ヘタリア ギルッツ・パラレル





昔々、とある世界のひとつしかない大陸に、均等に分かれた4つの国がありました。その国々はそれぞれ、ハート・スペード・ダイヤ・クローバーといいました。
4つの国々はちいさな諍いを起こしたり和解したりしながら、仲良く暮らしていました。かつては。
というのも、スペード国とクローバー国の王がほんの些細な言い争いをきっかけに、今までになかったような喧嘩を起こしてしまい、大きな戦争になりそうな気配がしていたからです。

剣呑な時代の流れに飲み込まれそうになるのをどうにか躱し続けていたハート国の王・ルートヴィッヒは、今後どうやって自分の国を守っていかなければならないか日々頭を抱えていました。
観光をメインに成り立っていたハート国は、お金はあっても軍事力はほとんどなく、軍を強く育てられる人材もなかったのです。そこをついて、軍事力、とくに防衛力の強いダイヤ国から、大金と引き換えに人材を貸そうかという提案があって、それを受けるかどうかというのが最大の悩みの種でした。民を守るために軍を育てたいのに、そのために民を飢えさせることなどあってはならないのです。

戦いの得意ではない補佐官たちは大金を引き換えに軍事顧問を雇い入れようと言い、王であるルートヴィッヒは自国内でどうにかするべきだ、と言い、議論は今日も平行線で進展のないまま終わってしまいました。
疲れた体を引きずって寝支度をしたルートヴィッヒは、自室に人影を見つけてとっさに武器を構えることもできず、驚いて無言でのけぞってしまいました。結果的に言えば、警戒する相手ではなかったのですが。
「よう、ルッツ。遅くまで仕事か?お疲れさんだな」
「Guten abend、ギルベルト。来るときは連絡をいれろと言っているのに」
「『ハート国の王』じゃなくて『ルートヴィッヒ』に会いに来てんのに連絡なんて入れられっかよ!ずぅっと王様業してるお前によ!」
にやにやと笑う黒い服と紅い角をもつ男・ギルベルトは、この世界で唯一どこの国にも所属してない『ジョーカー』と呼ばれる者でした。
どこの国にも属さず、厳しい検問にも気づかれぬままするりとどこにでも行き来できる彼は、本来なら王に直接謁見できるような立場ではありません。どこの国にも属さない故に、どこの国の法律にも縛られない代わりに、国民として法律に守られない「民以下」の存在であるからです。
報酬と気分次第で一時的に依頼を受け、あるときは傭兵となり、あるときはスパイとなり、あるときは貿易商になる彼を他の3国の王は警戒していましたが、ルートヴィッヒだけはそうではありませんでした。
若さ故に彼のほんとうの恐ろしさをあまり理解してないためでもあり、ギルベルトがルートヴィッヒを気に入っているのかとても友好的であるからでもありました。彼が場合によっては自分に剣を向けることなど、どう頑張っても想像できなかったのです。
だからでしょうか。彼が王という立場でありながら部外者に弱音を吐いてしまったのは当然だったのかもしれません。
「昨今、どうにも近隣が不穏だろう。そのことを考えると俺が俺である時間なんて無いに等しいんだ」
「あー、アルとイヴァンが喧嘩してるやつか」
「ああ。彼らの諍いから自国民を守らなければならないのに力が足りなくて。――そうだ、ギルベルトは武器の扱いが得意だと以前言っていたな」
「ああ!世紀の天才たる頭脳をもつ俺様にかかれば、どんな兵器も兵士の取り扱いもお手の物だぜ!」
「なら、あなたに俺の国の軍事顧問を依頼したいと思うのだが、どうだろうか」
『ジョーカー』がどこの国にも属さない代わりにどこの国にも味方しないのはルートヴィッヒも知っていました。でもそんなことを言ってしまったのは、すっかり手詰まりになったからでもありました。
なのでギルベルトの返答は、言い出しっぺであるルートヴィッヒすら意外に思うものでした。
「いいぜ」
「……なんだって?」
「受けてやる、って言ってんだよ。ただし、条件がある」
「条件。言ってみろ」
「この国で一番価値があるもの、いや、一番価値があると俺が思えるものを、俺によこせ。それが条件だ」
どこか悪魔的な交換条件だな、と思いながらルートヴィッヒはうなずきました。
「なるほど。たしかにそれは働きに見合う報酬だ。考えておこう」
そう言ってルートヴィッヒはギルベルトの脇を通り抜け、ベッドに倒れ込んですぐさま眠りについてしまいました。
あの『ジョーカー』がなぞかけみたいな条件で仕事を請け負ってくれるなど、きっとこれは夢なんだ、と思っていたので。

しかし朝目覚めると、昨夜と同じ位置に腰かけていたギルベルトがこちらをみやり、
「Guten morgen、ルッツ。俺様への良い贈り物は考え付いたか?」
と訊いたものですから、あの晩の嘘みたいな契約は有効だったのだとようやく実感したのでした。


ギルベルトが提示した期間は7日。その間にギルベルトが思う「この国で一番価値のあるもの」を差し出すことができなければ、彼を雇うことができません。つまり、国民を飢えさせるのを覚悟してでも他所から顧問を雇うか、争うどちらかに肩入れして戦いに参加するしかなくなるのです。

1日目。
ルートヴィッヒはギルベルトを共にして王座に立ち、言いました。
この者に国で一番価値のあるものを差し出すように、と。そうすれば無辜の民をまきこむことなく、国内だけでも平穏が保たれるようになる、と。
そのお触れに役人たちはざわつきましたが、王の視線一つでしんと黙りました。そして同じように視線で促されたギルベルトは追加するように言いました。
「金が欲しいわけじゃねえ。民も、土地も、身分も、そうだ。俺様が一番欲しいものを当てられたら、この国をきちんと守ってやると約束するぜ」
民以下の身分である彼が偉そうにそう言うのに苦い顔をする者もいましたが、既に状況は背に腹は代えられない事態にまでなっていました。
考える時間を与えるために、ルートヴィッヒは集まった皆を帰して、その日は終わりました。

2日目。
安直かもしれませんが国宝で一番価値のあるものはどうでしょう、という高官がいたのでそれをギルベルトに見せてみることにしました。
それは大きな儀式でしか使わない、純金でできた王冠でした。色とりどりの宝石が埋め込まれたそれは日の光にあてるときらきらとまばゆく、特にその中央にある大きなダイヤのきらめきといったら、この国のどの宝石よりも美しいのです。そしてその王冠の資産価値はというと、他所の国の島のひとつやふたつ、軽々と買えるほどのものでした。
それを差し出して、ルートヴィッヒは言います。
「働きの対価として、これはどうだろうか」
それを一瞥したギルベルトはふっと鼻で笑い、いらねえよ、と言いました。
「言っただろ。金は要らないって。金でしか測れないような価値のある貴金属だって同じだぜ」
そうか、とルートヴィッヒは少しだけ気を落として王冠を宝物庫に戻しました。

3日目。
最高職の高官の一人であるキクが進言しました。
「季節の移り変わりを美しい景色を見ながら味わうのは何にも代えがたい価値があると思うのです」
景色か、と言ったルートヴィッヒはギルベルトを城の展望台に招待しました。
東には広々とした農地と観光遺跡、南には活気づく城下の街並み、西には青くきらめく海、北には険しくも雄々しい山脈が一望できる、贅沢な展望台です。
「この景色と、それが見られる展望台はどうだろう」
ルートヴィッヒはいいますが、ギルベルトは首を振りました。
「確かにこれはきれいだけどよ、俺が持ち物にしていいものじゃねえよ。お前がきちんと治めるからこんなにもきれいなんだ」
自分の支配下にあるものをそのままに人に渡すと言うことは、ギルベルトにも国民にも不実だったなと反省しながら、その日は終わりました。

4日目。
最高職の高官の一人であるフェリシアーノと別の役人の進言により、役人の娘をギルベルトの嫁にと会わせることになりました。というのも、フェリシアーノが断固として「ベッラ(美人)はなにものにも勝る宝だよ!」と押し通したので。
たしかにその娘は若く美しく、そして賢く所作もそつなくしとやかな、気立てのよい娘でした。
それを見たギルベルトは目を丸くした後あわあわと戸惑い、言いました。
「こんな綺麗なお嬢さんの人生なんて、とてもとても受け取れねえぜ。それに、こういうお嬢さんは自分の意志で生きてこそもっと価値が上がるってもんだ」
それを聞いた娘はほっとしたような顔で引き下がり、フェリシアーノは「俺だったら喜んでお嫁さんにして、毎日愛して可愛がって大切にするのになあ」とどこか不満げに言いました。

5日目。
ルートヴィッヒの親戚であるローデリヒがクローバー国から一時的に帰国してきたので、これ幸いと相談したところ彼はこう言いました。
「決まった形のあるものを差し出そうとするから駄目なのではないですか?決まった形をもたず、なお心に残る美しいものこそ価値があるのです」
ローデリヒはそう言うや否や配下に命令し、かねてより親しくしていた楽団を招集しました。
一流の粋を集めたようなその楽団を城内の劇場に集めて、彼らの音楽をギルベルトに聴かせました。
「彼らは我が国の一流の演奏家たちだ。彼らを好きな時に一流の劇場に集めて好きな曲を奏でさせる権利、というのはどうだろうか」
本来それはローデリヒが持つものでしたが、国の大事と知って、それをルートヴィヒに預けたのです。
「あー、それは結構魅力的だ。でも俺、これくらいの演奏だったら自分でできるんだぜ」
そう言ってギルベルトは持っていたカバンから瞬く間にフルートを組み立てて、劇場の壇の中央に立ちフルートの口元にそっと唇を添わせました。
そこから奏でられる音は、彼の普段のうるささとは真逆ともいえるくらいにさらさらと涼やかで穏やかで、その場にいる皆の耳元をそっと撫でるような音色で通り抜けていきました。
耳の肥えた楽団員ですら、ほうと満足げな息をつくほどにそれは美しく、これだけの音色を自分で奏でられるなら自分で楽団を所有するという考えにはいたらないだろうなという説得力に満ちていました。

6日目。
昨日のギルベルトの反応にかすかな手ごたえを感じたルートヴィッヒは、そのことをフェリシアーノとキクに話しました。
「明確な形のないもの、かあ」
「消えてしまうもの、というとやはりあれでしょうかね」
そう言って二人が用意したのは、その日手に入れられる最高級の食材をふんだんに使ったフルコース料理でした。
しゃきしゃきと新鮮なサラダ、うまみがしみだしたスープ、焼きたてのパン、やわらかくじっくりと煮込まれた肉、厳選されたブドウで造られた年代物のワイン。
ギルベルトに供されたフルコースは、節約を信念のひとつにしている王ですらめったに食べないような豪華さでした。
ギルベルトはそれらすべてを平らげながら、ルートヴィッヒが何かを言う前に言いました。
「たまーにこういうの食うのって美味いけどよ、いつも好きな時に食いたいって訳じゃねえんだよな。どちらかというと俺、もっと素朴な家庭的な感じっつーの?そういうののほうが好きだし」
満腹そうにそう言うギルベルトにルートヴィッヒは目を丸くし、並んで座っていた彼とは反対側に置いた手荷物を取り出しました。
フェリシアーノとキクが仲良く厨房に入って手伝う様子が楽しそうで、それにつられてルートヴィッヒも厨房に入った際に作った、初心者向けの簡単なクーヘンです。
「シンプルな方が好みなら、これはどうだろうか。――本当は夕食のデザートとしてだすつもりだったのだが、これだけ豪勢なもののあとに、俺が作った粗末で単純な出来のものを出すのは気が引けてしまって」
そこまで喋ると、ギルベルトのほうがその赤い瞳をまるく見開いてびっくりしていました。
「え、は?なん……?え?」
「先に言っておくが、素人が作ったものだから、どこか焦げてたらすまない」
「そんなん気にしねえよ!ほら出せ!早く!ほら、さっさと俺様によこせ!」
急激にせかす様にそう言うものだからおかしくなってしまって、ほんとうは協力してくれた2人にそれぞれ1切ずつはおすそ分けする予定だったのに、ギルベルトがぺろりと満足げに1ホール食べきるのを見守ってしいました。

7日目。
最終日です。今までいろいろと考えていろんな贅沢なものをギルベルトに見せて交渉してきたのですが、彼が価値を見出すものがさっぱりわかりませんでした。
昨日のギルベルトの反応を見る限り、食事よりも甘いもののような嗜好品を好むように見えたので、ほとんどダメ元で国一番優れたのパティシエを呼んで素晴らしいお菓子を振る舞いました。
甘い甘いお菓子の前で、ギルベルトはこの1週間で一番苦い顔を作って言いました。
「そうじゃねえんだよなあ」
「気に入らないか」
「そうじゃねえけど。――あ、これ好き。このパンケーキ」
「スペード国の王の兄弟が作っているというシロップを使ったものだな」
「え、あいつそんなことしてたのか。なあ、これ金払うから欲しい。いくらだ?」
「我が国の軍事顧問をやってくれるならいくらでも譲ろう」
「じゃあいい。あっちの国から適当にかっぱらってくるぜ」
その言葉を聞いたルートヴィッヒは、はたと気づきました。
ギルベルトはどこの国にも自由に入れて自己責任で何でもできるのでした。法に守られない民以下の存在でありながら、法に縛られない唯一の存在であるのですから。
つまり、彼は自分の欲しいものは自分で自由に手に入れられるのです。
そこまで思い至ってルートヴィッヒは深く深くため息をつきました。要するに、いくらでも難癖をつけられる無理難題を押しつけてからかわれたのだと思い至ったのです。
それでも彼は、この自由気ままなギルベルトを嫌ったり憎んだりすることはできませんでした。国の一大事をかけた問題にそんなことを考えるのは不謹慎だとはわかっているのですが、難題に応える方法を考えるのはおもしろく、ギルベルトがそれで楽しそうにするのをそばで見てこちらも楽しくなったからでした。
結果的に。
「俺お抱えのパティシエをもつことが、この国で一番価値のあるものだとは思えねえな」
ギルベルトの無情な一言で、今日も交渉は決裂したのでした。

その日の晩。
またいつの間にかギルベルトはルートヴィッヒの部屋に侵入し、窓枠に腰かけていました。そのことに関してもう文句を言う気もなく、窓際の自分のベッドに腰かけながら、何の用だ、と訊くにとどめました。
「この一週間楽しかったぜ、って伝えておこうと思ってな。俺みたいなやつにお前の思う限りの贅沢させてくれて、ありがとな」
「礼を言われることじゃない。全てはこの国のためだからな」
交渉をうまく運べなかったふがいなさに表情をこわばらせながらそう言えば、ギルベルトは少し悲しそうな顔で、ごめんな、と言いました。
「お前の一番大事なものを人質にして俺の欲求を満たそうって思ってた俺が傲慢だっただけだ。お前が自分を責めることはねえよ。それだけ言っておきたかった」
「……そうか」
「それに、ちょっとここに長居しすぎたからな。明日の朝にはここを出ようと思う」
その言葉にルートヴィッヒは青い目を丸くして驚きましたが、すぐに納得しました。いつもはここに数時間だけ居てまたふらっとどこかに行ってしまうようなことを繰り返していた彼が、1週間もこの場所に居続けたことが例外中の例外だったのです。それでも彼と過ごす1週間の楽しさが惜しくて、ルートヴィッヒは言いました。
「ほんとうに、もう行ってしまうのか」
「ああ」
「もうすこし時間をくれないか」
「だめだな。どうせもうネタは尽きてんだろ?ほかに良い手があるなら、お前はもっと早く俺に見せてるはずだ」
それを否定する言葉をルートヴィッヒは持ちませんでした。まさにそのとおりだったので。
どうしても渡すことのできないものを選択から排除して、その中で一番素晴らしく素敵なものを提示して、そのどれもに彼は首を振った1週間だったのです。
俯いて顔を覆い、ルートヴィッヒは喉から絞り出すように言いました。
「あなたの望むものを差し出すことができなくて、すまない。もう、あなたに渡せるものなんて、俺自身ぐらいしかないんだ」
その一言にギルベルトは一瞬息を止め、ぼうっと顔を赤くし、真っ赤な目をぎらぎらと瞬かせました。そちらを見ていなかったためにルートヴィッヒは気づきませんでしたが。
「今の、ほんとうか」
ギルベルトは窓枠からベッドへ、ルートヴィッヒのすぐ隣に一瞬で移動して、食い入るように尋ねました。
「な、何がだ」
「お前自身を俺にくれるって」
いつの間にか逃げられないように手首をぎゅっと掴まれ、剣呑に紅く光る眼光に射貫かれたルートヴィッヒは、顔を青ざめさせてうかつな発言をしたことを後悔しました。
「……どこかの国からの依頼か?俺を、ハート国の王の命を奪って来いという依頼でも受けたのか」
思いがけないところに着地したその思考を、ギルベルトは数瞬受け止めかねて硬直し、直後、首をぶんぶん振って否定して、ルートヴィッヒをぎゅうと抱きしめました。
「ち、違えよ!仮にそんな依頼されたとしても、国一つ譲るっていわれたって受けるもんか!俺は、俺自身の意思で『ルートヴィッヒ』が欲しいって言ってんだ。ああ、こんなこと言うつもりじゃなかったのに……!」
「この国の王の命ではなく?」
「ああ。『ルートヴィッヒ』が欲しい。『ハート国の王』じゃない『ルートヴィッヒ』の身体と心とそれ以外も全部。それが俺にとって、世界で一番価値のあるものだ」
思ったよりもずっとずっと簡単だったその答えにしばし呆然としたあと、ルートヴィッヒはギルベルトの胸が驚くほどの早鐘を打っていて、頬も体も熱いことに気づきました。そして、その背中に腕を回して、そっとその耳に吹き込むように言いました。彼と初めて出会った時からずっと秘めていた想いを。
「そんなこと、言われなくたって俺の心はずっとあなたのものだった」



それからどうなったかというと、ギルベルトがハート国の軍事顧問になる必要はなくなったのでした。
というのも、国王会議に連れていけとギルベルトがしつこくいうのでしょうがなくつれていったとき。
ルートヴィヒが挨拶するよりも先に他の3国の王の前にギルベルトはばっと立ち、指さして宣言したのです。
「俺はこの事案、ハート国に肩入れすることにする!何人たりともこの国を侵すことは許さねえし、これ以上ルッツを困らせるようなことがあったらお前たちの国を一晩で火の海にしてやるからな!覚悟して臨め」
それを後ろで聞いていたルートヴィッヒは、何を壮大なハッタリをかましているんだ、と呆れていたのですが、『ジョーカー』の恐ろしさを十分に知っている3人の王は、敵意が爛爛と光るギルベルトの双眸に怯み、こいつならほんとうにやりかねないなと確信したのでした。
そもそもの諍いの発端が「誰が世界で一番強いのか」という子供じみた言い争いだったことを思い出したスペード国とクローバー国の王は、軍隊は弱くともトリックスターであるジョーカーを完全に味方に引き入れたハート国が現在最強であるということで意見を一致させ、仲直りをしました。
つまりこの4か国は以前のように仲良くすることができるようになったのです。

どうやってジョーカーを味方に引き入れたかという質問には、「金と手間と心を尽くしてもてなしたから」という、事実ではないけど完全に嘘ではない言葉でもって濁してかわしたのですが、ルートヴィッヒは腹心の部下の二人には二人の関係を明かすことにしました。
キクは、
「そうなんですか!それは実にめでたいことですねえ。今日の夕餉は豪華にして、そうだ、お赤飯炊きましょう」
と祝福しながらご馳走の気配に思いを馳せ、
フェリシアーノは、
「え、二人ともまだつきあってなかったの!?すっごく距離が近いからもう付き合ってると思ってたよ……。それなのにギルベルト、恋人にひどいこと言うなあって、ちょっとヤな気持ちになってたんだぁ。ごめんね?」
と言って、ルートヴィッヒを赤面させギルベルトを落ち込ませました。

こうやって、大きな隔たりのあった王とジョーカーは想う人と結ばれ、身近な人には祝福され、世界も平和に保たれたまま、末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。






お題箱にて「身分差下剋上のギルッツ」というお題で書かせてもらいました。
前半はただのワイルドカードとして、後半は最強のカードとして、という立ち位置でジョーカーの下剋上感を出してみたつもりだった(伝わらないこだわり)