ヘタリア ギル→子ルッツ・ギルッツ





その昔、ヴェストがまだ子供だった頃の話だ。

仕事から帰ると、ヴェストが家のソファで本を読みながらうつらうつらしていたことがあった。
俺様の愛すべき弟はそのころから既にクソ真面目で、いっぱい勉強していっぱい訓練して大きく育て、なんて俺たちが言うのを真正面から受け取って常に勉強は欠かさなかった。睡眠時間を削れなんて言っていたつもりもないけど、きっとそうしていたんだろう。
でもきちっと休息をとるのだってこどもの大事な仕事だ。
「眠いならベッドいけよ、夕飯の時間になったら起こしてやっから」
ソファの隣に腰掛けながらそんなことを言ってやると、ヴェストはゆるゆると首を振って、もうちょっと、と抵抗した。ほとんど瞼の落ちそうな目でどうやって続き読むんだよ、と可笑しくなった俺は、その場の思いつきでぽんぽんと自分の膝を叩いて招いた。
「よぉし、今なら特別におにいちゃんの膝を貸してやるぜ!」
そう言うと、幼いヴェストはちょっとぼーっとしたあとこくんと頷いて、何も言わず俺様の膝を枕にして寝ちまった。いや、言いだしたの俺だけど。コイツは昔から甘え下手だったから意外だった。

すよすよと眠るヴェストを見て満足すると、今度はやることがなくなって暇になった。
俺は昔からじっとしているのが苦手だったから、動くこともできず喋ることもできないっていうのは結構苦痛だった。ならなんで膝枕してやるなんて言ったかといえば、本当に思いつきだったからだ。
さっきまでヴェストが読んでた本は俺様と反対隣に置いてたから微妙に手が届かない位置にあって、無理に手をのばすとヴェストが起きそう。
で、どうしたかというと、膝の上にあるこの子供をひたすら撫でることにした。起こさないように、やわやわと。
これがまたすごくきもちいい。
さらさらの金髪だったって聞く俺たちのじいさんに似たのか、つややかな髪のさわり心地はとっても俺好みだった。刈り上げた首の後ろを触って楽しんだり、ひと房持ち上げて夕陽に透かしてきらきら光るのを眺めたり、もみあげや耳の裏の生え際を指でなぞってみたり。
すると段々とヴェストのしろい頬や耳が赤みを増してきて、息が荒くなり、小さくみじろぐようになった。起こしちまったかとおもって声をかけてはみたが、反応はしなかったからまだ夢の世界にはいるんだろう。だけど、どこか辛そうにするのが不可思議すぎて、やめておけばいいのに俺は、俺が何をしたらヴェストがそうなるのかを確かめたくなった。
額を撫でる。更に首を、頬を。そして耳朶を。
瞬間、この幼子の反応が露骨に変わった。
薄く開いた口から荒く短い息が漏れ、少年から青年への過渡期の少し掠れた声が、驚くほどの艶をもって「あっ…」と小さく響いた。
慈しむべき弟が漏らしたほんの短い一音、たったそれだけでこらえがたい熱を持った衝動がぞわりと背筋を駆け抜ける。同時に「その衝動は危険だ」と直感が警鐘を鳴らした。その動揺が俺の身体、そして膝を揺らし、ヴェストの覚醒を誘う。
とろりと熱っぽく潤んだ青い瞳が薄く開いたのを視界に入れた瞬間、たった今の警鐘が間違いでないことを知る。再び駆け抜けた熱はまっすぐに胸と、あらぬところを直撃した。
「にぃ……さん?」
まあるい響きで呼ばれる声すら毒で、何かを叫びだしたくなるのを喉の奥でこらえて、できるだけやさしく言う。
「悪い、仕事思い出したから膝枕はここで終わりな。ベッドまでつれてってやるからそのまま寝てろ」
するとヴェストはまたちいさくうなずいて、すうっと瞳を閉じた。

できるだけやさしく速やかにベッドに送り届け、部屋から出て扉を閉じてそれにもたれかかる。
仕事なんて大嘘だ。でも向かい合うべき課題が出来たことには違いなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆



で、なんでそんなことを回想してたかというと、今まさにヴェストの耳をさわさわといじりまわしていたからだ。

なんとなくいつもよりちょっと早めに目が覚めちまって、でも夏の暑さも落ち着いて気温が下がり始めた朝は素肌の肩にはちょっと寒くて、立派に育った弟のむきむきがぽかぽかあったかくて、熱を求めてちょっとだけ近寄って。
あー俺様の弟超可愛い世界一可愛い、なんてでれでれしながら、眠ってるときだけはあの頃の面影が色濃く残る寝顔を見つめてたら、あの頃のことを思い出した。今思えば、あれはこんな関係になる前触れだったのかもしれねえ。そうじゃなきゃ、いくら若かったとはいえ弟、というか子供に欲情なんかするもんか。

とりあえず思い立ったらやらずにはいられない俺は、ヴェストがちょうど左耳が上に剥くようにこちらを向いて眠っていたから、それに手をのばして触ることにした。
耳全体を手でつつみこむようにして指の腹で境目を撫でてみたり。親指で外側をなぞってみたり。薄い耳たぶをふにふにと揉んでみたり。
俺にしてみたら邪魔くさいく思うか、よくてくすぐったいくらいの触れかたをしただけで、ヴェストはあっという間に息が上がった。でも目は覚まさない。どんだけ疲れてんだ……いや、昨夜疲れさせたの俺だけど。
最初はやわやわと、そこからだんだんと大胆にいじりまわす。紅潮していく頬と高くなる体温、薄く開いた口から見える舌の赤さに煽られて、こちらも息が浅くなる。
うっかりと親指の爪でかりっと耳の縁をひっかいた瞬間、んあっ、と甘く声が上がって、うっすらと青い瞳が瞼の奥からのぞいた。
「に……さん……?な、に……?」
「モルゲン、ヴェスト。ちょっと遊んでただけだぜ」
「遊びで、そんな触りかた……」
ゆるゆると覚醒してきたヴェストは知らぬうちにほてった熱を持て余して、そんな抗議をする。
「ここを触っただけでそんなんなるくらい敏感でお前大丈夫かよ、心配になっちまうぜ。まあ、俺はそういうの大歓迎だけどよ」
からかい交じりにそう言えば。
「にいさんがさわるから、こんなふうになるんだ。心配しなくていい」
寝ぼけたぽやぽやとした声音のままそんなことを言われて、そのいとけなさとしなやかな色気のギャップに胸がぶちぬかれる。
「なあ、お前の身体が大丈夫ならさ、今からもう一回シねえ?」
切羽詰まった衝動をこらえながら、できるだけ包容力があるふうに振る舞ってそんな提案をする。
でもこの世界一可愛い愛すべき弟は、そんな理性を簡単に、そして無意識にぶち破りにきた。
「おれもそう言おうと、思ってた。兄さん、bitte……」
水気を含んでとろりと融けた青い瞳に乞われたら、そうしない訳にはいかなかった。
衝動のままぎゅうと抱きしめると、耳元でくふくふと小さく笑う声が聞こえる。
俺からしかけて煽ったくせに、こんなときにこの弟の掌の上で転がされている気になるのだ。さっきまで俺が弄んでいたヴェストの耳のように。






ギルッツbotで耳が弱いルッツさんの話があって、なんかもう書くしかないなって思った。衝動(イド)がそう言った。