ヘタリア 普独





俺様はそりゃあもう疲れていた。
元から運がいい方じゃないが、今日は特別悪かった。たまには書架の掃除でもしようかと思い立ったはいいものの、ちょっとしたはずみで本棚を複数倒しちまうし、そこからこぼれた本が古すぎてページがばらばらになるしでひどい惨状になったからだ。本を修理したり、時系列で並べなおしたり、本棚を固定しなおしたりしてる間にすっかり陽もくれて、なにもできないまま夜になっていた。
自分で堀った穴を自分で埋めなおすような作業に丸一日費やしたせいで、とんでもなく疲れていて、ぼーっとしていた。だからヴェストの言葉は何かの間違いだと思ったんだ。
「兄さん、大丈夫か?俺の胸、揉むか?」
思いがけなさすぎて一瞬受け止めかねて、うっかり聞き返す。
「ふぇ、いま、なんつった?」
「俺の胸を揉むか?と言ったんだ」
間違いじゃなかった。ちゃんと聞き取れた内容がアレだった。
「あ、えっと……なんで?」
「なんでって。俺の胸を揉むと元気が出ると聞いた――なぜだかはわからないが」
そう言って離れようとするヴェストを腕をつかんで引き留める。たった今の爆弾発言はいくら疲れてても聞き逃せやしない。
「お前の胸を揉むと?元気が出るってェ?誰が言ったそんなこと!」
「イタリアだが」
なんの気もなくさらっと答えが返ってきて思わず脱力する。イタリアちゃんかぁー……あの子ならヴェストの胸遠慮なく揉んでてもおかしくねえよなぁ……普段からこいつら距離感オカシイもんなぁ……。
くっそ、昔から一緒にいる俺でも揉んだことねえのに。揉みたいって欲求は常にあるけど我慢してんのに。あー、いいなあ、イタリアちゃん。うらやましい。くっそ……。
がくりとうなだれる俺を怪訝に見下ろしてヴェストは言う。
「で、どうするんだ。。兄さんが別にいいっていうなら――」
「揉む。揉ませていただきます」
完全に偶然とはいえ、手に入ったせっかくのチャンス逃してたまるか。



部屋をくるりと見回して、俺はソファに腰かけて膝を叩いた。
「シャツの前寛げて、ここ、乗れ」
そう指示すれば、ヴェストはひどく驚いたような顔をした。立ったままその場でというつもりだったのだろうか。せっかくのチャンスをそんな雑な形で消費するわけねえだろ。きちんと堪能させろ。そんなこと口が裂けても言えねえけど。
早く、と促せば、ヴェストはこくりと首肯してシャツのボタンをぷつぷつと外していく。もうこの構図だけでちょっと勃ちそうになったけど、そこはぐっとこらえて、なんでもないふりをした。
シャツには腕を通したままボタンを全部外したのを見届けて、もう一回とんとんと膝を叩けばヴェストは少し顔を赤くしながら俺の脚を跨いで腿の上に座る。
「こ、これで、いいか……?」
「おう、ばっちりだぜ。じゃ、触るぞ」
ヴェストの首から胸までが視界一杯に広がってるというだけで既にやばい。しかもこれに触っていいんだろ。天国かよ。なんかもうこの光景だけで疲れがどうとかどうでもよくなっていた。でもこの最高のシチュエーションを堪能しない手はない。
目の前にぱんと張り出した胸に、そっと手を触れる。まず思ったのがそのすべらかさだった。乾燥とは無縁そうな手触りのいい完璧な玉の肌。
そのさらっとした感触が指に伝わった次の瞬間、その指先がふわっと沈んで驚く。力を入れない筋肉は柔らかいというのは知っている。でもこんなに心地良いものはいまだかつて触ったことがない。沈んだ指先はそのまま弾力で押し返し、でも固くはない。
そのまま手のひら全体で触れる。手からあふれるほどにたっぷりとした重量感があるのに、垂れ下がったりなどせずに張り出している。そして手のひら全体でもにもにと押しつぶせばその通りに動き、力を抜けば元の形に戻る。上に持ち上げればなすがまま持ち上がり、持ち上がったそれをぐるりと撫でるように揉み上げればそのとおりに円を描いて手のひらに従う。
端的に言えば、最高。脂肪の塊じゃあこうはいかない弾力と、生半可な鍛え方じゃつかない筋肉の豊かさ。それらがすべて今俺の手中にあって、好きにしていいという事実が征服欲を満たす。
上へ、下へ、回す様に、捏ねるように。散々に揉みしだくのに夢中になっていて、どれだけの時間そうしていたかわからない。
時折、まだするのか、と声がしたが、まだだ、と手を止めないまま返した。
するとじわじわと湿り気を帯びて、手のひらに吸いつくような肌に変わっていった。それが俺の手を求めているようで、これがまたたまらない。
その高揚にこちらまで手が熱くなって、その汗で不意にずるんと滑った。反動でヴェストの乳首が意図せず手のひらを掠めて戻る。瞬間、ヴェストが高く喘いだ。
「す、すまない。いきなりで、びっくりして……」
そう言ってヴェストは口を手で覆った。これ以上何か声を出すまいとして。
そんなことをされると、無理にでも声を出させたくなる。さきほどを同じように胸を大きく揉みながら、わざと乳首を掠めるように指を動かす。そのたびにヴェストは、堪えたような喘ぎを漏らした。口は押さえつつも、ん、ん、と鼻にかかった声がダイレクトに耳元で聞こえて興奮を煽られる。いつしか俺の目的はその声をもっとクリアに聴くことになっていた。
胸を揉むことすらおろそかに、指で乳首を押しつぶすようにくりくりといじる。痛さと気持ちよさの狭間に押し込むように。はたしてそれは成功したようで、口を押えていた手はいつしかたらりと下がって、遮るもののない口は絶え間なく喘ぎと荒い息を漏らした。
こちらも煽られるように息が荒くなる。だんだんと紅潮していく白い肌が目の前に広がっていて興奮しない訳がなかった。さらされる首筋にかみつきたくてしかたなくて、それをぐっとこらえたせいで奥歯からぎりっと音がしたのを遠い意識で聞いた。

不意にヴェストの背中からずるっと力が抜けて、ソファに手をついた。
「も、もう、やめ……ッ」
姿勢が崩れてずれたせいで、ヴェストの腿に勃ちあがった俺のものがごりっと強く擦れ、思わず呻く。
「う、あっ……」
「な、えっ……!なん……!?」
俺のを認識したことに驚いたヴェストに、俺こそが驚いた。あれだけやらしい触り方をしていて俺が何とも思ってないとでも思っていたのだろうか。そうだとしたらとんでもない鈍感だし、ちょっと危機意識を教え込まなくてはならない。
そしてふと見下ろすと、ヴェストもズボンの前を随分苦しそうに膨らませていた。
同じ気持ちだと知ったなら躊躇う必要はない。俺の屹立をヴェストの内腿の根元にぐいぐいとねだるように押し付ける。
ヴェストの顔はすっかり真っ赤になっていて、瞳はとろとろと情欲に濡れていた。あいつが見る俺も似たような眼をしているのだろう。
「きついだろ、楽にしてやるよ。一緒によくなろうぜ」
弟のことを第一に思っているようでいて自分の欲求を丸出しにしたその誘いに、純粋で愛すべき弟はとろんとした顔のままこくこくと頷いた。



妙なきっかけで兄弟から恋人へステップアップしたその晩。
イタリアちゃんは今までヴェストの胸を触るとき、服の上から2,3秒だけだったと聞いた。
「いくら友人だとはいえ、簡単に素肌を触らせるか!に、にいさんの頼みだったから……!」
羞恥に目元を赤くしてそう言うヴェストに、そして誤解で嫉妬してしまったイタリアちゃんにも、全面的に突っ伏して謝りたくなったが、誤解とはいえ最善の結果を引き出せたのでよかったと思っておくことにしよう。






「胸筋を揉むことで相手になにかしら良い効果が生まれてることをぼんやり認識してるどいちゅさん」というフォロワさんのつぶやきに触発されて。
どいちゅさんに「大丈夫か?おっぱいもむか?」って言われたら揉まざるをえない。