールの単語にドイツが目を輝かせた瞬間、プロイセンが大声で遮るものだから、二人して目をぱちくりとさせた。
「あああああもうやっぱり!そういう魂胆か!ずりぃぞこの野郎!」
「ど、どうしたんだ兄さん」
「なんの話だプロイセン」
「ヴェストをビールで釣って酔わせて、ガードがゆるっゆるになったところでベタベタするつもりだろ!俺様にはお見通しなんだからな!」
そう言ってプロイセンは組んだ腕をほどき、ドイツを背中で隠すように前に立った。
「何を馬鹿なことを……俺に対してそんなことを考えるひとなんて、兄さんくらいしかいないだろう……」
「おっまえ、自分の魅力分かってねえにもほどがあるからな!?」
そんなやりとりを見、ふむ、と呟いたバイエルンは、にたりと笑った。
「俺も飲むつもりだったが、なるほど、そういう手もあったか。いやあ、実に参考になったよ」
瞬間、紅い瞳が限界まで見開かれ敵意の光が一瞬で灯った。
「ほーら!ほーーーーら!!ヴェスト聞いたか今の!」
「兄さんがうるさくて聞こえてない」
「なんで聞いてねえんだよ!」
「無茶を言う……」
漫才のようなそれにバイエルンはからからと笑った。
「はっはっは!冗談だよ、冗談。我々がこよなく愛する命の水の前に修羅場を持ち込むほど、俺は無粋じゃないさ。純粋に楽しもう。さあ、どうぞ中でゆっくりしてくれ」

そうは言われても簡単に警戒などとけるはずもなく、プロイセンはさっぱり酔えなかった。
しかし兄兼恋人の心配をよそにドイツは早々に酔いつぶれたのだった。


◆ドイツ北東、ポツダムにて、ブランデンブルクさんと
「なあ、コイツんとこ寄ってく意味あるか?ほとんど近所みてーなもんだろ」
「まあ、一応諸邦の兄さんたちへの挨拶回りも兼ねてるから。近所だからといって飛ばすと拗ねそうだろう」
「確かに」
「なんだったら先にベルリンに帰ってていいぞ」
「いーよ、俺あいつと割と仲いいし。っと、着いたな」

「Hallo、久しぶりだなドイツ」
「Hallo、ブランデンブルク兄さん。久しぶりと言っても、3週間くらいだろう」
「私たちにしては長い方じゃないか。どこかに行っていたのかい」
「各地の兄たちと仕事兼挨拶回りを」
「ああ、だったら私も連れて行ってくれればよかったのに。私も彼らにはなかなか会えないでいるんだ」
「兄さんひとり連れていくだけでも十分すぎるほど賑やかだったのに、これ以上人数を増やせないさ」
「兄さん?ああ、プロイセン!いたのか、こちらは本当に久しぶりだな!」
「よ、久しぶり。元気してたか」
「おかげさまで。お前も元気そうでよかったよ、ダーリン」
ブランデンブルクの爆弾発言に、二人はかっと目を見開きぎょっと固まった。
「だ、は、え!?」
「おま、なん、えええ!?」
「そんなに驚くこともないだろうに。200年近く結婚生活をしてひとつになった仲じゃあないか、拒絶しないでおくれよ」
「けっ……!?」
ぱくぱくと絶句するドイツの隣で、やっと理解したプロイセンは、あー!と叫んだ。
「同君連合のときのこと言ってんのかよ!馬鹿、ヴェストの前でそういう表現すんじゃねえよ!このお馬鹿さんが!」
「ということは、ほんとうに、けっこん、してたのか」
おろおろとうろたえるドイツの肩をがしっと掴んで、妙な方向に行こうとしている思考を引き留めた。
「ちげーよ!ヴェストも知ってるだろ、ブランデンブルク=プロイセン連合!その話だって。連合王国を結婚とか表現してる奴もいるけど、ほら、どっかの貴族の坊ちゃんとかよ、でも俺はちげーから!既婚者じゃねえし、浮気でもねえから。だいたい、誰がこんなむさくるしい男と結婚なんかしたいかよ!」
「そうか、むさくるしい男と結婚は嫌か……」
「はッ!?あー、もー!ヴェストのこと言ってるんじゃねえって!お前むさくるしくなんかないから!――ブランデンブルク、お前のせいでヴェストがなんか可哀そうなことになっちゃっただろ責任とれよ!」
「く、ふふふふ、ああ悪かったよ。私はお前と仲良しだったつもりなのに、近くにいても全然会いに来てくれないからいじわるをしたくなってしまって。決して我らが愛しい誇るべき末弟を悲しませるつもりじゃなかったんだ。許しておくれ」
よしよし、とドイツの頭を撫でたブランデンブルクは二人を手招いて家の中に入っていった。
「お詫びにコーヒーでも淹れるから、さあどうぞ。あったかいミルクをたっぷりいれたやさしい味にしよう」

「仲いいつもりだし悪い奴じゃねえけど、何百年経っても何考えてるかわかんねえとこあるからあんま会いに来る気しねえんだよなあ」
叫び疲れたプロイセンはそう呟きながら、愛しい弟の背中をそっと押して家の中に入っていった。






諸州のお兄ちゃん方もどいつさんを溺愛してたらいいな、という話から。
ハネムーンじゃないとか言ってるけど実質ハネムーンだと思うよ。