ヘタリア 芋兄弟





国の化身として生きる彼らには様々な仕事がある。通常業務なら、政治の事務処理、経済の動向調査、国外での会議や交流、などなど。イレギュラーなものだと、歴史調査への参加、観光案内なんていうのもある。
そんな彼らのイレギュラーな仕事の一つに、写真撮影というものがあった。
その名の通り、身なりを整えて写真を取るのである。指定される衣装は軍服が多いが、セミフォーマル・カジュアル・制服もあり、稀に着ぐるみなんかもあった。
この写真を何に使うかというち、ポスターやカードなどにしてグッズとして売り出しているそうだ。そういったグッズを買い求めるコレクターが世界中にいるらしく、その売り上げは全額チャリティ資金にするということなので、断る者はあまりいない。
とは言え、スケジュールの都合や知名度などを加味してある程度の参加率の偏りはあった。



「俺様ってそんな暇そうに見えるかぁ?」
プロイセンはひとりごちながら更衣室でシャツのボタンを留める。
昔馴染みはともかく、世間一般に顔が知られているとは言えない方であるプロイセンも、このチャリティ撮影の常連の一人だ。偏に、引退の身である故に暇だからである。家事と犬の散歩と読書くらいしかすることのない彼は、スケジュールの都合をつけるのが非常に楽であった。
「別にいいけどよぉ?自撮りじゃいけねえのかな、いけねえんだろうなあ……なんだこの指定」
ネクタイを緩く締め、シャツの裾は出して、袖は雑に捲る。しかしベルトはしっかりと締めて、ブーツのかかとや縁もぴしりと整えた。胸ポケットの紋章や軍帽に似た帽子は軍服に似るが、今回の衣装のモチーフは警察官らしい。こんな格好の警官などいたらとんだ不良警官だな、と案外几帳面なプロイセンは思っていた。

「プロイセンさん、こっち目線ください!はい撮りまーす」
フラッシュがぱしゃりと音を立てて光る。ポーズの指定を変えて、同じことを言われまたフラッシュ。もう何十回もされて、目がちかちかするし疲れてきた。表情固いです、もうすこし柔らかく、なんて言われるが固くもなるってものだ。本業のモデルではないのだから。
スタッフが写真のデータを見ては首をかしげているのも気に食わない。このかっこいい最高の被写体を前に納得いかないってなんなんだ!
「――うーん、いったん休憩でーす」
現場監督の掛け声で一旦場の空気が緩んだ。
ふう、とため息をついてステージから降りたプロイセンは、スタジオ端のパイプ椅子にどかりと腰を下ろす。そして大きく息をついて、手にしたペットボトルの水を一口。
すると、
「おつかれ、兄さん」
後ろから思いがけない声がかかって口にしたものを吹き出しかけた。
「ぶふぉ、ヴぇ、ヴェスト!?なんでここにいんだよ!」
「仕事が早く終わったからな、見に来た」
「ケセセ、お兄ちゃんの仕事っぷりが見たくて早く済ませてきたとかじゃねえだろうな?」
冗談交じりにそう言えば、ドイツは黙り、青い瞳がついとそっぽを向いた。嘘の苦手なこの弟は、ごまかし方すらへたくそだ。少し紅い頬につられて、こちらも少し照れる。
しかし、そんなに気にかけてもらえたと思えば気分はいい。
「なんだよ、授業参観かよ!じゃあ張り切らねえとな!」
「子供か!――いや、別にそこまで気合いを入れなくていいだろう。普段のままで」
「へ?」
目を丸くすると、ドイツは1歩引いてプロイセンの全身をじっと見、納得するように得心するように頷いた。
「うん、やはり兄さんはそういう恰好が似合うな。ファッションのことはよくわからないが、カジュアルとフォーマルの融合とでもいうのか?とても兄さんらしいと思う。几帳面なのか荒っぽいのかわからない感じが特に」
「お、おう……。うん?それ、ほめてんの?」
「ほめてるつもりだが」
「かっこいいか?」
「ああ、かっこいいぞ」
気心のしれた弟のまっすぐなその言葉に、プロイセンは思わず相好を崩した。
「ヴェストが保障するなら完璧だな!じゃあ見てろよ、お兄ちゃんの仕事っぷり!」
そう言って立ち上がったと同時に、ちょうど休憩時間が終わる掛け声が聞こえた。



「目線こっちくださーい。手は帽子にそえて、そう、はい撮りまーす」
プロイセンの視線の先にはカメラ、そしてさらにその奥にはドイツがいる。照明の奥で暗がりのなかにいながらも、どこか上機嫌そうにちいさく微笑んでいる弟につられるように、プロイセンもふっと笑う。
瞬間、ぱしゃりとフラッシュが焚かれる。少しして、もう一度。

「OKです、お疲れ様でした」
監督から終了の指示が出たのは、そこからほんの数分後だった。






コンビワンドロ【東西組】【警察官】で書いたものでした。警官といえば4巻特装カバー!
一応腐のつもりはないけど元々がギルッツ脳だからなんとも……くっついてなくてもうちの芋兄弟相互ブラコンだから……